【目次】

【第2回のあらすじ】

「わしが恐ろしかったのは…兄者だ」

『豊臣兄弟!』第1回では、尾張国(現在の愛知県西部)で田畑を耕しながら極貧生活を送る小一郎(のちの豊臣秀長/仲野太賀さん)を、兄の藤吉郎(のちの豊臣秀吉/池松壮亮さん)が自身の出世のために力を借りようと、「一緒に侍になろう」と必死に説得する様子が描かれていました。

説得を試みる兄に対する小一郎の答えが、冒頭のセリフです。小一郎が恐ろしかったのは、生まれて初めて殺されかけたことではなく、小一郎を襲った曲者(くせもの)を、何のためらいもなく切り捨てた兄・藤吉郎だったのです。 

なんと言っても、今回の大河ドラマ、藤吉郎のキャラ設定が不気味です…。どんなときにも笑顔を絶やさない、一見陽キャな彼が、実は嘘をついたり人を殺めることに、何の躊躇もうしろめたさも感じない冷酷な一面をもつことに、底知れぬ恐ろしさを感じます。「みんなを喜ばせて、誰からも好かれたい」と言いつつ、己の欲のためには計算高く冷徹。ひと言で言って“ヤバい男”です。

一方で、物語の主人公である小一郎は、あくまで有能な常識人として描かれています。コミュニケーション能力に長け、アクシデントにも理論的に対応する、調整役としてのシゴデキぶりは、エラくなりたい藤吉郎にとっては、まさに理想の部下といったところでしょうか。

こののち、出世街道を駆け上がっていく藤吉郎を支える、唯一無二のパートナーとなる小一郎の立ち位置と、ふたりのバディ感がうまく伝わってくる脚本でしたね。

さて、第2回となる「願いの鐘」では、藤吉郎と別れ村へ戻った小一郎が、幼なじみの直(白石聖さん)から縁談が決まったと告げられます。胸に秘めた直への想いを抑え、祝いの言葉を伝える小一郎に、「小一郎ならそう言うと思った!」と寂しそうに笑う直。ふたりを隔てるのは、”身分の違い”という高い壁です。

(C)NHK
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やがて迎えた直の祝言の日。突如として現れた山賊に村が襲われ、女子どもはもちろん、多くの仲間が命を落とします。何よりも「守りたい」と願っていた日常が、あっけなく壊される理不尽な現実を前に、何もできない自分に絶望する小一郎…。

「信長なんぞ、我らを守ってはくれない!」「あまりにも惨めだ」と咆哮する小一郎に、再び姿を現した藤吉郎がこう答えます。「行こう! わしと一緒に。侍になれ!」

「この世を変えたければ、自分が侍になって社会の仕組みを変えるしか方法がない」。藤吉郎はあくまで冷静に、現実を読み切っていたのですね。やはり、ただの陽キャではありません!

藤吉郎の真意を頭では理解しつつも、母や姉妹を残し出ていくことを決めかねていた小一郎の気持ちを察し、そっと背中を押してくれたのは、母・なか(坂井真紀さん)でした。

ついに侍になることを決意した小一郎は直に想いを打ち明け、藤吉郎と3人、清須を目指して歩き出すのでした。

そうそう。今回、小一郎が墓石の下にお金が入った壺を隠すシーンが描かれていましたね。第1回でも、小一郎は直と、「村の仲間の諍(いさか)いを収めたら銭一枚」という賭けをしていました。そういえば、道の工事を指揮して得た日当も、大部分は家族に渡さず隠したままだったような…。

史実としての小一郎(のちの秀長)に対する人物評は、専門家の間でも、沈着冷静、温厚で控え目、決して出しゃばらず…とかなりの高評価なのですが、実は1点だけ、あまり芳しくない噂(評)がありまして…。お金に関する描写は、この噂にまつわる伏線かと思われます。

第1回より。(C)NHK

さて、どんなふうに描かれていきますのやら…この点もお楽しみに!


【物語の歴史的背景をおさらい】

『豊臣兄弟!』開始当時の舞台は、永禄2(1559)年の尾張国(おわりのくに)。「戦国大河」を見慣れた人なら、現状と今後の展開は頭に入っているはずですが…ここでは「戦国初心者」のために、歴史的な背景をざっと解説しましょう。

■豊臣兄弟の父はどんな人物?

兄弟の父は、足軽として織田信秀(信長の父)に仕えていました。秀吉は貧しい百姓出身というイメージが定着していますが、史実ではもともと秀吉の生家は土地を多く所有していた上層百姓でした。ところが兄弟が幼いころに戦で命を落とし、一家は没落。そして、ドラマで描かれたころには、すっかり困窮していたというわけです。

■尾張はどんな国だった?

尾張(現在の愛知県西部)は、西日本と東日本の中間地点として、古くから交易の盛んな土地でした。

兄弟が育った尾張国中村は、現在の名古屋市中村区にあった集落です。そしてふたりが目指した清須は、織田信長が本拠を構えた愛知県北西部の地名。清洲とも表記されます。戦国時代は尾張国の首都機能を有した中心都市でした。

藤吉郎は天文6(1537)年生まれ、小一郎は天文9(1540)年生まれといわれています。平和な世であれば、農民として穏やかな暮らしができたはずでしたが、当時の尾張は、守護代として統治していた織田氏が、大和守家(清須織田家)と伊勢守家(岩倉織田氏)とに分裂し、抗争を繰り返していました。

永禄2(1559)年に織田信長(ドラマでは小栗旬さん)が岩倉城を落とすと、尾張国は信長により統一されます。当時の信長は、「尾張国の有力大名ではあるが、まだ全国的な覇者ではない」という段階です。周囲からは依然「うつけ者」という評価も残っており、有力視されてはいたものの、あくまで発展途上のいち戦国大名にすぎなかったのです。

(C)NHK
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■目下の敵は今川義元

今川義元は駿河(現在の静岡県中部辺り)を本拠地とする有力大名です。今川家は公家文化に通じ、名門意識が強く、1559年時点では、尾張国・織田家に対して圧倒的な優位を保っていました。有名な「桶狭間(おけはざま)の戦い」は永禄3(1560)年。つまり『豊臣兄弟!』第1回、第2回は、時系列で言えば「桶狭間前夜」と言うことができます。


次回 『豊臣兄弟』第3回「決戦前夜」あらすじ】

故郷の中村をあとにした小一郎(仲野太賀さん)、藤吉郎(池松壮亮さん)、直(白石聖さん)の3人は織田
信長(小栗旬さん)の城下町・清須にやって来る。織田家臣の浅野長勝(宮川一朗太さん)のもとに挨拶に訪れるが、その場で直は長勝の娘・寧々(浜辺美波さん)の侍女になることが決まる。兄弟の二人三脚の暮らしが始まるが、藤吉郎は小一郎にある秘密の計画を打ち明ける。そしてついに今川義元(大鶴義丹さん)の大軍が尾張に向けて進軍を始める。

(C)NHK
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※『豊臣兄弟!』第2回「願いの鐘」のNHK ONE配信期間は2026年1日18日(日)午後8:59までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版) /『NHK2026年大河ドラマ完全読本 豊臣兄弟!』(産経新聞出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』/『デジタル大辞泉』(小学館) :