【目次】

【前回のあらすじ】

前々回の「空飛ぶ源内」で、平賀源内が書いたとおぼしき草稿により、まんまとおびき出された蔦重(横浜流星さん)を待っていたのは、なんと天敵・松平定信(井上祐貴さん)でした。しかもそこには、火付盗賊改方の長谷川平蔵(中村隼人さん)、田沼意次元側近・三浦庄司(原田泰造さん)、大奥で総取締役を務めていた高岳(冨永愛さん)、儒学者の柴田栗山(嶋野久作さん)が顔を揃えていたのです。

そして前回「その名は写楽」の冒頭、定信は「われらと共に仇(一橋治済/生田斗真さん)を討たぬか」と蔦重に呼びかけます。身の危険を感じて協力を断る蔦重に、定信は脅し同然に「死んだはずの平賀源内が実は生きていると、世の中を大騒ぎさせてほしい」と命じるのでした。

(C)NHK
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史実としてはありえない展開ですが、ここですべての点と点が一気につながり、まさにラスボス戦へ突入!といった様相です。これぞドラマの醍醐味。

さてこのころ、芝居町には吉原同様、不景気風が吹き荒れていましたが、蔦重は人気役者が素の顔で総踊りする「蘇我祭(そがまつり)」が、芝居町の通りで大々的に行われることを耳にします。

源内も描いた蘭画(西洋式の油彩画)が「見たままを描くがよし」であることもヒントに、彼が思いついたのは…「役者の素の顔を写した役者絵を出す」→「芝居に客が戻ってくる」→「絵も売れる」→「その絵の作者が源内ではないかという噂で江戸中が大騒ぎ」という流れでした。

そこで集められたのが、北尾重政(橋本淳さん)、北尾政美(高島豪志さん)ら絵師たちと、大田南畝(桐谷健太さん)、朋誠堂喜三二(尾美としのりさん)ら戯作者&北尾政演(古川雄大さん)といういつもの面々。

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「もし源内が生きていたら、どんな画号を名乗ったろうか」と頭をひねった喜三二は、「“しゃらくさい”ってのはどうだろう」とつぶやきます。

「しゃらくせぇ」からの「しゃらくさい」。「洒落臭い」は「出しゃばり」「こしゃく」「洒落者」を意味し、いかにも源内にぴったりです。そこに「世の楽を写す」「ありのままを写すことが楽しい」という意味を添え、「写楽」という文字をあてたのは、蔦重でした。「べらぼう写楽」誕生の瞬間です!

これには一同、大いに盛り上がりますが、「源内が描きそうな役者絵をつくる」作業は困難を極め、くどくどしく続く蔦重のダメ出しに、ついには温厚な重政先生までがキレてしまいます。

「べらぼう写楽」、危うし…⁉


【「千両箱」の価値ってどれくらい?】

■千両箱の価値を現代に換算すると?

さて場面は変わって…「質素倹約のあおりを受け、身上を半減されまして」「吹けば飛ぶよな本屋ゆえ、資金繰りの苦しさに…」と、定信への盛大な皮肉で計画実行のための資金を無心する蔦重に、定信が与えたのは、小判が詰まった「千両箱」でした。

千両箱は通常、小判千両を収納するので千両箱と呼ばれましたが、二千両入り・五千両入りのものもあったようです。現在の貨幣に直すと、どれくらいの価値があったのでしょう。

江戸時代と現在では、社会の仕組みやライフスタイル、物価状況、さらに貨幣制度も違うため、お金の価値を単純に比べることはできません。あくまで参考として、日本銀行金融研究所貨幣博物館の資料をもとにお米の値段で試算すると、「1両は12万〜35万円」くらいになります。従って、「千両」は最も安く見積もって1億2千万円、最も高く見積もると3億5千万円、ということに。さすがは定信、太っ腹です!

■「金」の高騰で小判の価値もうなぎ登り?

もうひとつ、小判に含まれた「金」の含有量を、現在の地金相場で換算する方法もありますね。

約260年もの間続いた江戸時代、幕府の政策や財政状態に応じて、小判(金貨)は何度も改鋳されました。『べらぼう』第45回の舞台である1793年当時に使用されていた小判は、8代将軍吉宗の時代につくられた元文小判(1736~1818年)です。

元文小判は重さ約13gで金含有率は約65%。つまり、小判1枚に含まれる金は、約8.45gです。

2025年11月現在、金の価格は1g当たり約22,500円(田中貴金属 税込店頭買い取り価格)。従って
1両に金8,45g → 22,500円×8.45g ≒ 19万円
19万円×1000両 = 1億9千万円
です。

千両箱に入った小判は、純粋に「金」の価値に換算すると、約1億9000万円ということになりますね! ちなみに2000年の金相場は1gあたり1000円前後でしたので、この25年で22倍以上の急騰となっています。

※この計算は純粋に「金」の価値としての計算です。古物商などによるコレクター価格とは異なります。

■歌麿の肉筆画「深川の雪」が競売に!

そうそう、11月22日に香港で開かれた競売会社サザビーズによるオークションに、喜多川歌麿の肉筆画「深川の雪」が出品されていたことをご存知ですか? 「深川の雪」は歌麿の肉筆画3部作のうち、国内に唯一残る作品です。神奈川県箱根町の岡田美術館が収蔵していましたが、今回の放出で海外への流出が懸念されていました。

結果は、日本の個人コレクターが約5500万香港ドル(約11億円、手数料込み)で落札! 歌麿作品の落札額として最高値を記録しました。日本の宝を国内に残せて本当によかった!

前述の「千両=約1億9000万円」の計算ならば「深川の雪」は、千両箱6箱分ということになります。これには蔦重も歌麿も、「驚き 桃の木 山椒の木」ではないでしょうか!


【蔦屋重三郎、身上をかけての大博打。「写楽」爆誕!】

■彗星のごとく現れて、忽然と消えた謎の絵師・東洲斎写楽

世界的に最も有名な浮世絵師のひとりとして知られる東洲斎写楽。ですが、その活動期間は1794(寛政6)年から1795(寛政7)年にかけての、わずか10か月間。歌舞伎役者の「大首絵」28作をひっさげての、センセーショナルなデビューでした。

素材はすべて、その時期の芝居と相撲に集中していることから、実物を見ながらスケッチしたと言われています。そしてすべての浮世絵は蔦屋耕書堂からの出版です。

写楽の正体は長く謎とされ、かつては「写楽の正体は歌麿だった」「北斎だった」「円山応挙だった」など「写楽別人説」が盛んに唱えられていました。現在ではその論争にも決着がつきつつあり、写楽は阿波徳島藩主・蜂須賀家お抱えの能役者・齋藤十郎兵衛であるとされていますが、確定はしていません。

写楽の正体が能役者とは意外ですが、その論拠のひとつが、写楽の絵に見られるある種の「素人臭さ」だといわれています。写楽の絵は歌麿のように繊細で詳細、リアルな絵ではなく、少々大雑把で乱暴なアマチュアの絵。

当時、浮世絵師になりたい者は、幼いころから工房に弟子入りし、師匠の技術と「型」を学ぶのがお決まりのコースでしたが、写楽の絵は特定の工房の「型」に縛られない、冒険的で規格外な作風なのも特徴です。

例えば、重要文化財にも指定されている、役者絵(歌舞伎役者を描いた浮世絵)の傑作『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』を思い出してみてください。

歌舞伎役者・三代目大谷鬼次(おおたに おにじ)が、芝居の中で悪党・江戸兵衛を演じている場面を描いたもので、肩をすくめて手を前に突き出す、独特なポーズと鋭い表情がとても印象的な作品です。

三代目大谷鬼次は、『べらぼう』のタイトルバックでも繰り返し登場する、あの印象的な「手」の持ち主。素人目に見ても、あの「手」のデッサンは狂っていますよね。でもだからこそ、パッと開かれた手からは、男が大金を強奪しようと脅しをかける、一瞬の緊迫感やドラマがほとばしっているようです!

■『べらぼう』写楽はプロジェクトチーム

さて、『べらぼう』でも当初から、「誰が写楽を演じるのか?」「その正体は?」など、かなり話題になっていましたね。今回判明した「べらぼう写楽」の正体は、松平定信プレゼンテッド、蔦屋重三郎プロデュースによるドリームチームでした! 仲間が顔を合わせてわいわいがやがや、喧々諤々知恵を出し合う、お祭り騒ぎのようなミーティングは、いかにも「べらぼう」らしいシーンですよね。恋川春町(岡山天音さん)も、あの世でさぞかし羨ましがっていることでしょう…!

「べらぼう写楽」がチームプロジェクトであるならば、写楽がひとつの「型」に収まらない規格外の浮世絵師だったことも、習作や小さな挿絵などの修行時代の作品が見当たらないことも、期間限定の活躍だったことも、わずか10か月の創作期間にもかかわらず、作風が大きく変化することも、すべてがスパッと説明できてしまいます!

さらにドラマの終盤、蔦重のもとに戻ってほしいと歌麿を説得するてい(橋本愛さん)のシーンも、見応え十分でした!

「ふたりの男の業と情、因果の果てに生み出される絵というものを見てみたく存じます」。

写楽爆誕に至る、最後の1ピースをはめたのは、ていさんでした。恋仇でもある歌麿に、このセリフを言えるとは。本人曰く「本屋の性」。創造の現場を何より尊ぶオタクの鑑とも申せましょう。

振り返ってみれば歌麿に関しても、唐丸と呼ばれた子ども時代から、「唐丸は歌麿になるのでは?」「唐丸が写楽?」という説がありましたね! 結果的には、どちらも正解! 唐丸は歌麿でもあり、写楽でもあったというわけです。

リアルを語ればこんなドリームチームが実現した可能性はないに等しいとはいえ、「写楽はひとりの絵師ではなく、ひとつの工房で複数の職人が描いていたのでは?」という説を唱える学者も実在します。正体が確定していない限り、そこに創作やエンタメが入る余地は十分にあるわけで…しかも「みんなで写楽」なんて、べらぼうファンとしてみれば、最高の展開ではないでしょうか⁉

そしてNHK大河ドラマ公式「X」は、ついに最後のPR動画を公開しました。物語はいよいよフィナーレへ!


【次回 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』 第46回「曽我祭の変」あらすじ】

蔦重(横浜流星さん)は納得する役者絵が仕上がらず行き詰まっていた…。そんななか、蔦重と歌麿(染谷将太)、ふたりにしか生み出せない絵を見てみたいと訴えるてい(橋本愛さん)。この思いに突き動かされ、歌麿が再び耕書堂に戻ってくる。

(C)NHK
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その後、役者絵は完成し、歌舞伎の興行に合わせて、蔦重は絵師・東洲斎写楽の名で絵を売り出す! 写楽のうわさは、徐々に江戸市中、江戸城中にも広まっていく…。

※『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第45回「その名は写楽」のNHK ONE配信期間は2025年11日30日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料: 『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 後編』(NHK出版) /『NHK大河ドラマ・ガイド べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~ 完結編』(NHK出版) /『NHK2025年大河ドラマ完全読本 べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺』(産経新聞出版) /『見てきたようによくわかる 蔦屋重三郎と江戸の風俗』(青春文庫) /『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(文春新書)/貨幣博物館「お金の歴史」(https://www.imes.boj.or.jp/cm/history/)/野村ホールディングス・日本経済新聞社「お金の歴史雑学コラム」(https://manabow.com/zatsugaku/) :