新しい価値観で活躍!「アジアンリーダー」の存在感
お互いを認め合うことに寛容であろうとする考えが世界的なスタンダードになりつつある今、世界を見渡すとアジア系の、しかも女性の活躍に目が留まります。各界の賢者とその背景を検証してみると、新たな時代のリーダーに求められる資質が浮かび上がってきました。
Preciousが注目する女性たちと共に、世界に羽ばたくアジアンリーダーたちの実態に迫っていきます。
アジア女性の感性が新時代のリーダー像と見事にマッチする
人的資本経営、女性活躍、ダイバーシティ…。そういわれて久しい昨今。人事においてもマイノリティを組織に受け入れることは、もはやスタンダードともいえます。N.Y.でコーディネーターを務める高久純子さんは、ジェンダーや人種の平等化が進んだことで「ハーバード大学などのアイビー・リーグに見られる人種の忖度(優秀なアジア人を制限する)を廃止する動きもある」と語ります。こうした対応は社会や企業内でも急速に進められるように。とはいえグローバル企業など、アジア女性の台頭はまだまだ少数派といわざるをえません。
そうした厳しい現実と向き合いながらも、世界を舞台に活躍するアジアンリーダーについて、『Forbes JAPAN』執行役員でWeb版編集長の谷本有香さんにうかがいました。
「多様性を受け入れ、ジェンダーを超えたところで勝負をしないと生き残れない時代になった今、それを象徴する事例のひとつにインド人リーダーの台頭が挙げられます。もともとインドには優秀な人材が豊富で、さらに多民族国家ゆえに多様性を許容できる土壌があったのでしょう。例えば、その企業が社会に対してどのように貢献できるかを軸に据えた、パーパス経営で業績を上げた『ペプシコ』の元CEOインドラ・ヌーイさんは、まさにアジアンリーダーの代表格です」
パーパス経営を掲げ米トップ企業を牽引|Indra Nooyi(インドラ・ヌーイ)
1955年生まれ、インド出身。長きにわたり「ペプシコ」のCEOを務めた。米誌『フォーチュン』が選ぶ有力企業のなかで、数少ない女性経営者として知られる。非白人女性のロールモデルであり、現代において最も重要な女性リーダーのひとり。
こうしたパーパス経営を起点にSDGsに取り組むことが世界的潮流の今、アジア女性の存在感は今まで以上に増している気配も。
「N.Y.で活躍するアジア女性たちの取材で実感したのは、彼女たちはおしなべてスマートで、礼儀正しく、機転も利くため、組織のなかで重宝がられている側面がある」と高久さん。
アジア女性は控えめで自己主張をしないと思われてきたけれど、その思慮深さや細やかな気配りこそが新たな時代のリーダー像に重なります。
世界と戦うという気概を感じる韓国とインドネシア
谷本さんは、少し視点を変えると新しい見え方があるとも。
「自国で企業のトップに上り詰め、そこから世界を舞台に活躍する女性が増えています。特に変化を感じるのは韓国とインドネシア。韓国の証券会社『KB金融グループ』のトップには、パク・ジョンリムさんという女性が就任しています。彼女は就任後すぐに過去最高益を出した実力者。
インターネット企業の最大手『NAVER』のCEOチェ・スヨンさんは、5年以内に売り上げを2倍以上にするという、野心的な目標を掲げる頼もしい女性。ミレニアル世代の彼女をCEOに当てた、チャレンジングな人事にも韓国の本気を感じます。また、著しい成長を遂げているインドネシアでは、男性中心の鉱山会社のような企業やインフラ産業のトップに、女性が進出しているのもおもしろいですよね。過去にアジア通貨危機を経験した両国だからこその人事政策。本気で自国の発展を目指す気概のある企業では、おのずとジェンダーを超えた人事が行われているのでは」
ハリウッドに迎合するのではなくアジアの国々が自国の文化で世界と勝負し、認められ始めた
一方、エンタメ産業におけるアジア女性を取り巻く環境について、海外の映画祭を知り尽くす映画ジャーナリストの中山治美さんにうかがいました。
「映画業界でも監督やプロデューサーといった、実権を握る地位につく女性の比率は3割程度で、アジア女性はさらに少ないのが現状です。注目されたとしてもマイノリティにスポットが当てられることが多いなか、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督は、女性らしさというカテゴリーから解放され、監督自身の個性や作風で評価されています。L.A.を拠点に活動する日本人のHIKARI監督も同様。ダイナミックでアウトローな世界観も描ける、まさにジェンダーを超えた活躍を見せています」
アジア人女性初のアカデミー賞受賞|Chloé Zhao(クロエ・ジャオ)
1982年生まれ、中国出身。『ノマドランド』で、アジア人女性として初のアカデミー賞監督賞をはじめ、作品賞、主演女優賞など、3冠を獲得するという偉業を達成。マーベル映画『エターナルズ』では、自身初となるアクションにも挑戦している。
ハリウッドからも依頼殺到。新進気鋭の日本人映画監督|HIKARI(ヒカリ)
日本出身。短編映画やCMが中心だったが、初の長編映画『37セカンズ』で第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門の観客賞(日本人初)と国際アートシネマ連盟賞を受賞。'22年、日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE』の監督にも参加。
また、中山さんは韓国コンテンツの世界的ヒットについて、こうも分析します。
「今、韓国のエンタメ産業を語るのに外せない人物が、『CJグループ』の副会長イ・ミギョンさん。『パラサイト 半地下の家族』のプロデュースでも知られていますが、彼女のすごいところはハリウッドに迎合せず、自国の文化で世界と勝負しているところです。これは配信が市民権を得たことも大きく影響していて、世界に才能を見つけてもらえる可能性が広がったともいえます。長い目で見たら、自分たちの国のカルチャーが世界に認められてこそ、持続可能な生き残り作戦になるのだと思うのです」
韓国エンタメを世界に広めた立役者|Miky Lee(イ・ミギョン)
1958年生まれ、韓国系アメリカ人。韓国の総合エンタメ企業「CJグループ」の副会長。韓国のエンターテインメント産業発展のために投資と支援を続け、第50回国際エミー賞では、韓流の世界的な拡散と文化産業の発展に寄与したとして功労賞を受賞。
アジア女性の今後の可能性について谷本さんは、
「グローバル企業に勤める人々にリサーチをした自社調べの満足度調査によると、アジア女性たちは自分たちが差別を受けているという感覚が意外にも低いことがわかりました。仕事にやりがいを感じ、アイデンティティに誇りをもつ女性が増えていることに勇気をもらえる結果。未来を担う若いアジア女性たちがやがてリーダーになったとき、自身の経験をロールモデルに承継していけたら、それはアジア女性の強みになりうると確信しました」と語ります。
アジアンリーダーの存在感は、今後も見逃せません。
- COOPERATION :
- Getty images
- EDIT&WRITING :
- 正木 爽・宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)