身長156cmのインテリアエディターが、実際に見て・触れて・座ってレポートするこの連載も、おかげさまで記念すべき100回目を迎えました。「毎日を美しく、肩の力を抜いて、その人らしい暮らしを送れるよう、本物の家具が持つ魅力を味方につけてほしい」という想いで、信頼できるお店の多様な家具を紹介し続けています。

暮らしに関する悩みを解決したり潜在的なニーズを叶えたりする家具との出会いが、読者の皆さまに訪れることを願って、ライフスタイルを具体的に想像しながら楽しく書いています。(いつか皆さまにもお会いできますように!)

今回ご紹介するのは、私が大好きな銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア(Luca Scandinavia)」です。実は、本連載をきっかけに実際に私が買い替えをして生活の満足度がグッと増した「デュクシアーナ」社のラウンジチェア『ジェットソン』と出合ったのがここだったのですが…、それについては次回詳しくお伝えしますので、まずは「ルカスカンジナビア」ならではのコーディネート例と共に、素晴らしい目利きである代表が教えてくれたヴィンテージ家具選びのポイントについてお届けします。

本物の家具がもつ魅力を知る!銀座で楽しむ一期一会のひととき

銀座に行ったら時間の許す限り必ず立ち寄るのが、北欧ヴィンテージ家具を取り扱う「ルカスカンジナビア」。美術館級の状態のいい家具に絵画や小物類、生けられた季節の枝物や室内の香りも心地よく、訪れるだけで感性が磨かれるお店です。

東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
違う日に撮影した「ルカスカンジナビア」の3階の様子。訪れるたびに異なるコーディネートで迎えてくれます。

さらに美しいヴィンテージ家具にふさわしい寝心地のマットレスなど、スウェーデンの老舗ベッドメーカー「デュクシアーナ」の取り扱いもあり、カシミアのスローと合わせた美しいベッドメイキングなど、ファブリック好きにはたまりません。

往年の名作家具と暮らす「憧れ」を叶えるには、まず知ることが第一歩。すぐには買う予定がなくても、見て触れて座ったり寝たりと贅沢な実体験を通して本物の家具がもつ魅力を体感することができます。なんといってもヴィンテージ家具は一期一会! 行くたびにアイテムが変わり、店内のしつらえも変わる、まるでお茶室のような存在のインテリアショップです。

家具の魅力を最大限に引き出す多彩なコーディネート

「ルカスカンジナビア」で扱っているアイテムは全て一点ものなのでその都度内容は変わりますが、企画展が行われているとき以外は家の中のキッチンや水回りを除いた全てのシーンが揃っています。実はデンマークの家具にはコンパクトなものが多く、日本の住宅事情にも合わせやすいという特徴があるため、現実味のある心地よいコーナー作りも見どころです。

東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
優雅で美しいワークコーナー。奥にはさりげなくフィン・ユールの名作チェア『NV.45』が。
東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
大胆に枝物を生けた鎌倉時代の古備前の壺を「APストーレン」製の名作『ベアチェア』に合わせたくつろぎのコーナー。
東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
ハンス・J・ウェグナーの『AP16』を取り入れた、コンパクトリビングとしても現実味のあるコーナー。
東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
品格を感じさせるダイニングコーナー、奥にはカーテンで柔らかく区切られたベッドルームが。
東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
ノーベル賞受賞者の泊まるホテルでも使われている「デュクシアーナ」のベッドと北欧家具でつくった美しいコーナー。
東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の店内
「デュクシアーナ」のベッドフレームと呼応している『ジェットソン』のステッチ。

目利きに学ぶ、ヴィンテージ家具選びのポイントとは?

本物の家具がもつ魅力を体感できる「ルカスカンジナビア」の”家具選びの基準“とはどんなものなのでしょうか? 代表の輿石さんに聞いてみました。「仕入れる時はほとんど秒単位ですね。心が動くかどうか。それがどういう状態でどういう材質で何なのかというのは後から調べます」と知識と経験値から成せる目利きらしいご回答。

美しいワークコーナーでインタビューする贅沢な時間。左が「ルカスカンジナビア」代表の輿石さん。
美しいワークコーナーでインタビューする贅沢な時間。左が「ルカスカンジナビア」代表の輿石さん。

瞬時に判断できるようになったきっかけは「某大使館からの古いデンマーク家具の買取り依頼」とのこと。当時20代だった輿石さんは一流品に触れる機会を得て「特別な人の特別なオーダーのために作られた、特別によい材を使って手仕事で仕上げられた家具」の魅力を体験し、それがスタンダードになってしまったのだとか。

「今までにたくさん『ジェイエルモラー(デンマークの老舗家具工房)』の椅子を扱ってきましたが、最高のものを最初に見てしまいました」と笑う輿石さん。本物を知ることが一番の勉強になるというのは、どの道でも共通しているのですね!

とはいえ、もう少し詳しく知りたいところ。個々の家具ではどんな点に注目しているのかについて、2つのポイントも教えていただきました。

■注目ポイント1:素材や木目のよさ

「具体的に言うと素材とか木目のよさは気にしています。チークにしてもマホガニーにしても原産国で採れた個性が表れているものに魅力を感じます」(輿石さん)

例えば、下の写真のセンターテーブルの周りの額縁仕上げになっている木部にご注目ください。ブラジリアンローズウッド(現在はワシントン条約により伐採不可の材)の特徴がよく現れた木目が、“ブックマッチ”で仕上げられているので違和感なく収まり、静謐な自然の美しさを備えています。ブックマッチとは、丸太を切って本を開くように左右対称に配置することをといいます。

東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」のコーヒーテーブル
ロイヤルコペンハーゲンのタイルが象嵌されたコーヒーテーブル。

■注目ポイント2:"作行(さくゆき)”のよさ

「名作かそうでないかよりも、その作品がどういうコンセプトで作られたのかという “作行”を重視しています」(輿石さん)

"作行”とは“作意気”とも書き、通常は陶磁器を鑑賞するときに使います。作者の個性・くせ、作品の気品などを含めてその器物の出来栄えを表す言葉なのですが、手仕事で仕上げるデンマーク家具にも使えるとは新鮮な驚きと腹落ち感がありますよね。

家具でいうと「端部の仕上げ」や「面の取り方」などに表れ、空間での家具の佇まいのあり様を左右します。「ルカスカンジナビア」は、北欧ヴィンテージ家具店のなかでも繊細で優しげなセレクトが特徴です。

東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」のネストテーブル
ベッド脇に置かれていたネストテーブルにも、繊細な”作行“が表れて。

ヴィンテージ家具は、誰から買うかによって大きく変わる!

ヴィンテージ家具の魅力のひとつに美しい経年変化があります。時を経てよく触れられていた箇所が飴色に変化した木部や生活でついた小傷等、どこまで残してどのようにきれいにするか? 研磨や仕上げのセンス1つで家具の価値を上げることも下げてしまうこともあります。

ヴィンテージのものは、同じデザインの椅子でも現行のものとメーカーが異なっていたり、現在は採れない木材を用いていたりするなど、知れば知るほど奥深い魅力があります。詳しい方の説明を受けると満足度も高く、愛着も増します。その点で誰から買うかがとても重要になってきます。

また、買った後のことも気になりますよね。「ルカスカンジナビア」は独自の職人さんとのネットワークがあり、ヴィンテージ家具のメンテナンスに長けています。たとえばダイニングコーナーに用いられている籐編みやウェグナーが好んだペーパーコード、木部の不具合などにも、国内でそれぞれの家具の"作行”にふさわしい内容の対応をしてもらえます。

東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」の椅子
籐編みが美しいコーア・クリントのヴィンテージチェアも、メンテナンスしてもらえるなら安心です。

「北欧のように日本でももう少し気軽に買い替えられるような文化が整ったらいいなとも思っています。好きで買って大切に使っていたけれど、ちょっとしんどいなとなったときには価格を落とさず買い替えられるといいですよね」と、輿石さん。

言われてみると、北欧に行くとヴィンテージのオークションが盛んに行われており相場で取り引きされています。自分で直して使うという姿勢や状態の良し悪しを見分けられる知識が下支えにはなると思いますが、信頼できるヴィンテージショップと付き合いを深めていくことで実現可能な、環境にも優しい取り組みになるかもしれませんね。


今回は、東京・銀座の北欧ヴィンテージ家具店「ルカスカンジナビア」をご紹介しました。一度訪れただけでは全容がまったくわからないのがヴィンテージ家具店の面白さです。ぜひ気軽に何度も足を運びながら、本物のよさを体感してみてくださいね。

次回は「ルカスカンジナビア」で出合った『ジェットソン』で変わった暮らしの風景や、インテリアのムードをあげるカラーのお話をしたいと思います。

問い合わせ先

  • Luca Scandinavia 
    営業時間/12:00~18:00
    定休日/水曜
    TEL:03-3535-3235
  • 住所/東京都中央区銀座1-9-6  1F・3F

この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM