美しい映像と静かな物語に“ただ入り込む”という挑戦
11月8日公開の主演映画『ルート29』は、綾瀬さんにとって、新境地といえる作品だ。
演じるのは、鳥取の町で清掃員として働くのり子(=トンボ)。他者とコミュニケーションをとらず、感情が空っぽであるかのように粛々と過ごす女性が、あるきっかけで少女ハルと出会い、ふたりで姫路を目指し、国道29号線を旅するというストーリー。緑豊かな自然と、夢と現実の間のような映像美のなか、前髪を下ろし、丸い眼鏡で顔を隠すかのような綾瀬さんは、少しのセリフと微かな表情の動きだけで、トンボを表現している。
「新境地という感じは、あまりないのですが」と、軽やかに笑う綾瀬さん。
「少し前に立て続けに作品に出演して、すごく忙しかった時期があったんです。さすがに頑張ったから、ちょっとゆっくりしたいなと、一年弱ほど新作に入るのをお休みしました。
そういったなかで、次回作は、縁や運命を感じるものをと思っていたら、プロデューサーの方から、すごく愛のあるオファーをいただいたんです。森井勇佑監督の初作品である『こちらあみ子』も好きでしたし、主演していた大沢一菜ちゃん(本作ではハル役)にも会ってみたいなと思ったので、出演することを決めたんです」
いろんなものを手放して現場に挑まなくてはと
トンボを演じるにあたり、監督から「セリフを伝えようとしなくていい」と言われたことに、最初は戸惑いを覚えたとか。
「会話って本来、伝えようとするものだから、初めは理解するのが難しかったんです。でも監督は、“ただ存在すること”にこだわっていらして。だからもう、セリフを言うタイミングやかけ合いの間合いの計算も全部捨てて、いろんなものを手放して現場に挑まなくてはならないと思いましたね」
新人ながら、すでに映画界で注目を集めている森井監督は、綾瀬さんと同世代。
「役者に寄り添ってくださる素敵な方です。いつも人の心の機微を見ていて、私たちが演じやすい環境を、必ずつくってくださる。とても丁寧な印象でした」
作品から受ける穏やかな空気感は、そういった現場だからこそ、生まれるのかもしれない。鳥取から姫路へのロードムービーは、撮影の順番も、ほぼストーリー通りに進んだそう。「のんびり家族の大移動みたいに、本当に旅してる感じで(笑)」
来年はいよいよ40代。節目を前に、これからの目標について尋ねてみた。
「もし、人生がいろんな選択の繰り返しだとしたら、日々の小さなことも全部、できるなら楽しくなるほうを選んでいきたいです。おもしろいことだけじゃなく、スリリングな選択も、ワクワクするから楽しい選択のうちですね。あと、『こう考えたら落ち込むけれど、こっちの考え方にするとおもしろいね』といったことも意識しています。無理やりこじつけてでも、考え方ひとつで、いろんなことを楽しく感じるようになれば、人生がよりよくなるのではと思います」
関連記事
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 長山一樹(S-14)
- STYLIST :
- 吉田 恵
- HAIR MAKE :
- 中野明海
- MODEL :
- 綾瀬はるか
- EDIT&WRITING :
- 湯口かおり、福本絵里香(Precious)