横浜 流星さん
俳優
(よこはま・りゅうせい)1996年生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。ドラマ『初めて恋をした日に読む話』(19年/TBS)で第100回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。映画『流浪の月』(22年/ギャガ)、『線は、僕を描く』(22年/東宝)、『ヴィレッジ』(23年/KADOKAWA/スターサンズ)、『春に散る』(23年/ギャガ)など話題作に多数出演。主演映画『正体』(24年/松竹)で第48回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、ピアノに初挑戦した映画『片思い世界』(25年/東京テアトル/リトルモア)も話題に。現在はNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で主演を務める。吉田修一氏の同名小説を映画化した『国宝』(東宝)が6月6日より公開中。

“答えをくれない”監督からまたひとつ、新しい世界を見せてもらいました(横浜さん)

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ブルゾン¥630,000・Tシャツ¥100,000(クリスチャン ディオール)

伝統芸能である歌舞伎の世界を舞台に、孤高の芸を極める歌舞伎役者たちの壮絶な人間ドラマを描いた作品『国宝』。才能を見込まれ芸の道にすべてを捧げる部屋子の喜久雄(吉沢 亮)と、彼のライバルとして切磋琢磨し合う歌舞伎の名門の御曹司・俊介(横浜流星)の、50年に渡る波瀾万丈な半生を描いた話題作です。時間をかけて心と体に歌舞伎を染み込ませ、吉沢さんとともに稽古に励み、歌舞伎の演目のシーンは踊りも含めすべて吹き替えなしで挑んだという横浜さん。本作で“俊介という役を生きた時間”を深掘りしていただきました。

――まずは横浜さんが李相日監督から、『国宝』のオファーを受けたときの気持ちを教えてください。

李監督と組ませていただくのは2回目で、映画『流浪の月』を撮り終わって少し経った頃に本作のお話をいただきました。監督とご一緒できることがとてもうれしかったのですが、“簡単には答えをくれない監督”と再びお仕事をさせていただく、覚悟のような気持ちもありました(笑)。

──“簡単には答えをくれない”というのは…?

李監督の演出は本当に独特で、役者にヒントを与えて「答えは自分で探せ」というスタイルなんです。役を生きるためのヒントをいただきながら、監督の中の正解にたどりつくまで自分ひとりで答えを探す作業は孤独ですが、役者としてやりがいを感じる時間でもあります。今回も、暗闇の中でひとすじの光を探し出すような感覚でした。

──横浜さんが演じた俊介は、歌舞伎の名門の御曹司でありながらも父は自分ではなく、部屋子である喜久雄の才能に肩入れしてゆく。そんな複雑なバックボーンをもつ俊介の葛藤を演じるにあたって、横浜さんはどのように答えを探して人物造形されたのでしょうか。

俊介は自分に甘くて、おのれの弱さを直視できずに逃げ出してしまうようなところのある人間なんです。どちらかというと自分とは正反対なタイプ。少年時代はずっと空手に打ち込んできた自分からすると、むしろ苦手な類いの人間というのが第一印象でした。

しかし俊介は表面的には弱く見えても、歌舞伎役者としてライバルである喜久雄の前だけでは、自分の葛藤や劣等感を絶対に見せない。“弱さを隠す強さ”は俊介の人間らしさなのだととらえて、そこに心を寄せて彼という人を理解し、愛すことから始めました。撮影中監督からは「とにかく感情を隠せ」というディレクションがありました。“今の演技だと感情があまり見えなさすぎる”とか、“このタイミングではまだ感情をもらすな”などと細かく指示が出て、そのさじ加減が難しかったです。

これは李監督と前回ご一緒したときにも感じたことなのですが、監督は僕の中にある、ふだんは眠っているようなものを目覚めさせて、解放してくださるんです。そのおかげで、最終的に映像の中に“自分が苦手なタイプの人間”がちゃんと存在していた。監督始め吉沢くん、スタッフの皆さんに改めて感謝しています。

吉沢くんとは、気づけばあまり言葉を交わさなくても自然と分かり合える関係に(横浜さん)

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本誌未公開カット

──撮影期間のうち、約3か月は京都での生活だったそうですね。

心地よくも緊張感のある濃密な時間でした。李監督は1カット1カット、魂を込めて妥協せずに撮る方ですから、こちらも本気の全力で応えなくてはと現場にいる全員が“今、この瞬間にしか出せないもの”をと、大切に取り組みました。

──喜久雄役の吉沢 亮さんと女形のきらびやかな衣裳で向き合う、ポスタービジュアルもとても素敵でした。

実は吉沢くんとの共演は、僕のデビュー作である戦隊ドラマぶり。当時彼の親友役だったのですが、今回も親友役であることにものすごく運命を感じました(笑)。

そんな彼と撮影期間が3か月もあれば普通なら食事に行ったりするかもしれないけど、自分たちはしなかったんです。気づけばあまり言葉を交わさなくても自然と分かり合える関係になっていた。歌舞伎役者を演じる本作のために監督から約1年の準備期間をいただいたのですが、それが大きかったと思います。馴れ合いすぎず、お互いに切磋琢磨しながら、近すぎず遠すぎない、ほどよい距離感でいられたと思います。

踊りの稽古も最初はそれぞれ別々に練習して、ある程度覚えてから一緒に合わせる形で、最後は岐阜で泊まり込みの合宿も行いました。合わせる前は、俊介と喜久雄は性格が真逆なので、当然それは踊りにも現れるだろうと。その表現に悩んでいました。ところがいざ一緒に稽古をしてみると、彼はすごく女性らしい色気のある踊りをされていたので、それなら俊介の僕は逆に可愛らしさや華やかさを大切にしてみようと、方向性が定まりました。そうした意味でも、彼の存在は非常に大きかったです。

“歌舞伎ってこんなにも美しく、苦しく、生々しいんだ”と伝えられたら本望です(横浜さん)

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本誌未公開カット

──出来上がった作品をご覧になって改めて、俊介とご自身の中に重なる部分は見えましたか。

 “本物の役者になりたい”と模索して、答えを見つけようとあがいている部分は自分自身と重なりました。僕も心の中で“本物とは何か”をずっと探しているんです。作品の中で俊介は彼なりの答えを見つけられたので、自分も芸に芝居にと励み続けて、いつか“本物”を見つけられたら…と思っています。まだそれがどんなものかはわからないけれど、わからないから面白い。見つけてしまったらそこで終わりな気もするんです。だからずっと“本物”を追い求め続けていきたいなと思っています。

そういえば、アカデミー賞をいただいたとき、たくさんの方が祝福してくださる中で李監督からは“おめでとう”ではなく“まだ早い”と言われました(笑)。痺れましたね。自分の得意なことだけで評価されるのではなく、もっとたくさん挑戦しろと。そう言ってくださる方の近くにいられることがありがたいですし、とても幸せです。

――最後に、映画『国宝』を観る方に伝えたいメッセージをお願いします。

歌舞伎って、近くにあるのにどこか遠い存在だと思うんです。僕自身もこれまで日本人でありながら、伝統芸能をどこか遠く感じていました。なので今回の作品で“歌舞伎ってこんなにも美しく、苦しく、生々しいんだ”ということを伝えられたら本望です。歌舞伎の魅力をもっと多くの人に届けたいし、それを身近に感じてもらえたらとてもうれしい。俊介と喜久雄の葛藤や情熱、彼らの生き様が観る方の心に何かしら響いてくれたら最高です。


作品に対する熱い想いを情熱たっぷりに語ってくださった横浜流星さん。発売中の『Precious』7月号では映画『国宝』の撮影を経てたどりついた新境地や、役者としての覚悟にフォーカス。横浜さんの瞳が印象的な6ページに渡るグラビアも見どころです。ぜひ大きな誌面でご覧ください。

■映画『国宝』6月6日 (金)より公開中!

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
出演:吉沢 亮 
横浜流星/高畑充希、寺島しのぶ 
森 七菜、三浦貴大、見上 愛、黒川想矢、越山敬達
永瀬正敏 
嶋田久作、宮澤エマ、田中泯
渡辺謙
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
配給:東宝

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PHOTO :
熊澤 透
STYLIST :
根岸 豪
HAIR MAKE :
速水昭仁(CHUUNi Inc.)
COOPERATION :
BACKGROUNDS FACTORY
EDIT :
福本絵里香(Precious)
取材・文 :
谷畑まゆみ