人のパートナーとして、長く愛されてきた犬。空前の猫ブームといわれる今、仕事をもつ大人の女性たちが、あえて猫より手間のかかる犬を飼うということは、それだけ大きな喜びがあるからなのでしょう。ときにライフスタイルを180度変えてしまうほど、存在感のある犬との暮らし。大人の女性たちはどのようにして愛犬たちと向き合い、豊かなプライベートライフを送っているのでしょうか。
ご紹介するのは、女優・寺島しのぶさんと、個性豊かな愛犬2匹の暮らしです。
どこか自分に似ている…愛犬たちとの18年
寺島さんのお宅を訪ねると、黒柴の姫ちゃんが、そろそろとやってきて、慎重に皆の匂いを嗅いでいく。姫ちゃんは18歳の老犬で、もう目が見えず、耳も聞こえないので、匂いで来客を確認し、出迎えてくれたのです。メイクをする寺島さんの足元には、フレンチブルドッグの捨助(すてすけ)くんが。ずっと寺島さんを見つめたまま動きません。口元には、なぜかご飯粒がひとつ。
寺島さんの実家には、ずっと大型犬がいたのだといいます。そして、27歳でひとり暮らしを始めたとき、百貨店の屋上にあるペットショップで、当時はまだ珍しかった黒柴の3か月の子犬の姫ちゃんと出会いました。「柴犬の子犬ってムクムクしているのに、とてもやせていて、抱っこしたらすごく軽くて…。愛おしくなり、すぐに連れて帰りました。なんとなく自分に似ていると直感したのです」
姫ちゃんが5歳のとき、捨助くんもまた、街のペットショップで売れ残っていたのを不憫に思い、持ち帰りました。「気になって見にいったら、店の裏で点滴を受けてぐったりしていました。6か月もいろいろな人に触られて、かわいそうに、ストレスで疲れたのでしょう。病弱だから、お店の人もすすめなかったのに、その場で“連れて帰ります! ”って」。寺島さんの優しさ、情の深さがうかがえます。
予想どおり、捨助くんは手のかかる子でした。病気が続き、性格も卑屈。結婚して、生まれてきた子供を、ライバル視することも。「姫ちゃんは子供に優しかったけど、捨ちゃんは気に入らなくて。それでも飼い主が大切にしているものがわかるから、本気では噛まない。そうするうちに、子供も動物に優しくできるようになって」と、寺島さん。
子供にとって動物がいる環境は、免疫力がつき、心にもいいといわれています。老犬になった今も、一日2、3回散歩をさせ、休日には千葉の海や、軽井沢の実家の庭で遊ぶ。家族3人と2匹の生活が、女優としてますます充実する寺島さんの日常を豊かなものにしているようです。
犬に縛られているとは思う。だけど、なるべく一緒にいてあげたいという気持ちが、どんどん大きくなって
7年前のベルリン国際映画祭では、最優秀女優賞に輝いた寺島さん。仕事で海外に行く機会も少なくありません。「仕事をしていれば、いろいろなことがあります。でも、犬はこちらがどんなときも変わらず、同じように接してくれる。普通に戻れるのです。姫はドアの前でずっと待っているし、捨も私にだけは従順」と、愛犬たちが与えてくれる影響も大きいのだとか。
「犬を飼うと制約も生まれます。ベルリンのときも、中1.5日ほどで帰国しました。子供のこともありますが、今はなるべく一緒にいてあげたい。最近、捨ちゃんが病気で生死をさまよい、幸い良性で助かりましたが、もう何があってもおかしくないという覚悟が生まれました。彼らを大往生させるまで、残りの時間を楽しくしてあげたいのです。姫ちゃんは私に似ているから、より心が通じるようになり、捨ちゃんは手のかかる子ほどかわいい。今が、すごく幸せだと思います」
※掲載した商品はすべて税抜です。
- PHOTO :
- 浅井佳代子
- STYLIST :
- 中井綾子(Crepe)
- HAIR MAKE :
- 髙橋里帆(Three PEACE)
- EDIT&WRITING :
- 藤田由美、海渡理恵(HATSU)、喜多容子(Precious)
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦