原作は、村上春樹の傑作短編集『神の子どもたちはみな踊る』。1999年から2000年に発表された、阪神・淡路大震災の影響を遠くで受けた人々の物語ですが、映画『アフター・ザ・クエイク』ではさらにオリジナル設定を加え、現代までの物語にアレンジされています。岡田将生さんが演じたのは、阪神・淡路大震災を発端に離婚をし、失意の中で運命に翻弄されていく主人公・小村。村上春樹原作の映画は、『ドライブ・マイ・カー』(21年)に続き、2度目の出演となります。

俳優の岡田将生さん
俳優の岡田将生さん
岡田将生さん
俳優
(おかだ まさき)1989 年生まれ、東京都出身。2006 年デビュー。近年の主な映画出演作は、第 94 回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』(21年)、『1秒先の彼』(23年)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23年)、『ゴールド・ボーイ』(24年)、『ラストマイル』(24年)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24年)、『ゆきてかへらぬ』(25年)などがある。また、11月21日に細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』が公開。初出演となる韓国製作ドラマ Disney+オリジナル韓国ドラマ『殺し屋たちの店』シーズン2の配信も控える。

村上春樹作品に携わるのは、難しいけれど楽しい時間でもあります

――世界的にファンが多い村上春樹ですが、岡田さんにとって、特別な思いはありますか?映画『ドライブ・マイ・カー』に続いて2作目というのも、プレッシャーはあったのでしょうか。

「村上春樹さんの作品は、テーマ性がすごくあって、だけど難解で。物語も人物像も深いので、どこまで作品を理解した上でやるべきなのかを判断することが、ものすごく難しいです。けど村上春樹さんの言葉を、僕は大好きで。不思議と、発したくなるんですよ。それは『ドライブ・マイ・カー』のときもでしたが、今回の脚本を読ませていただいたときも、やっぱりそう思ったんです。言葉に力があるというか。ものすごくいろんな意味が含まれていて、それを俳優がどう言うかで変わっていくのが面白いんです。だからまた、今回も村上春樹さんの作品に参加できたのはすごくうれしかったですし、難しかったけれど、楽しい時間でもありました」

「今回も村上春樹さんの作品に参加できたのはすごくうれしかった」(岡田さん)
「今回も村上春樹さんの作品に参加できたのはすごくうれしかった」(岡田さん)

――岡田さんは読書好きだそうですが、以前から村上春樹はお好きでしたか?

「いや、『ドライブ・マイ・カー』の前は読めていなかったんです。普段から、いろんな本を読んでいるんですけど、なかなか村上春樹さんまで届かずで。でも逆に、前回の作品ではそれが活きましたし、今回はより村上さんの本を好きになった段階で、出演させていただけたのが、すごく大きかったかなというのはあります」

――確かに、この『アフター・ザ・クエイク』の脚本も、原作に忠実に沿ってセリフが書かれていますね。

「そうですね」

わかっていたら予定調和になってしまう。「わからない」のが面白いんです

――演じられた小村という男を、どのような人間だと捉えましたか?

「なるべく普遍的な人間であるべきだというのがありました。小村って、どこにでもいそうな人間なんですよね。それがとても難しくて。選択ができない男っていうか、ずっと周囲に流されている。小村が自分の意志をもつのは、本当にいちばん最後だけなんです。だからそこまで流され続けながら、この男をどう魅力的に見せられるかが、すごく難しいなと思いながら演じていました。……でも結局は、わからなかったな。僕にはわからなかったですね(笑)」

「この男をどう魅力的に見せられるかが、すごく難しいなと思いながら演じていました」(岡田さん)
「この男をどう魅力的に見せられるかが、すごく難しいなと思いながら演じていました」(岡田さん)

――(笑)。井上剛監督から、何か指示はなかったのでしょうか。

「それでいうと、監督も『わからない』とおっしゃってくれて。だからふたりともわからない。でもわかっていたら、結局つまらなくて。こうやればいいんでしょって、当てはめていくだけになってしまうので、わからないのが面白いんです。まずは即興演技のような感じで始めてみて、『もしかしたらこういう方法もあるかもしれない』って、監督やスタッフの方々と一緒にいろんな演じ方を探っていく時間があったのが、すごく楽しかったです。やっていくうちに、『今のがいちばんハマっていたかもしれない』みたいなところを、少しずつ見つけていく作業、みんなで悩みながらつくっていく感じがやはり楽しかったですね」

――なるほど。

「たとえば、妻が失踪したときの小村の反応を、どこまで表現するべきなのか。とても悲しんだほうが、そのあとの物語は面白くなるかもしれない。でもそれだとあまりにも人間性が出すぎて、その先のいろんなことにつながっていってしまうんですよ。だから意味をもたせすぎるのもよくない。本番前のテストの段階で、スタッフの方々に、今のどう思います?どう見えました?というのは、すごく聞いていましたし、チームみんなでそういう話をする時間が貴重でした」

「わからないのが面白いんです」(岡田さん)
「わからないのが面白いんです」(岡田さん)

―─監督のインタビューに、事前の読み合わせで「セリフをしゃべらずに演じてみた」とありましたが、それも“見つけていく作業”のひとつだったのでしょうか?

「リハーサルでも、いろんな演じ方を試したんです。その中で、小村と妻の間にどこまで会話があったんだろうっていう話が出て、『でも夫婦って別に会話がなくても成立するよね』ということになって。そんなところから、じゃあ1回セリフを全部なくして、無言のままこのシーンやってみようとなったんです。そうしたら、お互いが通じている瞬間はやっぱりあって、ちゃんと成立したんですよね。そういうことを試しながら、ちょっとずつ小村という人物像がわかってくる感じでしたね。」


映画『アフター・ザ・クエイク』 10月3日全国ロードショー!

(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ

本作は、ギャラクシー賞を受賞したNHKドラマ『地震のあとで』(2025年4月)と物語を共有しつつ、新しいシーンを加えた1本の映画として再構成されたものです。

■出演:岡田将生 鳴海 唯 渡辺大知/佐藤浩市
監督:井上 剛 脚本:大江崇允 音楽:大友良英
原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)より
製作:キアロスクロ、NHK、NHKエンタープライズ 制作会社:キアロスクロ
配給・宣伝:ビターズ・エンド
10月3日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー。

公式ホームページ公式X

衣装協力:ザ・リラクス

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取材・文 :
湯口かおり