独特の色や見た目を表現!「異名」に込められた深い宝石愛
ピジョンブラッド、コーンフラワーブルー…。この言葉を聞いて、ルビーやサファイアが思い浮かぶ人はかなりの宝石通だといえるでしょう。宝石のなかには、圧倒的に美しい色や見た目、発見された土地を讃えた「異名」をもつものが存在します。そうした異名の大半はなぜか意外なもので、名の由来に興味が尽きることはありません。
そもそも宝石には、鉱物名、宝石名、別名、コマーシャルネーム(流通名)、愛称など、いくつもの名があります。例えば、アフリカの夜空の色といわれるタンザナイト。その鉱物名はゾイサイトといいますが、宝石名はブルーゾイサイト、そして別名がタンザナイトです。別名はコマーシャルネームとして、世界のトップジュエラーでも使用されてきました。また、別名は宝石の品質を示す鑑別書の備考欄にも記載されるため、それが正式名称だと誤解してしまう人も多いようです。
それに対して異名は、宝石と縁(ゆかり)の深い土地に残る伝説や、宝石収集家やバイヤーといった宝飾界の人々によるマニアックな表現から生まれたものが多いように思えます。宝石への愛を感じずにはいられない異名と、名に秘められた物語。それは必ずや、宝石の新たな魅力を知る一助となることでしょう。
最高品質のルビーの色は…「ピジョンブラッド」|“鳩の血” に例えられる濃く鮮やかなルビーの理想的な赤
マルコ・ポーロが欧州にもたらしたと伝わるルビー。その名高い産地だったビルマ(現ミャンマー)は19世紀に英国の植民地に。英国人はモゴック地方の真紅のルビーをこよなく愛し、その深く鮮明な赤を血の色に例えて「ピジョンブラッド(鳩の血)」と呼び、讃えました。
カシミール産のサファイアの青は…「コーンフラワーブルー」|英国王室をも夢中にさせた柔らかくノーブルな「矢車菊の青」
インドとパキスタンの国境に位置するカシミール。かつてその鉱山で産出されたサファイアは、「コーンフラワー(矢車菊)ブルー」と呼ばれました。その柔らかく上品なブルーは英国王室をも魅了。カシミール産サファイアは、今も伝説の宝石として語り継がれています。
エメラルドの詩的な表現は…「ジャルダン」|エメラルドの内包物がつくりだす石の中に広がる「美しい庭園」
インクルージョン(内包物)によって産出地がほぼ特定できるエメラルド。内包物は宝石にとって個性であり、履歴書のようなものともいえます。必ずしもよくないものではなく、フランスではエメラルドの内包物を「ジャルダン(庭)」と、ロマンティックに表現しています。
クンツァイトの最初の名は…「カリフォルニア・アイリス」|清麗なパープリッシュピンクがアイリスの花を想起させて…
1902年、高名な宝石学者のクンツ博士は米国カリフォルニア州でパープリッシュピンクの鉱物を発見。その宝石は色がアイリスの花に似ていたことから、当初、「カリフォルニア・アイリス」と呼ばれました。それが、のちに博士に敬意を表して命名された「クンツァイト」です。
水晶の中の金色の糸は…「エンジェル・へアー」|「天使の髪」を内部に宿すドラマティックなルチルクオーツ
針状のルチル(金紅石)結晶が、クオーツに内包され、神秘的な景色を描く「ルチレイデッドクオーツ(針水晶)」。市場ではルチルクオーツの名で知られています。ルチルの形状や状態、見た目の印象によって、「エンジェル・へアー」「ヴィーナス・へアー」と呼ばれることも…。
ラピスラズリの瑠璃色は…「ウルトラマリン」|起源は古代エジプトまで遡る海を越えてやってきた「青い宝石」
古代エジプトですでに宝石として使われていたラピスラズリ。欧州にはアフガニスタンからシルクロードを通ってもたらされました。のちに、地中海を越えて運ばれるようになると、ラピスラズリは海を越えてきたという意の「ウルトラマリン」と呼ばれるようになります。
鮮やかなブルーのアクアマリンは…「サンタマリア」|サンタマリア鉱山に由来する鮮やかなブルーのアクアマリン
かつてブラジルのサンタマリア鉱山では、目を見張るほど鮮やかなブルーのアクアマリンが産出されていました。それが「サンタマリアアクアマリン」です。しかし、伝説の鉱山は閉山に。現在は鉱山名だけが、特に鮮やかなアクアマリンを讃える名として残っています。
神話にちなんだアメシストの別名は…「バッカス・ストーン」|酒神バッカスが石に変えた少女アメシストに思いを馳せて…
アメシストという宝石名は、ギリシャ神話に登場する酒神バッカスのいたずらによって、石に変えられてしまった少女アメシストの名にちなんだもの。さらに、アメシストには同じ物語から生まれた「バッカス・ストーン」という異名もあり、欧州ではよく知られています。
澄んだ空色のターコイズは…「スカイ・ストーン」|世界中が「天の宝石」としてきた崇高な自然の力を宿す宝石
紀元前から世界各地で装飾品として使われてきたターコイズ。アメリカ大陸の先住民、ネイティブアメリカンの世界では特に神聖な宝石とされ、儀式に欠かせないものでした。天に祈りを捧げるために用いられたことから、「スカイ・ストーン」という異名をもっています。
●登場するジュエリーは、過去のPrecious、和樂に掲載した記事からの転記のため、現在では購入できないものも含まれております。ブランドへのお問い合わせはご遠慮ください。
※文中の表記は、PT=プラチナ、WG=ホワイトゴールド、YG=イエローゴールド、PG=ピンクゴールド、RG=ローズゴールド、DIA=ダイヤモンドを表します。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- PHOTO :
- 戸田嘉昭
- EDIT&WRITING :
- 福田詞子(英国宝石学協会 FGA)、喜多容子(Precious)