「いまは、衣類、特に本格的なスーツやシャツを、皆さん、大切に扱うようになりつつあると思います。洗濯やアイロンがけも自分でもやってみると、製品の違いはもちろんですが、芯地やステッチまで気になり始め、自分が着るシャツにもっと愛着が沸いてくると思います」

 自分でアイロンがけをする利点を話す山神さん。よくアイロンは重たいものがいいと言われる。クリーニング店などで使われているのは重たいものがほとんどだ。しかしシャツづくりのプロとして山神さんは軽いアイロンの方がシャツのアイロンがけでは扱いやすいと断言する。

プロ直伝クリーニング店並みに美しく仕上げるコツ

1.シャツの上からスチームをふり撒く

シャツ全体を湿らすのがポイント
シャツ全体を湿らすのがポイント

家庭ではスチームアイロンを使う人も多いだろうが、「これはジェット噴射のようなものなので、水分が生地を貫通し、生地に水分が残っていない状態で、生地に圧力だけをかけることになってしまう」と山神さん。アイロンがけをする前にシャツの上からスチームをふり撒く、あるいは霧吹きを使う方がシャツのアイロンがけにはいいと山神さんは話す。これは盲点だ。

2.シャツは襟からアイロンがけを

シャツのアイロンがけの基本は襟から
シャツのアイロンがけの基本は襟から

山神さんの場合、襟の部分をプレスすることからアイロンがけは始める。生地に水分を十分加え、アイロンの先を少しだけ浮かし、生地の上を滑らすような感覚でアイロンをあてれば、変なシワが生地に入ってしまうことがない。「左手で襟の先を伸ばしながら行うとやりやすい。僕たちの仕事って、意外と左手が重要なんです」と山神さんは笑う。

アイロン台の縁を使うのがポイント
アイロン台の縁を使うのがポイント

シャツの襟腰の部分は、アイロン台の縁を利用して、襟先の部分をアイロン台から落とすようなポジションでアイロンをかけると、あてたい部分=襟腰だけをプレスすることができる。アイロンをかけた後はシャツを持ち上げてパタパタと振ってあげ、余熱を逃がすことも大事だ。

3.襟の次は袖口(カフス)

複雑な構造のカフスもコツさえつかめば簡単にできる
複雑な構造のカフスもコツさえつかめば簡単にできる

次がカフス。カフスの部分は外側ではなく、裏側にアイロンをかけていく。両脇から真ん中に向かってプレスしていくと無駄なシワが入ることを防げる。このときに剣ボロとヒダも裏側から一緒に軽くプレスをかけてしまうと袖の部分をアイロンがけするときに余計な作業が減らせる。

4.袖→肩の順でアイロンがけ

袖口→袖→肩の順でアイロンがけ
袖口→袖→肩の順でアイロンがけ

その後は袖、そして肩の順番でアイロンをかけていく。肩はシャツのなかでも何枚も生地が重なっている部分なので、シャツを裏返して、裏側からプレスしていく。写真のような台があるとさらに簡単にプレスできるが、ない場合は、アイロン台の細い部分に肩を入れて、アイロンがけを行う。

5.身頃、シャツ全体をアイロンがけ

シャツ全体をアイロンがけ。余熱を逃すことも忘れず行う
シャツ全体をアイロンがけ。余熱を逃すことも忘れず行う

身頃はシャツの裏側からアイロンをあてるとやりやすい。脇の部分はアームホールに沿ってプレスをかけていく。シャツの裏側からアイロンがけすれば、アイロンがけのときに汚れが付いてしまうことも防げる。袖や身頃もアイロンがけが終わったら、パタパタと降って余熱を逃がすことを忘れずに。

6.綺麗に畳んで完成

慣れれば5〜10分あればできるシャツのアイロンがけ
慣れれば5〜10分あればできるシャツのアイロンがけ

身頃がきれいになれば、シャツのアイロンがけは終了。慣れれば5〜10分もあればできるようになる。山神さんは、いつもは襟とカフスと前身頃のみにアイロンを当てシャツを着用している。上からスーツを着たときに見える箇所がその部分だからだ。袖や身頃は綿などの上質な生地であれば、呼吸するので、着ているうちに自然に伸びてくれる。山神さん流ならば、着る前に短時間でアイロンがけができるだろう。ぜひお試しを。

この記事の執筆者
TEXT :
小暮昌弘 エディター
BY :
MEN'S Precious2018年春号Butler Bertie's Clippingより
メンズクラブ編集長を務めた経歴をもつベテラン編集者。ファッション以外にも、モノや歴史、文学など幅広い知識を持つ。その経験豊富な知識を生かし多彩なジャンルで執筆する経験豊かな編集者。
PHOTO :
永田忠彦
MOVIE :
永田忠彦
WRITING :
小暮昌弘(LOST&FOUND)
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