【目次】
【正月事始めとは?】
「正月事始め」を『デジタル大辞泉』で引いてみると、「正月の準備を始める日。地域により12月8日または12月13日とする」とありますが、多くは12月13日を意味します。「事始め」とは、ものごとに初めて手をつけること。「始め」や「着手」と同義ですね。
「正月事始め」とは、江戸時代、陰暦12月に「煤(すす)払い」などをして正月の準備を始めることを「御事始め(おことはじめ)」と呼んだことに由来します。江戸では8日、上方(京都を中心とした近畿地方)では13日に行ったため、現在でも12月8日を「正月事始め」とする地域もあるようです。ちなみに… 陰暦2月8日に年神の棚を取り外したりして、正月の行事の終わりとしたことは「御事納め(おことおさめ)」と言います。
【「煤払い」に込められた意味】
「煤払い」とは、新年を迎えるために屋内の煤を払って清めること。「正月事始め」で行う最初の行事です。「煤掃き」や「煤落とし」「煤下ろし」とも呼ばれます。
千葉県の成田山新勝寺や京都府にある西本願寺など、寺社の「煤払い」が年末の恒例行事としてテレビや新聞などで報道されることもありますね。伊勢神宮では社殿を清掃して清め、新年の準備に取り掛かる報告を神さまに告げる神事「御煤払式(おすすはらいしき)」が執り行われます。
現代は家庭で火を焚いて煤が出るようなことは少なくなったため、「煤払い」は大掃除を始める日、と考えるといいでしょう。2025年の12月13日は土曜日。大掃除を始めるグットタイミングではありませんか?
■「煤払い」に関連するワードの豆知識
・煤竹(すすたけ):煤払いには笹竹のほうきを使いますが、「煤竹(すすたけ)」という言葉は、長年囲炉裏の煙でいぶされ赤黒く変色した竹材を指します。茶杓や建材として珍重される素材です。
・煤籠(すすごもり):煤払いの際、煤を避けるために老人や子供に別室に移ってもらうこと。「煤逃(すすにげ)」ともいいます。
・煤湯(すすゆ):煤払いのあと、体に被った汚れを落とすために風呂に入ることを言います。
・煤見舞い(すすみまい):煤払いのあと、隣近所や知人などが蕎麦を贈ること。「お疲れさま」という意味を込めて、作業の合間にでもささっと食べられる蕎麦を贈るなんて、粋な計らいですね。
【「松迎え」とは何?】
正月に歳神(としがみ)を迎えるための飾りである「門松」に使う松を山に採りに行く行事を「松迎え」と言います。もともとは、歳神さまをお迎えするための神事とされ、地域によっては「松取り」「松切り」とも呼ばれました。
昔の農村社会では、この時期だけは“神事のため”として山に入って松を採ることが特別に許されていたと伝えられています。ただしこれは、現代のような国有林や私有地の境界意識が厳密になる以前の慣習であり、今日ではもちろん、勝手に山に入って松を切ることはできません。
また「松迎え」には、古い言い伝えや縁起担ぎもいくつかあります。例えば…
・家の屋根より高い、遠くの山の松がよい
→ 遠方から歳神様が来臨するという考え方の象徴。
・家より低い場所の松は避ける
→「運が下がる」「神が見下ろす」の連想から。
など。神さまが宿るのは若松より古木の松、とする地域もあれば、反対に「若々しい生命力」を重視する地域もあります。これらは各地の民間信仰や歳神観に基づくもので、全国共通ではなく、地域色の強い習わしです。
現代では多くの家庭が市販の門松やしめ飾りを使いますが、「松迎え」の精神=“新年の神様を迎えるために、家の場を清め整える”という考え方自体は、今の暮らしにも受け継がれています。
■「正月事始め」で重要な「門松」
門松は、来臨する歳神(としがみ) の依代 (よりしろ、目印)です。厳しい環境下でも青々と茂る常緑樹である松は不老長寿や神が宿る木とされています。竹には節があって真っ直ぐ伸び、生命力や子孫繁栄の象徴です。この組み合わせは「松は千歳(ちとせ)を契り、竹は万歳(ばんぜい、ばんざい)を契る」といわれ、長寿と繁栄の象徴とされています。また、地域によっては「難を転じる」に通じる南天の赤い実を添えることもあります。
門松は、本来は「松迎え」のあとすぐに飾るものでしたが、現代ではクリスマスが終わったらすぐ…が多いですね。29日は「二重苦」に通じ、31日は「一夜飾り」になってしまうので、この日に飾るのは避けるのが望ましいといわれています。
一方、片付けは、関東や東北地方では松の内(1月7日)に、関西では小正月(1月15日)にとすることが多いようです。
なお、松ではなく、榊(さかき)や朴(ほお)、檜(ひのき)を用いることもあります。
【現代の暮らしに活かす「正月事始め」何をすればいい?】
12月13日の「正月事始め」をきっかけに、あと2週間ちょっととなった大晦日までにすべきこと、しておきたいことを、リストアップしてはいかがでしょう。その例をいくつか挙げますので参考にしてみてくださいね。
■大掃除
普段はやらない(見て見ぬふり?)場所や、家具を移動しての掃除を、「えいっ!」と気合を入れてするのが「大掃除」。埃を払い、から拭き、水拭き、洗剤などを使っての拭き掃除やワックスがけなど、床、壁、天井、家具と、あらゆるものを「一年間ご苦労さま」という気持ちで磨き上げましょう。
また、一年間使用することがなかったり、使用頻度が極端に少なかったものの処分を検討するいい機会です。ゴミにしてしまわず、譲ったり売ったりすることも考えてみてはいかがでしょうか。
■正月飾りを用意
門松は歳神さま来臨の目印ではありますが、門前や玄関先に門松を飾るスペースがない…という家庭も多いでしょう。玄関ドアにしめ飾りを吊るしたり、室内に卓上サイズの門松を飾ったりするのでも十分です。今の暮らしになじむデザインや材質の正月飾りもたくさんありますよ。
■カレンダーや手帳を新調
デジタルツールが主流になった今でも、紙のカレンダーを壁に掛けたり、新しい手帳を開く瞬間には、特別な高揚感があります。その1枚、その1ページから始まる新しい季節を、指先で実感できるのは紙ならではの楽しみ。
“来年はどんな時間を重ねよう?” と想像しながら選ぶカレンダーや手帳は、新年に向けて気持ちを整える、ささやかな贅沢にもなります。
■どうする!? おせち料理
おせちは「お節」と書くように、もともとは中国から伝わった年中行事「五節句(ごせっく)」にちなんだ節句料理のこと。その中でも、年の始まりである正月の節句料理が特に重視されたため、今日では「おせち料理=正月料理」を指すようになりました。
正月のおせちは年末のうちに作り置きし、数日にわたっていただくため、日持ちのする料理が中心。砂糖や塩を多く使った保存性の高いおかずが伝統的です。
海老は腰の曲がった姿が長寿の象徴、数の子は子孫繁栄、黒豆は「まめに働けるように」、田作りは五穀豊穣……。ひとつひとつに、新しい一年の幸せを願う意味が込められています。
現代では、おせちを購入する人も増えています。老舗日本料理店のものはもちろん、フレンチの巨匠が手がけた洋風おせち、中国料理やイタリアンなど、スタイルも価格帯も実に多彩。地域ならではの郷土料理が入ったセットもあり、毎年違うおせちを取り寄せる楽しみ方も広がっています。
一方で、すべて手づくりではなくても、「黒豆だけ炊く」「お煮しめだけつくる」など、好きな一品を手づくりするスタイルも素敵。「錦たまごも意外と簡単にできて楽しい!」と言う人もいます。台所に立つ時間までもが、新年を迎える準備のひとつの儀式になりますね。
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12月13日の「正月事始め」は、本格的に新年を迎える準備をスタートさせる日。年内の仕事や予定に追われていると、「とてもそんな気分になれない…」と思ってしまうこともありますよね。
年内に片付けなければならない仕事の見通しも立っていないのに「正月事始め」とは…と嘆いている人、いませんか? でも、少し先のことに思いを馳せると、目の前のやるべきことへの意欲にも火がつくかもしれません。泣いても笑っても新しい年は必ずやってきます。だからこそ、「整える時間」を楽しむような気持ちで、できることから始めてみませんか。来年の自分を思い浮かべながら、ひとつずつ前へ進む時間を楽しんでいきたいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本の歳時記』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『世界大百科事典』(平凡社)/『和の暦手帖 二十四節気と七十二候を愉しむ 』(だいわ文庫) :

















