身長156cmのインテリアエディターが、実際に見て・触れて・座ってレポートするこの連載も、おかげさまで100回目の節目を越え、今回で101回目。「毎日を美しく、肩の力を抜いて、その人らしい暮らしを送れるよう、本物の家具がもつ魅力を味方につけてほしい」というコンセプトを掲げ、記事をお届けしています。

実は私自身も、運命的な家具に出合えたことで日々の家での時間がグッと豊かになる経験をしました。そのアイテムとは、前回ご紹介した北欧ヴィンテージ家具を扱う銀座の名店「ルカスカンジナビア」で出合ったスウェーデンのベッドメーカー「デュクシアーナ(DUXIANA)」社の『ジェットソン(JETSON)』です。

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正直なところ、第一印象はよくありませんでした。というのもヴィンテージ家具を見に行った先で想定外に目にしたレトロフューチャーなデザインに戸惑い、その初めてのかけ心地に不安感を抱いたからでした。

ですが、そのときに見たインテリアコーディネートにヒントを得たことと、本連載で『ジェットソン』のレポート記事を書くためにどんなアイテムなのかを調べたことから、新旧ミックススタイルで暮らしを誂える決心をすることに…。そんな我が家を例として、本記事ではインテリアのなじませテクや、ムードを上げるカラーについてご紹介します。

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出合いは最悪、ヴィンテージ家具店にレトロフューチャーなデザイン?!

運命的な出合いは、2020年のある雨の日。「ルカスカンジナビア」に、いつものように用事を済ませて雨宿りがてら素敵なインテリアコーディネートを楽しんでから帰ろうと立ち寄りました。ところがその日主役級に鎮座していたのは、レトロフューチャーなデザインのラウンジチェア。「私が見たいのはこれじゃない!」と、軽く落胆したのを覚えています(笑)。

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「ルカスカンジナビア」にて。出合った日は「酔いそうだし、嫌い」と思っていた『ジェットソン』の座り心地も今や日常に。壁の絵画は、独自の筆致が人気のデンマークの画家、アクセル・ベンツェンによる油彩作品。

優しいスタッフの方にすすめられるがまま座ってみると、柔らかく小刻みに揺れて心なしか回転している感じもあり初めてのかけ心地に戸惑いました。北欧ヴィンテージとほぼ同じ時代に考えられた「未来」が、本当の未来としての今、令和の銀座で出会う?! インテリアオタク的に頭の中が大混乱しました。

後に知ったのですが、「ルカスカンジナビア」は「デュクシアーナ」のショールームも兼ねていたのです。

家に居場所がない、というのは他人事ではなかった

『ジェットソン』がやって来る前の我が家のリビングダイニングには、結婚前から夫が持っていた黒い革張りの一人がけソファがありました。大きくて窓際にあるので、取り込んだ洗濯物の置場になることもしばしば。帰宅して一番よく見える位置に山積みの洗濯物が見える毎日を想像してみてください。

ほかにも大学受験を控えた高校生の娘に「資料を広げるのに使いにくい」と部屋から追い出された北欧ヴィンテージのライティングビューローの置き場問題も勃発していました。小学生だった娘と一緒に初めて選んだ家具。思い出もあり手放したくないという想いと、趣味のお茶道具を収めるのにちょうどいい引き出しの内寸で使い勝手もよさそうだという気づきもあり、どこかに置けないものかと考えあぐねていました。

以前、お茶道具を使いやすくするために日常使いの食器を断捨離しようと分けていたところ、家族がこぞって「お気に入りのお皿がない!」と騒ぎ出し、慌てて元に戻すということがあったのです。インテリアの専門家でも家族と暮らすかぎり好き勝手はできません。一見整ったように見えても「家に居場所がない」というのはこのことでしょうか?

日常の風景を変え、心地よい居場所を作り出す家具の力

『ジェットソン』が来たことで、パズルのピースがはまるように全ての問題を解決してくれました。

まずリビングに入って見える景色の中に横顔が美しい椅子があるのは気分が上がります。ハイバックで座面も平らではないので、誰も洗濯物を置かなくなりました(笑)。脚のデザインの効果で床が見えるため視覚的に部屋が広く見えるだけでなく、360度回転する脚の機能のおかげで座ったまま見たい方向に視線を向けられます。

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帰宅して廊下を曲がると、ヴィンテージの赤い『PH5』と『ジェットソン』の横顔が見える現在のダイニングの風景。

同じ空間で過ごしながらも距離感をさりげなくコントロールできるのが、年頃の子供がいる我が家にはとても合っていました。また、娘と同じ高校のお友達が大勢で来ては交代で『ジェットソン』に座ってお昼寝したり、ダイニングで勉強する友人たちに背をむけて音楽鑑賞にふけったりするなど思い思いに過ごしている様子を見ると、心地よい居場所作りができたことを実感します。

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柳宗理さんデザインの『エレファントスツール』をオットマン代わりに。

さらにサイズがコンパクトなので、ライティングビューローも同じコーナーの向かいの壁に置けました。念願の趣味の茶箱道具をすぐに楽しめるコーナーが完成です。日常使いの食器とは別にお気に入りのお茶のセットがあると幸せな気持ちになれます。ここでお抹茶を点てて一服いただく15分の休憩が日々の楽しみ。

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『ジェットソン』と同じ時代にデザインされたライティングビューロー。左には黒革の二人がけソファが。

コロナ禍で皆さんも経験されたと思うのですが、自宅勤務だと休むことを忘れてダラダラと長時間働いてしまいがちですよね。時間を区切ってお昼寝したりお茶を飲んだりと、休憩時間を積極的に設けることでリフレッシュして、再び集中できます。

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色や質感でなじませる新旧ミックススタイル、仕上げはエキスパートに相談!

我が家の場合、『ジェットソン』独特のクローム仕上げの丸いベース脚や艶のある黒革の質感が、手持ちの家具にピッタリなじみました。ひと昔前の外車のような佇まいも、車好きの家族には抵抗なく受け入れてもらえたようです。

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右の3脚は、同じ黒に見えますが革の仕上げやキャンバス地の色など異なる仕様の『ジェットソン』。左はコニャック色。

艶のある黒の革張り仕様を選べば問題なく自宅に合うのはわかっていました。「ルカスカンジナビア」の皆さんも家族も全員即決だったのですが…、個人的にはお店で見たコニャック色の革張りに心を奪われていました。ただし、コニャックをなじませるにはインテリアのカラーバランスを整える必要があります。

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悩んでいる時間も楽しいインテリア選び。たとえほかのみんなの意見が既にまとまっていていたとしても!

ここからは、もし我が家の『ジェットソン』をコニャック色に変えるなら…という架空の設定のもと、そのために押さえるべきカラーバランスの法則と、おすすめの方法をご紹介します。

インテリアのカラー黄金比は「70:25:5」

インテリアのカラーの黄金比は、ベースカラーとアセンブルカラーとアクセントカラーの比率が「70:25:5」といわれています。

ベースカラーは天井・壁の色で多くの場合「白」、アセンブルカラーは床・ダイニングテーブル天板面の色。アクセントカラーはクッションや小物で取り入れられます。最近の流行りはオーク材や大理石などの「グレイッシュな茶色」、アクセントカラーに「濃淡グレーや黒」「カーキ」などの無彩色の中に、真鍮や透明なガラスなどの素材感を効かせて、植物をあしらうシックなものが多いですよね。

3色に絞って艶や素材感で幅をもたせれば、絶対に失敗しません。最近よく耳にするように白だけでも200色はあるわけですし、革やリネンやベルベットに大理石等々、素材や艶も合わせれば実際には無限に展開が可能です。多色使いしたい場合にはトーンを揃えたり、色の世界観を揃えたりする方法もあり、慣れてきたら冒険するものおすすめです。

我が家のリビングダイニングは、40:30:25:5の割合でベースカラーが「ダークブラウン」と「濃淡グレー」。アセンブルカラーが「赤」。「黒」のスチールが空間に線を描いています。ジェットソンは輪郭が美しいので黒でラインを描くように配置したら問題なく収まります。では、コニャックは合わないのでしょうか?

その場合はコニャックが「ベースカラー」に入れるように色の面積のバランスを整えれば解決できます。壁の赤の色味を少し茶色に寄せてバーガンディーに塗り直し、カーテンを艶のあるグレージュにしてラグを敷けばグッと雰囲気が変わりますよね。家具を楽しむための“箱”を整える専門店に相談すれば、洋服をコーディネートするように誰でも模様替えを大胆に楽しむことができます。

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左/黒革の『ジェットソン』がすんなりなじむ我が家。右/iPadで左の写真を加工したもの。ベースカラーをブラウンに寄せれば、同じ空間でもコニャックがなじみます。

壁の色を変えたいなら「ファローアンドボール銀座サロン」

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ワークショップもあるので、気軽に相談できるのも魅力です。

歴史的建造物の修復にも使われているイギリスのペイントブランド「ファロー&ボール(Farrow&Ball)」。さまざまな個性の白を取り揃えており、また強い色を選んでも顔料の含有量が通常のペイントよりも30%以上多いので光に当たったときの品のよさが格別! 銀座サロンのカラフルで上品なインテリアはとても参考になります。

壁はもちろん、床や屋外に使えるペイントも展開していて、同じペイントを用いたブロックプリント(大きなハンコを押すような昔ながらの手法)で作られた壁紙もあるので、トータルコーディネートが可能です。塗装をプロにお任せすることもできますし、自宅でペイントのやり方を教えてもらえるサービスもあります。慣れると壁一面程度の塗り替えは一人で簡単にできるようになりますよ。

窓辺の色味やテイストを変えたいなら「サンクリドー」

代々木上原と大倉山に店舗を構える、セレクトショップのようなオーダーカーテン専門店「サンクリドー」。希望するテイストや写真を持っていけば、予算に合わせておすすめのアイテムを大きなテーブルにオーダースーツを作るように組み合わせながら広げてくれます。

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見ているだけで1日が終わるほどの品揃え。自分では選べないような組み合わせを提案してくれます。

調光ロールスクリーンや木製ブラインドの扱いもあるので、ファブリックを合わせてコーディネートしたい場合や、吹き抜け窓の部分を電動にしたい場合なども相談可能です。自社で縫製工場とクリーニング工場を手がけているので仕上がりがよく、とにかく詳しいしセンスがいい。我が家をはじめ、実家も友人宅もこちらでお願いしています。

時代や国境を超えて、自由に暮らしを編集する楽しさ

今回改めて「ルカスカンジナビア」代表の輿石さんに、ヴィンテージではない現行品の「デュクシアーナ」社を扱うことにしたきっかけをお伺いしました。

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北欧ヴィンテージ家具の温かみのある木の風合いにさまざまなファブリックとコニャック色の『ジェットソン』が映える、ある日の「ルカスカンジナビア」の店内。

「知人にデュクシアーナ社を紹介され、正直なところ正規代理店となるのは大きくて大変な仕事だろうと思いましたが、まずはスウェーデンのデュクシアーナ直営のホテルに行ってみることにしました。ベッドのまるでプリンの上に載っているようなふわふわ感が心地よく、ほんの少し横たわるつもりで布団もかけず3時間も寝入ってしまい、こんなに気持ちいいなら日本でも広めたいなと心が揺れ動いた」のだとか。

ヴィンテージ家具を選ぶ際にも、心が動くかどうかで瞬時に判断されるという目利きらしい理由ですよね。

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「ルカスカンジナビア」×「デュクシアーナ」がつくるベッドコーナーの世界観。ラッパ吹き少年は、デンマークのユスト・アナセンによる1930年代のオブジェ。壁の黒いペイントは「ファロー&ボール」を使用したもの。

ちなみに「デュクシアーナ」を知る以前から、デザイナーズチェアとしては『ジェットソン』をご存知だったそうで、椅子でとるパワーナップ(リフレッシュのためにとる短時間の昼寝)がベッドと同じスウェーデン鋼の特性で叶えられていることや、社長室にも合うデザインであることから、ベッドだけでなくこちらも扱うことを決めたのだそうです。

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新宿にある「リビングデザインセンターOZONE」での「ルカスカンジナビア」ポップアップショップの様子。ここにも『ジェットソン』の姿が。

今回はいつもと少し違ったスタイルの記事になりましたが、いかがでしたか? インテリアの専門家なのに赤裸々トークでお恥ずかしい限りですが、皆さんにシェアしたかったのは「その家具がなかったときよりも、ずっと暮らしが豊かになって自分らしく過ごせるようになった体験談」です。

ここだけの話、「ルカスカンジナビア」で出合わなかったら『ジェットソン』を迎えることはなかったと感じています。信頼できるエキスパートがいるから暮らしを自分らしくあつらえられるのは、私も皆さんと同じです。この連載が少しでもお役に立てることがあれば心から嬉しく思います。

この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM