豊かさの意味を知る、どんな場所で、どう暮らしていきたいのか。年齢もキャリアも重ねてきたプレシャス世代にとって、それは豊かな人生を送るための、大切な選択のひとつ。雑誌『Precious』6月号では、南仏の小さな街で暮らすことを選んだ3人の穏やかで、より自分らしく過ごす日々を取材しました。

今回は、ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのお住まいをご紹介します。

ネージャ・タナンさん
ファイナンシャルプランナー
(Neerjya Tannan)インド出身。ジョージ・ワシントン大学で経済を専攻、建築も学んだがファイナンシャルビジネスの道へ。離婚後に単身渡仏し、大手化粧品メーカーに就職。現在は独立し、ユゼスを拠点にファイナンシャルプランナーとして活躍。

「人々の暮らしが見える街で自分自身もスローダウン。ゆっくりと流れる時間こそ最高の贅沢です」

スイス・ローザンヌに駐在中、近距離だった南仏に、週末ごとに遊びに来ていたことがきっかけで、いつかこのあたりに家を構えたいと思っていた、と話すネージャさん。

「外交官の父の仕事の関係で、3年ごとにイギリス、フランス、マダガスカル、モロッコ、ワシントンと移り住みました。フランス人の夫との結婚を機にストラスブールへ移住、離婚後は単身パリへ。N.Y.、ワシントン、スイスへの転勤を経て、15年前、南仏に念願の別荘を購入しました。この別荘のほかに、3年前には市街のアパルトマンも購入、ユゼスの街中とここを行き来しています」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
石壁に鮮やかなグリーンが映える、一軒家。「こぢんまりとしているけれど起伏があってワイルド、季節の花が彩りを添えるチャーミングな庭がお気に入り」とネージャさん。

2年間で30軒ほど南仏の物件を見て回り、最終的に選んだのは、ユゼス中心地から車で15分ほどの村にあるこの別荘でした。

「南仏は海外の人が投資物件として買うことも多く、人の気配のない村もあります。でも、ここは違いました。人々がきちんと暮らし、昔ながらの日常の風景があるんです。ムッシュたちが夕方になると小さな広場のベンチに集まっておしゃべりしていたり、マダムが籠を持って買い物をしていたり。昔の映画のような光景がとても美しかった。静かで自然豊か、そして人々の暮らしがしっかり見える街に惚れ込んだのです」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
ワイルドでチャーミングな庭

そんなネージャさん、この家のテーマは?と尋ねると、「南仏らしい家」と即答。その言葉どおり、オープンで明るく、開放的な空間が広がっています。使い込まれた木の質感や、ナチュラルな麻の素材、石、タイルなど自然素材を中心にインテリアを構成。キッチンから通じるパテオから見えるグリーン、ワイルドでチャーミングな自慢の庭…。

「自然と共存する心地よい家で、ゆったりと流れる時間の贅沢さ、本当の意味でのリラックスを知りました」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさん
「南仏がテーマ」というだけあって、明るく開放的で、ナチュラルな素材が目を引くキッチンは、ネージャさんのこだわりが随所に。白い棚は、かつてコンフィチュール店で使用されていたディスプレイ棚。ベンチや椅子、アートのように飾られている窓枠(!)など、すべて、大好きな蚤の市で購入。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
キッチン
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
床の鮮やかな柄タイルはもともとあったものをそのまま使用し、その色に合わせて扉も淡い水色に。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
キッチンから続くパテオでお茶やランチを楽しんでいる。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
中央の作業用カウンターと、大人数が腰掛けられる大きなテーブルは、どちらも昔の農家の家庭で実際に使われていたもの。

「実際に使われていたモノが好き。そこに人の気配、暮らしの記憶があるからでしょうか」

「歴史的建造物に指定されている建物なので行政の縛りが厳しく、思うように改築ができなかったのですが、それもいい思い出です。可能な範囲内で、イタリア人建築家の友人のアドバイスを受けながら、2階建ての建物を3階建てにリノベーション。さらに、暮らしやすいようにキッチンやバスルームなどは機能的でモダンな要素を加えました」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
もとはシガールームとして使用されていた部屋はサロンに。深みのあるダークグレーの壁に、趣味で集めていたアンティークミラーが映える。蚤の市で見つけたお気に入りの肘掛け椅子に座って、読書をしたり音楽を聴いたり。ランプや椅子、チェストなどもすべてアンティーク。

インテリアは、石の壁や天井の木の梁など、もとの造りが生きるよう、使い込まれた木の質感や麻、石、タイルなどナチュラルな素材のものを配置。家具は、蚤の市で見つけた“暮らし”が見える古いモノを中心に構成しています。

「オブジェやアートで家をデコレーションするよりも、実際に使われていたモノをアレンジして置くことが好きですね。そこに人の気配、暮らしの記憶があるからでしょうか。なにより最高のインテリアはグリーンです。窓から見える自然の木々は、代えがたいアートともいえます」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
サロンの棚もアンティーク。中には蚤の市で手に入れた、昔の薬瓶がずらり。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
庭から続く階段を上るとプティ・バッサン(小さな池)が。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
ネージャさんが大好きな小さな庭で。丸テーブルで過ごすティータイムも癒しの時間。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
キッチンと主寝室をつなぐ踊り場には、19世紀の古い椅子を配置して、アクセントに。

子供時代は機能的で快適、便利なアメリカで育ち、結婚後フランスに暮らしてからは、使いやすさや機能性よりも「美しきスタイル」を重視するフランスの文化を体感したというネージャさん。

「ひとりになってからは、コンフォタブル、シンプル、ナチュラル、ピュアなどがキーワード。自分が心地よいと思うインテリアを楽しんでいます。いろいろな場所に暮らしたことで、フランス人のエスプリとアメリカ人の頭脳をもっている、とよく言われますが(笑)、そんな私がいちばん心地よい場所だと選んだのがユゼスです。何度も大都会で暮らしてきましたが、スピード、人の多さ、騒音。便利で刺激的だけれど、すべてがストレスだったと今は思います。ここはゆっくりと時間が流れ、じっくり考えることができる。豊かな自然が心と体をほぐしてくれ、よりポジティブになった気がしています」

ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
重厚な石壁の主寝室。ベッドヘッドは、なんと、インドの雑貨店で使われていた棚を蚤の市で見つけ、石壁に埋め込んだそう! 手前の椅子やテーブルがわりのボックスも古いもの。壁にさりげなく立てかけてあるのは、こちらも蚤の市で手に入れた本物のドア。ブロカント(古道具)使いのヒントにも。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
主寝室。ベッドと向かい側の石壁には、インドの古い窓枠に鏡を入れて設置。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
ゲストルーム。モダンなベッドに肌触りのよいリネンを。エジプトの装飾的なシャンデリアがポイント。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
ゲストルームの一画に置かれた小さなテーブルもアンティーク。窓からは庭も見える。
ファイナンシャルプランナーのネージャ・タナンさんのご自宅
ゲストルームの小さなベランダ。こちらからも庭を見下ろせる。

アンジェリカさんのHouse DATA

場所…ユゼス中心地から車で約15分。
建物…歴史的建造物に指定されている一軒家。別荘として造られたもの。
間取り…サロン×3、キッチン、ダイニング、パテオ、主寝室、ゲストルーム×2、バスルーム、トイレ
家族構成…ひとり暮らし
訪れる頻度…ユゼス市街のアパルトマンを中心に、この別荘を数週間ごとに訪れている。
ここに決めたいちばんの理由…家を一歩出ると大自然がある幸せ。昔ながらの人々の暮らし、日常が見えるところ。

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PHOTO :
篠あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
鈴木ひろこ