好評連載「官能コスメ」の第18回は、人気ハリウッド女優メリル・ストリープに注目。 女性の官能と、その本質について、齋藤 薫さんが読み解きます。
「私、いくつに見えます? こう見えて、もう65歳なの」
「えー全然見えない。50代にしか見えないかも」
「………」
最近とてもよく聞く会話。厳密に言うと、テレビショッピング系の化粧品のコマーシャルに最も多く見かけるパターンだけれど、今の時代、現実にもこうした会話がよく交わされていると考えていいのかもしれない。
ひと昔前は、「年齢不詳」と言われることがひとつのテーマであったのに、今は「実年齢よりもどのくらい若く見えるか」を競う時代になって、だから、60代でも70代でも、あるいは80代でも、実年齢を隠さないという流れになった。
ちなみに、上の会話の「………」は、「50代にしか見えない」という答えに、「たったそれだけ?」と、ちょっとだけ不満であるという空気。自分ではもっともっと若く見えると、自負していていることを示してみた。
実際にあらゆる美容は、成功体験があるとどんどんエスカレートしがちで、だから若く見え始めると、さらに実年齢から離れていこうとする。それが、実際の見た目年齢よりもさらに若い年齢を目指してしまいがち。そこで、見た目年齢と自覚年齢との間にまた違った差が生まれると、それはそれでバランスを崩してしまう。だから、いわゆる「若見え美容」も度を越しては絶対にいけないのである。
メリル・ストリープに学ぶ「美しく年を重ねること」の新たな価値観
というわけで、早くも成熟世代の年齢観がまた変わりつつある。つまり、ただただ「実年齢より若く見えればいい」というのではない。かといって「年齢不詳」に見せようというのでもない。むしろ「その実年齢のまま存分に美しいこと」が尊い、という流れになってきているのだ。
例えば今、注目の的である草笛光子さん。84歳という年齢を隠さない。しかも、若く見せようという意思は持っていないよう。にもかかわらず、驚くほど美しい。そしてカッコいい。上品で、知的で、でもセクシーでゴージャス。はっきり言って、若い女性が醸し出している魅力ではない。正直、40代、50代も負けてしまいそう。そういう年齢の重ね方が、今ようやく現実のものとなってきたのだ。
つまり、こういう年齢の重ね方が「次のトレンド」だと言っているのではない。これが「美しく歳を重ねる」というテーマの着地点なのである。
そう、昔から女性誌でもまるで呪文のように唱えられてきた言葉。「美しく歳を重ねる」「美しく歳を重ねる」…それを、精神論ではなく、見た目でもちゃんと体現する人が現れたということ。実年齢に抗うことなく、平然と美しい。あまりに若くて人をびっくりさせるのではなく、ありのままの美しさで人を感動させる、そういう60代、70代、80代が一気に増える時代がやってきてしまったのである。
必死に若さをキープするハリウッド女優と、メリル・ストリープの差とは?
ハリウッドでは、今まさにレジェンドとなろうとしている人、メリル・ストリープが、その境地に入っている。ほぼ毎年のようにアカデミー主演女優賞にノミネートされ、演技派などというレベルをはるかに通り越して、女優としては世紀の天才!
故に、その役その役の年齢になりきってしまうから、ある意味で年齢不詳。しかしオスカーの授賞式に現れる姿は、まさに年齢にまったく抗うことがないのに、ちゃんと美しい。
いや、もっとはっきり言ってしまおう。ハリウッドではほぼ全員が、美容医療で若さをキープしているわけだが、多くの人が若いころとは顔立ち印象がかなり変わっている。しかし、メリル・ストリープだけはどう見ても変わっていない。この差は一体何なのかということ。
これも、演技力の一部なのか? いや紛れもなくこれは、知性であり、センス。でも何よりも大切なのは人としてのバランス感覚。社会性と言ってもいいかもしれない。
オスカーを獲得した『ソフィーの選択』の時から、複数の言語の訛りを見事に話し分けることで、とてつもない才能の持ち主であることを見せつけた人。美しさでも際立っていたけれど、ほかの美人女優たちとは明らかに異なっていた。
長い間、「40歳定年説」があったハリウッドでは、ほとんどの女優が40歳位から一気に役を減らす中、この人だけは、歳を重ねるほどにむしろ大きな役を得ていった。この人でなければならない役を成功させ、だから逆に、この人のための映画がどんどんつくられた。
サッチャー首相を演じ、プラダを着た悪魔になり、音痴のオペラ歌手になりきった。申し訳ないけれど、ほかの同年代のハリウッド女優が自分の若さ維持のために必死になっている間に、この人はむしろ演技を極め、自分だけのキャリアを目覚ましい勢いで積み重ねていった。そして、トランプ大統領を公に批判し、またハリウッドのセクハラ糾弾の急先鋒となった。才能と、知性と、社会性。正義感や勇気も、この人をさらにさらに輝かせていった。
ついでに言うなら、多くのハリウッド女優が結婚、離婚、不倫を繰り返している中にあって、この人は離婚なし。夫である彫刻家との間に4人の子ども。今も尊敬し合い、添い遂げている。
かくして彼女は、今までのハリウッド女優とも、今までの60代、70代とは明らかに違う。アンチエイジングに必死な印象を一切感じさせないどころか、エイジングすら無縁の印象。これまでの女の年齢観を根底から覆し、年齢を重ねるほどに輝きを増していくのである。そういう意味では、何か、男のよう。エネルギッシュな成功者か、衰え知らずの芸術家みたいに。
ともかく、若さと美しさにしがみつかない。にもかかわらず、68歳という年齢で、今、最もナチュラルな若さと美しさを誇っている。ちょっと皮肉な話である。でもこれこそが「美しく歳を重ねる」ということ。改めてメリル・ストリープをお手本にしたい。
美しいのに、美しさにしがみつかない知的な大人が、結局一番美しい。「アンチエイジングの法則」を完全に覆す、新しい法則である。
年齢を重ねても、キレイな色が似合う。そんな大人になりたいから、YSL【イヴ・サンローラン・ボーテ】
今、カラーコスメでもっと熱い視線を集めるのがYSL。斬新なのにキュートで、しかも上質。特に色モノは若い層に圧倒的な人気を誇るブランドだけれど、むしろ年齢を重ねてこそ、YSLのカラーの正しさが身に染みるようになるかもしれない。年齢を重ねたら、むしろ透明度の高いキレイな色を選ぶべきで、そういう意味ではこの2品、見事にクリアで清らか。唇は生命感のきらめきのように顔映りがいいし、つやつやのダークエメラルドグリーンのマスカラは、深い湖のような瞳をつくってくれる。大人のメイクはともかく命を清らかに際立たせるような仕上がりであるべき。だから大人メイクもYSLがいい。
若さにしがみつかないのに、平然と若く美しい。そういう人が選ぶ最高峰クリーム【シャネル】
自然界の恵みに真摯に向き合ってきたシャネルが、その圧倒的な力に魅せられて、研究開発に力を尽くしてきたのがマダガスカル島に自生する植物、ヴァニラ プラニフォリア。そこに秘められたパワーは、再生力と抗酸化力はもちろん、未だそのすべてを解明できていないほど、神秘的なものと言われる。一日一日と、全方位にぐるりと届くエイジングケア効果が、予期しなかった素晴らしい手応えをもたらしてくれるだろう。何よりもこんなにもなめらかなクリームが、この世に存在したのかと驚くほどのとろけるテクスチャーは、まさに一度使えば虜になる。ともかく何もかもが最高峰。ただ肌を預けてしまうだけでいい。
メイクしてないようなのに、なんであの人キレイなの…ベースメイクの永遠の夢をかなえる2品【ナーズ】
メイクしてないようなのにキレイ…結局のところ誰もがそれを求めてきたはず。しかも年齢を重ねるほどに「化粧感がないのに美しい」というその矛盾の美に、なんとしてもこだわりたい。それが、本当の意味で「美しく歳を重ねる人」の仕上がりだから。年齢を必死で隠すようなカバー力ならばいらない。むしろメイクしたこと自体を消し去るような形で、年齢肌も清らかに見せてくれる、そんなカバー力をここに見つけた。それを一日中キープするロングラスティングファンデーションと、シミや色ムラ、くすみをカバーして、決して崩れない名作コンシーラーは、どちらもナーズ作。ぜひ試してみてほしい。
アイラインはあくまで深く強く。でも重くならないジェルライナーを見つけた【ブリリアージュ】
やっぱりアイライナーは、ジェルタイプが一番。けれどもポットに入ったタイプは、ブラシが別売り。ペンシルタイプは使い勝手はよいけれど、芯が折れやすく、ラインが太くなりすぎたりして、意外に失敗しやすい。そんな中で見つけたのが、嶋田ちあきさんプロデュースのパレット。ブラックとブラウンの2色組だから、色も調節できるし、鏡付き・ブラシ付きで、本当に使い勝手がいい。加えて濃くも淡くも描けるジェルは、眉づくりにも使えたりして。年齢を重ねるほどにアイラインはリフトアップにもなる重要な決め手。この逸品が平然と美しい顔立ちをつくってくれるはず。
問い合わせ先
- イヴ・サンローラン・ボーテ TEL : 03-6911-8563
- シャネル カスタマーケア TEL:0120-525-519
- NARS JAPAN TEL:0120-356-686
- ブリリアージュ TEL:0120-202-885
- TEXT :
- 齋藤 薫さん 美容ジャーナリスト
- PHOTO :
- 戸田嘉昭、宗高聡子(パイルドライバー)、Getty Images
- EDIT :
- 渋谷香菜子