豊かさの意味を知る、どんな場所で、どう暮らしていきたいのか。年齢もキャリアも重ねてきたプレシャス世代にとって、それは豊かな人生を送るための、大切な選択のひとつ。雑誌『Precious』6月号では、南仏の小さな街で暮らすことを選んだ3人の穏やかで、より自分らしく過ごす日々を取材しました。

今回は、インテリアデザイナーのカリーヌ・ブラウンさんのお住まいをご紹介します。

カリーヌ ブラウンさん
インテリアデザイナー
(Carine Brown)ドイツ生まれ。父の仕事の関係で4歳でパリへ。大学では法律を専攻。卒業後、美しいものが好きだった母の影響でインテリアの仕事に携わる。結婚を機に渡米、バージニアへ。離婚後40歳で現夫と再婚、マンハッタンのペントハウスに暮らした後、ユゼスへ移住。

「便利ではない暮らしは、自ら考えて動くことや自分の力で生きるたくましさを与えてくれました」

「この家を購入した20年前は、一面、野原でした。外科医の夫はN.Y.に残り、私は小さな子供たちを連れて先に移住、ひとりで家を整えました。キッチン、子供部屋、寝室、リビング、プールや庭まで少しずつ。インテリアデザイナーとしての知識と経験を生かしながら、自分のアイディアでデザインし、ゼロからつくり上げていくのが本当に楽しくて。庭が完成するまで6年もかかったのよ」

インテリアデザイナーのカリーヌ・ブラウンさん
自然と動物を愛するカリーヌさん。インテリアも花や動物モチーフが多数。

そう笑いながら広大な敷地を案内するカリーヌさん。総面積約1ヘクタールに及ぶ邸宅は、1780年代、Ferme du Château(農園の城)として建てられたもの。リビングのアーチ形の天井はそのまま生かし、全面に大きな窓を配置し、開放的に。キッチンは機能性重視でアイランド型の台を設置するなど、シャトーの重厚な雰囲気を、現代の暮らしに合うよう工夫したのだとか。

インテリアデザイナーのカリーヌ・ブラウンさんの自宅
いかにもシャトーらしい石造りの天井や壁。3つの「間」に分かれていて、それぞれインテリアを変えながら、リビングとして使用。家具やオブジェ、アートなどはすべて、旅先で出合ったもの。インドやモロッコ、トルコ、シリアほか、パリやニューヨークなど、訪れた地、暮らした土地のすべてが絶妙にミックスされている。

「大都会マンハッタンのコンビニエント(便利)な暮らしと、ここでの暮らしは真逆。土や石、木や花など自然と対峙しながら、自分で考え、動かなければ何も解決しない生活のおかげで、自分の力で生きるたくましさを身につけました」

インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
農園の城らしく、いたるところに馬の絵が。
インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
寝室にも馬の絵。
インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
最初に手掛けたという主寝室は、明るい光を取り入れたくて全面を窓に改装。
インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
キッチン。たっぷりの収納と、広々とした大理石の作業台。使い勝手がよく、モノトーンの床とも相まって、モダンな空間に。

「このユゼスの広大な庭はしっかりと土に根ざしていて、自然との共存を実感できます」

インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
敷地内のプールハウスへ向かう小道で、散歩を楽しむカリーヌさん。途中、小さな池と噴水をつくり、鯉を泳がせているとか。「豊かな自然の中に身を置くことは最高の贅沢だと思います。便利なもの、リッチなものも素敵だけれど、自然の美しさにはかなわないと思うのです」

土の香りがする暮らしに憧れて、何度も旅した南仏で物件を探し始め、この家のワイルドな環境に魅せられたというカリーヌさん。

「私にとって庭は、家の重要な要素のひとつ。植物の生き生きとした姿、四季折々の表情は、ポジティブなパワーを与えてくれます。マンハッタンのペントハウスにも屋上に庭がありましたが、このユゼスの広大な庭は、しっかりと土に根ざしていて、自然との共存を実感できるんです」

インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
広大な庭
インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの愛犬
カリーヌさんの愛犬

何もなかった野原に植樹し、花を植え、プールを造営。かつて使用人の部屋だった別棟をゲストルーム兼プールハウスに改築しました。

インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
美しいプールが際立つ庭もカリーヌさんがデザイン。「フランス庭園が好きなので、敷地を樹林で囲み、花壇や並木、通路などを左右対称に配置して、奥行きと広がりを感じられるようにしています」。

「朝は鳥たちのさえずりで目覚め、紅茶を飲んだら厩舎へ行き、馬たちをブラッシング。乗馬後、シャワーを浴びてプールハウスで読書をするのが至福の時間です。ランチの後は少し仕事をして、夫と夕食をすませたら、それぞれ好きな場所で過ごします。自然と動物たちとの穏やかな日々はあまりに美しく、かけがえのないものだと実感しています」

インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブランさんの自宅
プールハウスは、自然と溶け込むような優しい若草色の壁が特徴。布のコレクターでもあるカリーヌさんらしく、アフガニスタンの手刺繍入りの布でつくられたクッションがアクセントに。
インテリアデザイナーのカトリーヌ・ブラウンさんの自宅
「N.Y.時代から、ウズベキスタンやトルコ、シリアなどの手の込んだ美しい刺繍や柄の布を集めていました。洗練されたフレンチタッチとオリエンタルな要素のミックスインテリアが好きなのは、フランス人の父、アルジェリア人の母をもつ自分のルーツに由来しているかもしれません。インテリアに限らず、何事も“好き”という自分の直感を大切にしています」

カリーヌさんのHouse DATA

場所…ユゼスの中心地から車で約20分。
建物…1780年代に建てられたFerme du Château(農園の城)。
間取り…ダイニングキッチン、リビング×3、仕事部屋×2、主寝室、子供部屋×2、ゲストルーム、バスルーム×4、プールハウス(兼ゲストハウス)
家族構成…夫とふたり(子供たちは独立)、犬3匹、馬3頭、鳥、鯉
訪れる頻度…20年前に移住し、こちらがメインハウス。同時期にモロッコにも別荘を購入。現在、そちらの改装工事に夢中。
ここに決めたいちばんの理由…土の香りがする場所。豊かな自然と歴史ある建物のコントラスト。敷地をゼロから自分でデザインできる面白さ。

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PHOTO :
篠あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
鈴木ひろこ