本年のアカデミー賞の発表は痛快だった。辻一弘が日本人で初めてメイクアップ&ヘアスタイリング賞を授かり、そのメイクによる変身ぶりが評判となったゲイリー・オールドマンに、主演男優賞。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』を観ることは、大学で映画論を講じていることを抜きにしても必須であると思えた。さらには、時計を語る身としても必見のフイルムだった。

チャーチルが愛用した「No.765」

チャーチルが愛用した「No.765」の実物。ミニッツ・リピーター付きフライバック・クロノグラフの複雑モデルで、エナメルダイヤルも美しい。The Imperial War Museum/帝国戦争博物館

オールドマンをチャーチルそのものに見せたのは、直截的にはもちろん芸術的な特殊メイクであっただろう。しかし同じように靴や服、何よりあの懐中時計の鎖でもあった。チャーチルがスーツを着ている時はすべて、独特な鎖が見えている。ひとつのピースが大きく、長方形に近い形の独特なチェーンである。チャーチルの研究者や熱狂的なファンであれば、目に焼き付いているだろう。チャーチルがそこに繋がる懐中時計を見ている写真というのはなぜか知られていないのだが、その時計は調べがついている。ブレゲの「No.765」、ミニッツ・リピーター付きフライバック・クロノグラフである。そもそもはチャーチルの親族の手元に、1890年に納められたものだ。

3月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー©️2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

エンドロールには、撮影用の時計が「モントレ・ブレゲ社より供給された(provided)」とクレジットされている。ブレゲはこのために、「No.765」のレプリカを作ったのである。その一本の懐中時計は各国のプレミアに展示された。何より実物は、今もロンドンの「The Imperial War Museum (帝国戦争博物館)」内、Cabinet War Roomsに収蔵・展示されている。

イギリスの王室はじめ貴族には、歴史的にもブレゲの上得意が多い。ブレゲには、大物の時計にふさわしい品格がある。価格が高額であることも、下卑たところがないことの証明に思える。チャーチルを魅了したそのオーラを共有したいのであれば、クラシックシリーズのどれかを手に入れるといいだろう。一生ものの時計を手にしたことを、後悔することなどない。

©️2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

映画の見せ場のひとつは、政敵だらけの議会で、チャーチルが初組閣に向けた世紀の大演説を行う場面である。演説直前、時間を待っているわけでも測っているわけでもないのに、彼の視線は愛用の時計の上に落ちている。時計の文字盤を見ているようで、じつは自分の運命を見つめているのだろう。片時も離さないブレゲの時計には、その価値がある。まずは、この映画を観るといい。

ブレゲの「クラシック」シリーズ現行モデル

「クラシック クロノグラフ 5287」

ブレゲの「クラシック」シリーズはもともと、懐中時計時代の名品の意匠や機能を腕時計として蘇らせたものだ。端正なクロノグラフは、18世紀から続くブレゲの伝統的スタイルを継承している。●手巻き●18Kローズゴールド●ケース径42.5mm●アリゲーター革ストラップ●¥5,810,400(税込)

2018年「ブレゲ」バーゼルワールド新作時計

「クラシック トゥールビヨン エクストラ-フラット オートマティック 5367」

グラン・フーとよばれる、高温焼成エナメルの高貴な白が美しい文字盤。重力による誤差を補正する複雑で神秘的なトゥールビヨン機構は、マリー・アントワネットにも愛された時計師、初代ブレゲの発明。●自動巻き●18Kローズゴールド●ケース径42mm●グラン・フー炉焼きエナメルダイヤル●アリゲーター革ストラップ●¥17,247,600(税込予価、今夏発売予定)

「クラシック エクストラ-フラット 5157」 

新作のローズゴールドケースに映える印象的な青い針は着色ではなく、スティールを熱して絶妙な温度で焼き止めると青色が保たれる高度な技術によるもの。このブルースティールの自然な発色も、ブレゲの伝統である。●自動巻き●18Kローズゴールド●ケース径38mm●ケース厚5.45mm●アリゲーター革ストラップ●¥2,192,400(税込予価、今夏発売予定)

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この記事の執筆者
TEXT :
並木浩一 時計ジャーナリスト
2018.4.2 更新
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『腕時計一生もの』(光文社)、『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を開講。