各界のプロフェッショナル5名が語る【2024年の新作ラグジュアリーウォッチ総括!】
昨年より規模を拡大したウォッチズ&ワンダーズのほか、独立系ブランドによる展示会なども催され、さらなる活況を呈した2024年の時計界。世界的にも新たなフェーズに突入しつつあるなか、異なる立場で時計を観察する5人の審査員は、どのように総括したのでしょうか。
『MEN'S Precious』ウォッチアワード 2024 審査員(50音順)
「エモーショナルに訴えかけるモデルが多数だった、実り多き一年」(柴田さん)
「今年のキーワードは、エモーショナル。感情に訴えかける時計の勢いを感じます。手巻き式のリュウズを巻き上げる感覚を突き詰めたり、時の移ろいをロマン溢れる先端的な機構で表現したり、豊かなダイヤルカラーを採用したり…。まだまだ時計の可能性を感じられた一年でした。そして時計に託すストーリーメイキングの手法も年々ブラッシュアップされているように感じます。つけること自体にワクワク感が感じられる時計が増えている昨今の状況は好ましいところ。新たな一本が欲しくなっています(笑)」
「つけるときのコーディネートをあれこれ想像させてくれる良作揃い」(Daisukeさん)
「基本的にしっかりと現物を見たい自分としては、仕事で着用したことのあるモデルにより惹かれる傾向はありました。審査を続けるうえで知り得た知識が、自分の見識を深めてくれるのを毎年実感しています。今年は時計専業ではないブランドの良作が目立っていたように感じました。服づくりにも見られる細部へのこだわりが、時計づくりにも通底しているのではないでしょうか。装飾としての時計という点でも、つける際の装いをあれこれと想像させてくれるグッドルッキングな時計が豊作という印象です」
「人と人との交流が増える昨今、斬新なトーキングピースに注目」(並木さん)
「受賞作を眺めると、時代の気分に即した時計が多かったように思います。ひと言でいえば、“斬新性” でしょうか。クラシカルなのにまったく新しい機構を積んでいたり、ブランニューモデルが登場したり、デザインやカラーに斬新性をもたせたり…。個性的ながらも、これまでになかった新鮮味がもたらされた時計が多かった。時計愛好家たちの間だけではなく、アフターコロナで直接、時計を見せ合う機会が増えています。時計は語れる要素を含んだ、トーキングピースとしての役割も担っていくのでしょう」
「見た目に派手さはなくとも、細部に凝った傑作モデルが多数」(平山さん)
「審査員として関わりながら興味本位で入手した情報なども加えて、自分なりに俯瞰してみると、今年は各ブランドの集大成のような時計が多かったと感じています。見た目のインパクトではなく、さりげないのですが、細かなつくり込みの点で違いを出していました。重要なのは、それらの表現が決して小手先のものではないという点。各社しっかり開発時間をかけて、本質的な変革を加えることで自分たちの“もの”にしているのでしょう。時計づくりに携わる人たちに、改めてリスペクトを捧げたいと思います」
「新鮮に映ったのは、ヘリテージを重んじ、大胆にアレンジされた名品」(守屋)
「新鮮さを求めるなかで、多くの歴史あるブランドがヘリテージを重視しながら、そのうえで斬新な機構やディテールを盛り込んでいる点が、今年の特徴だと思います。名作がもつ揺るぎない佇まいに大胆なアレンジを加えても、やはりベースが確かなので、それが見事に融合するんですよね。一方で、男女共用も視野に入るジェンダーレスなモデルにも目が留まりました。女性にとってはマニッシュですし、男性がスーツなどで合わせるとよりセクシーさが増す。選択肢の幅がますます広がっていると感じます」
新作時計から見えてくる2024年のトレンド事情【メンズ編】
今年も数多くの高級腕時計ブランドにご協力いただいた「ウォッチアワード」。ノミネートされた数々のモデルを吟味した審査員の評価の言葉から、本編では掲載されなかったものを引用しながら、2024年のトレンドを読み解いていきます。
「ジュエラー顔負けの金細工の技巧にほれぼれします」(並木さん)
長く愛されている名品にアレンジを加えて、魅力を高めたモデルは特に審査員の心に留まったようです。
「過去を振り返り、現代的なアプローチで再解釈する試みは、ともすると両刃の剣。ネタ切れと言われてしまうかもしれません。けれど、やはり数々の名門は、そのあたりの勘どころを弁(わきま)えており、驚くほどの変貌を遂げたモデルも。“パテック フィリップ” の『ゴールデン・エリプス Ref・5738/1』は、それを象徴している気がしました」(守屋)
今年の目玉のひとつ、「パテック フィリップ」による圧巻のチェーンブレスレット。職人が丁寧に手作業で組み上げるブレスレットは、着用感も高い。
「完璧主義の “IWC” が新たに加えた『ポルトギーゼ・ハンドワインド・トゥールビヨン・デイ&ナイト』は、進化した名品という点で今年らしいモデルかもしれません。製作者は『実用性を高めただけ』というかもしれませんが(笑)」(並木さん)
暗闇に浮き上がるように演出された “IWC” のフライング トゥールビヨン。時刻調整時は完全に機構を止められるように新設計されている点にも注目を。
「素敵なストーリーが用意された時計も豊富でした」(柴田さん)
特に昨今で顕著な動向としては、外装へのさまざまなアプローチが見られること。「クワイエットラグジュアリー」の概念が浸透していることからも、これ見よがしでないラグジュアリーウォッチも豊作でした。
「“フランク ミュラー” の『グランド カーベックス マスター ジャンパー』からは、「マスター・オブ・コンプリケーション」を掲げるブランドのすごみが伝わります。デジタル表示とギョウシェの組み合わせに洗練を感じますが、この繊細で控えめな美観の裏にとてつもない機構が隠れているのがおもしろい」(柴田さん)
多くの職人たちがその制作に携わる “フランク ミュラー” の新たな複雑時計。世界初の独創的なデジタル式表示に、立体的なギョウシェで彩りを添える。
「着用シーンが想像できる時計が増えている印象!」(Daisukeさん)
「“エルメス” の『エルメス カット』はまったく新しいモデルですが、随所にそのセンスやエスプリが見られ、ラグジュアリーを日常へ落とし込むメゾンによるウォッチメイキングの底力を見ました」(Daisukeさん)
平面の円と立体の球を組み合わせた “エルメス” の新しいデザインは、デイリーなステンレススティールケースでラグジュアリーな喜びをもたらす。
「エレガンスとは何か? この問いが頭を駆け巡ります」(平山さん)
クラシック回帰の流れも見られるなかで、様式美が漂う手巻きクロノグラフの存在感も高まっている印象。
「“A.ランゲ&ゾーネ” の『ダトグラフ・アップ/ダウン』の隙のない完璧な見た目の裏側には、数多(あまた)のパーツで組み上げられた、緻密さが求められる複雑なクロノグラフ機構がみっちりと、それでいて美しく詰め込まれている。メカニズム好きにとっては感嘆しきりです」(平山さん)
ドイツの名門、“A.ランゲ&ゾーネ” によるウォッチメイキングが堪能できる手巻き式クロノグラフ。ローターがないため、メカニズムの美しさが際立つ。
「見た目はシンプルなのに中身がすごい、そんな時計が素敵!」(守屋)
ジェンダーレスな時計選びの傾向も高まり、メンズウォッチでも宝飾的なアプローチで注目を集める時計が増えていたのも見どころでしょう。
「男性がダイヤモンドを楽しむなら、一流ジュエラーの “ハリー・ウィンストン” は間違いなし。さらりとつけこなしていただきたいです」(守屋)
時計界においてもプレゼンスを発揮する “ハリー・ウィンストン” は、ダイヤモンドの表現でも秀でたセンスを発揮する。アシメトリーデザインが優雅。
話題をさらった時計はそのほかにもたくさん。今年の時計界はかつてない盛り上がりを見せています!
問い合わせ先
- パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL:03-3255-8109
- IWC TEL:0120-05-1868
- フランク ミュラー ウォッチランド東京 TEL:03-3549-1949
- エルメスジャポン TEL:03-3569-3300
- A.ランゲ&ゾーネ TEL:0120-23-1845
- ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション TEL:0120-346-376
- PHOTO :
- 小池紀行(CASK)
- STYLIST :
- 関口真実
- EDIT&WRITING :
- 安部 毅、安村 徹(Precious)
- 文 :
- 高村将司