生きるとは、選び取りながら進むこと

三人兄弟の長男として育った菅田さんは「要領のいい子」と言われることが多かった。それに対して、「良くも悪くも、ものごとへの興味が薄い性格」と自身を評価する。

「好きなことに臨むときは熱中するけれど、それ以外のことにはあまり執着しない性分で。そうでなければ、芝居や音楽に大きなエネルギーを注ぐことができないし、継続していくこともできません。人生って、そうやって選び取りながら進んでいくものだと思うから。そして、気まぐれで面倒くさがりな一面も。LINEの返信も実は苦手なんです」

自己の分析は鋭く的確。何かに寄りかからず、自分でものごとを取捨選択する様は、菅田さんなりの情熱のかけ方であり、生きる信念でもある。それを必要以上に押し出すこともないのが、さらに菅田さんらしい。

「感情的になったり、人と争ったりするのが苦手なのかもしれません。そこは、今回演じる『彼』と似ているのかな」

菅田さんが言う「彼」とは、久能 整(くのう ととのう)。’22年の大ヒットドラマ『ミステリと言う勿れ』で演じた、癖もあるが愛される主人公だ。菅田さん同様、原作コミックのファンが多く、この秋待望の映画化となる。

「原作で印象的だった、なにげないじゃれ合いやふざけたやりとりは、彼らしさがより伝わる場面。時間的制約があるとはいえ、映画にぜひ取り入れてほしいと監督に伝えました。物語のスパイスになるし、謎解きの伏線がより生きてくると考えたからです」

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自分で考え、言葉にして、行動することの大切さ

最新主演映画『ミステリと言う勿れ』では、制作段階の打ち合わせから参加したという菅田さん。謎解きや会話劇の楽しさはもちろん、映画がもつメッセージをより強く届けることにこだわった。

「もともと僕がこの作品に惹かれたのは、原作がもつメッセージ性――固定観念への問題提起、ジェンダーに対する公平な目線――が整の言葉に込められているところです。日々忙しく生きていると見逃してしまいそうなところを、うまく突いてくる。むやみに感情的になることもありません。きっと彼が育ってきた環境と、そして今、ひとりでしっかりと生きているからなのでしょう」

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暴力や感情に頼らず、人を変えようとせず、言葉を使って静かに闘う方法もある

そんな整が映画では、「幼少期の経験の大切さ」や「自分で考え、言葉にして、行動すること」を説く。それは、菅田さん自身が「いつか言いたかった」ことでもあった。

「無理に人を変えようとせず、言葉で静かに闘う方法もあるのだと、整に気づかされました。それは、聞いていて心地いい。そういえば子供のころ、母に『人を変えたければ、自分が変わりなさい』と言われたことがあって。子供心に、『おかん、すごいこと言うなぁ』と思って、今も僕の指針となっています」

人と比較したり、自分を大きく見せたりすることもなく、主体的に自身を磨き続けたことで、菅田さんの今がある。自らを面倒くさがりと評価するが、それは自分に正直な証。その武器は唯一無二の個性となって、強い光を放っている。

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菅田将暉さん
俳優
(すだ まさき)1993年生まれ、大阪府出身。2009年『仮面ライダーW』でデビュー。『共喰い』で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞、『あゝ、荒野』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞。2017年からは音楽活動を開始。その後の主な主演作は、映画『花束みたいな恋をした』『キネマの神様』『銀河鉄道の父』、ドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』など。2022年に放送されたドラマ『ミステリと言う勿れ』の映画版が、9月15日より公開。原作コミックのなかでも人気の高い、通称「広島編」が展開される。

■映画『ミステリと言う勿れ』大ヒット公開中

天然パーマがトレードマークで友達も彼女もいない、カレーをこよなく愛する大学生の久能整。広島を訪れた久能が狩集家の一族の遺産相続の謎に巻き込まれる。「僕は常々思うんですがー」という言葉から始まり、膨大な知識と独自の価値観による持論を淡々と述べるだけで事件の謎が解かれていく新感覚ミステリー。

■原作:田村由美「ミステリと言う勿れ」(小学館「月刊フラワーズ」連載中)
■監督:松山博昭
■脚本:相沢友子
■音楽:Ken Arai
■出演:    
菅田将暉
松下洸平  町田啓太  原菜乃華  萩原利久
鈴木保奈美  滝藤賢一  でんでん  野間口徹
松坂慶子  松嶋菜々子
伊藤沙莉  尾上松也 ・ 筒井道隆  永山瑛太
角野卓造  段田安則  柴咲コウ
(C)田村由美/小学館  (C)2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

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TEXT :
Precious.jp編集部 
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『Precious10月号』小学館、2023年
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取材・文 :
南 ゆかり