今月のMs.Precious……55歳、とある地方都市在住の米国公認会計士。新卒で大手外資系コンピュータ会社に就職。食事会(という名の合コン)で知り合った半導体メーカー勤務の夫と30歳手前で結婚。もう少し会社員生活を送りたかったが、夫の海外赴任に帯同するために離職。アメリカとヨーロッパ主要都市を点々とし、3年前に本帰国した。夫は社長に昇格するも、本社所在地が地方のため、のんびりとした生活を送っている。駐妻時代、あり余る時間で取得したアメリカ公認会計士(USCPA)の資格を活かし、現在遠隔でアメリカにある公認会計士事務所の業務を請け負っている。夫はクルマに関心が薄く、今までは自分が好きなものを車検の度に買ってきた。地方暮らしでこれといったお金の使い道がなく、以前から気になっていたマセラティからグラントゥーリズモの限定車が出たというので、今回松任谷さんとの試乗対談を申し込んだ次第。

今月のクルマ……【Maserati Gran Turismo Trofeo 75th Anniversary】
マセラティの創業は1914年。1950年代頃まではスポーツカーレースやF1において黄金期を誇ったレースの名門だけに、技術へのこだわりの強いブランドです。初めての市販車は、レーシングテクノロジーとエレガントなデザインが融合したA6 1500で、これはGran Turismo(長距離を快適に、かつ高性能で移動するための車)というカテゴリーを代表する名車のひとつ。その後のマセラティも、高度な自動車技術をバックボーンに、優雅な移動時間を富裕層に提供してきたブランドであることに異論はないでしょう。この文脈からすれば、今回紹介する「グラントゥーリズモ」は、まさにマセラティのスペシャリテ。エンジン開発にかかるコストが非常に高くなっている昨今、マセラティは「ネットゥーノ」と呼ぶ新しいエンジンを新開発しています。現代のF1に大きなパフォーマンスアップをもたらしたコア技術、プレチャンバー燃焼を導入した高度なエンジンで、これを搭載するマセラティ・グランツーリスモはまさに、レース直系技術の優雅な2ドアクーペ。マセラティも例に漏れず、SUVによるポートフォリオの多角化に成功しているものの、このグラントゥーリズモは「これぞマセラティ」という醍醐味を存分に味わわせてくれる1台なのです。

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「マセラティには優雅なイメージがあります」――Ms.Precious

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「Nero Cometa Matte(ネロ=黒、コメータ=彗星)という黒マットは、光の加減でピンクがかっていたり、緑がかっていたり。オーロラのような黒は、見れば見るほどカッコいい!」(Ms.P)

Ms.Precious 松任谷さん、マセラティについてどういう印象を持たれてます?

松任谷 そうですねえ。個人的にはMC20というモデルからガラッと変わった印象ですね。

Ms.Precious MC20って、あのスーパーカーみたいな?

松任谷 はい、あれです。

Ms.Precious 私はあれ、あまりマセラティっぽくないな、と思っているんですけど。

松任谷 なるほど、どういうところがですか?

Ms.Precious マセラティにはもっと優雅なイメージを私は持っているんです。

松任谷 なるほどね。例えばどんなモデルをイメージされてますか?

Ms.Precious 昔からあるクアトロポルテとかね。いかにもって感じがしないでしょ?

松任谷 確かにそうですね。

Ms.Precious 私のお友達が持っていて、何度か乗せてもらって、いつかはマセラティ、と心に決めていたんですよ。

松任谷 ちょっと前までのマセラティって、乗り込むと独特の匂いがしたんですよね。なんというか、むせ返るようなレザーの香りというか、まるでそれにムスクが塗り込んであるような。

Ms.Precious よくは覚えてないですが、セクシーで時計が素敵だったわ。

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「昔は完全なるアナログだったのだろうけど、今はこう見えてもデジタル。この分針とともに文字盤の色が変化するツートーンは意外と見やすい」(Ms.P)

松任谷 そうですね。マセラティはそういうディテールにもこだわっていますよね。でも僕はMC20が登場する前までのマセラティはあんまり印象良くないんです。

Ms.Precious あら、どうして?

松任谷 まず、シートは僕には合わなかったですね。どこかボテッと厚く、あまり体をホールドしてくれないような……。

Ms.Precious そうだったかしら。

松任谷 それと、どこか重ったるいというか、打てば響くような感覚が薄かったですね。さらに言えば、それなのに排気音がやたら勇ましくて、遠くからでもマセラティが来た、と分かりましたからね。

Ms.Precious きれいな音だと私は思いましたけど。

松任谷 メーカーの人たちもそう思って作っていたんだと思います。

Precious.jp ではそのMC20からはどう変わったんですか?

松任谷 一言では説明出来ないんで、乗ってみませんか?

「黒マットにグリーン。このセンスはさすがイタリア、いや、さすがマセラティ」――松任谷

Ms.Precious これは黒ですか? 艶消しなんですね。

松任谷 光によってグリーンにも見えたりしましたね。艶消しにもいろいろあるけれど、これはかなりざらざらしたフィニッシュですね。傷とかは目立たないんだろうか……。

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「オフィシャルには"ミントグリーン"と呼んでいるらしいのですが、松任谷さんの言うとおり、エメラルドグリーンにも見えるし、蛍光色のようにポップなカラー。おしゃれです」(Ms.P)

Ms.Precious ちょっと心配になりますね。でも、このエメラルドグリーンのアクセントが素敵。

松任谷 このセンスはさすがイタリアですよね。いや、さすがマセラティと言うべきかな。

Ms.Precious 実を言うと、松任谷さんが2年位前にテレビのクルマ番組でこのクルマをべた褒めしていらっしゃるのを拝見したんですよ。

松任谷 ひょっとしてスカイブルーみたいな塗装の? あれもざらざらのマットでしたね。

Ms.Precious MC20は好きじゃないけど、これならいいかも、とピンと来ました。

松任谷 どうですか? 実車を前にして。

Precious.jp エメラルドグリーンはいいけど、ボディカラーはもう少し薄い色がいいかな。

松任谷 あとで調べてみましょう。

Precious.jp では私が運転していいんですか?

松任谷 もちろんです。よろしくお願いします。普段はメルセデスにお乗りだとか。

Ms.Precious そうですね。車検ごとに乗り換えているのでメルセデスには詳しいです……なんてね。

松任谷 メルセデスからマセラティというのも面白いですよね。

Ms.Precious 変ですか?

松任谷 いや、いいと思います。マセラティは男性が乗るとちょっと嫌味に思うこともあるんですが、女性が乗ると本来のマセラティの良さが出る気がします。偏見ですけど。

Ms.Precious そう、だから私のお友達もカッコいいの。

松任谷 エンジンをかけるにはステアリングについているボタンを押してください。その左側の青い方です。

Ms.Precious 右側の黒いボタンは?

松任谷 モード切替スイッチです。外側のダイヤルを回すとGTモードとかスポーツモードとかコルサモードとか切り替わります。エンジンのマッピングと乗り心地が変わっていくんです。

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「左の青いボタンがスターターボタン。右の黒いボタンはモード切替ボタン。高速に乗ったところで試してみたけど、非常によいフィールでした」(Ms.P)

Ms.Precious じゃあ、かけますね。

松任谷・Ms.Precious  ……。

松任谷 どうですか?

Ms.Precious 意外に大人しいですね。お友達のクアトロポルテはもっとテノールで歌うようにかかります。

松任谷 そうですよね。マセラティもだんだん静かになってきてます。ヨーロッパの騒音規制とかの問題もあるから。

Ms.Precious 寂しいですね。

松任谷 でも、早朝とか深夜とか、静かな方が良くないですか?

Ms.Precious でもやはりマセラティはオペラみたいな方が……。

松任谷 動かしてみましょう。シフトはセンターコンソール上のその四角いボタンです。

Ms.Precious へえ。こんなところにあって大丈夫なんですか? ラジオのスイッチと間違えないかしら。あるいはエアコンのスイッチとか。

松任谷 やったことないんで分かりませんが、動いている時に触っても反応しないんじゃないですかねえ。

Ms.Precious そうですよね。じゃあ走ります。

松任谷 はい、どうぞ。

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「黒ホイールにアクセントのグリーンが効いてます。最初は正直『え? ちょっとヤンチャな感じ?』と思ったけど、見慣れるとかなり気分が上がります」(Ms.P)

Ms.Precious なんだかいい感じ。うふっ。

松任谷 イメージ通りでしたか?

Ms.Precious そうねえ。そう言われればそんな感じもするし、イメージ出来なかったとも言えるし。

松任谷 僕もだいぶ前にちょっと乗っただけなのでほとんど忘れてます。

Ms.Precious あのスカイブルーの?

松任谷 そうです。ほんの少しだけでしたから。

Ms.Precious ずいぶんお褒めになっていたのよ。覚えてらっしゃらないんですか?

松任谷 歳のせいですかね。

Ms.Precious 第一印象は重厚な感じですね。メルセデスが軽く感じてしまうかも。

松任谷 ステアリングの重さも関係していると思いますが、確かに低速ではずっと重いクルマのような感覚は助手席側でもあります。あとはエンジンの音のせい、とか。

Ms.Precious 普通のクルマの音ですよね。

松任谷 まあ、低速で走る限り、あまり特徴を感じないですが、このネットゥーノエンジンはMC20に初めて積まれてすごく良かったのを覚えています。

Ms.Precious 同じエンジンなんですか?

松任谷 そうですね。以前のグラントゥーリズモにはフェラーリエンジンのものもあったんですけどね。

Ms.Precious そこから高速に入っていいですか?

松任谷 入りましょう。

Ms.Precious 少しだけエンジンが歌い始めたけど、でもやっぱり普通の音ですね。

松任谷 僕の記憶の中ではもう少し歌っていたんですけどね。

Ms.Precious でも、運転はしやすいです。すいすい走れます。

「ものすごく速度感がないから、ついつい飛ばしてしまう。速度オーバーに気を付けないと」――松任谷

松任谷 実を言うと僕にはこのシート形状が合ってなくて、30分も運転していると腰が痛くなっちゃうんです。

Ms.Precious 私にはパーフェクトに合っていると思います。何時間でも行けそう。

松任谷 シートって不思議ですよね。合う合わないが人によって全然違うから。

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「私はこのシート、ぴったりフィットします。クーペだし、後席は正直期待していなかったのですが、全然窮屈に感じない広さです。ヘッドレストにも75周年モデルの刺繍が」(Ms.P)

Ms.Precious おっと……あらびっくり。

松任谷 どうしました?

Ms.Precious 思ったよりスピードが出ていたもので……。

松任谷 あ、ほんとだ。僕ももっと遅いと感じていました。ものすごく速度感がないですね、このクルマ。

Ms.Precious ゴールド免許じゃなくなっちゃいそう。

「お友達と2台のマセラティで連ドラしている図が思い浮かびます。気持ちよさそう」――Ms.Precious

松任谷 エンジンを歌わせようと思わない方がいいかも、ですね。

Ms.Precious 助手席での印象はどうですか?

松任谷 実を言うと、前ほどでもないかな、と思っていたりして。

Ms.Precious どういうことですか?

松任谷 なんだか少し揺れ残りがありますよね。路面の起伏を通過する時にユラッとします。以前は感じなかったんですけど。ちょっとスポーツモードにしていただけますか?

Ms.Precious この丸いボタンを回せばいいのね?

松任谷 そうです。あっ、こっちのほうがいい。なんだかピタッと来ましたね。乗り心地は多少硬くなるけど安定しませんか?

Ms.Precious そうですね。この方が運転しやすいです。特に高速道路では。

松任谷 なんだか周りのクルマからの視線を感じるんですけど、気のせいでしょうか?

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「この曲線美、素敵。横顔が一番好きです」(Ms.P)

Ms.Precious 私はそれどころじゃないから分かりません。

松任谷 意識のしすぎなのかなあ。

Ms.Precious マセラティが派手だって事ですか?

松任谷 決して地味ではないですよね。

Ms.Precious 今、私お友達と2台のマセラティで連ドラしている図を想像していました。

松任谷 割合、見たことのない図ですね、それ。

Ms.Precious 変ですか?

松任谷 いやいや、カッコいいと思います。おっと、スピードスピード。

Ms.Precious うわあ、やっぱり好みです。このクルマ。

松任谷 こりゃあディーラーに直行ですかね。

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今月のクルマ
【Maserati Gran Turismo Trofeo 75th Anniversary】

ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,965×1,955×1,410mm
車輛重量:1,870kg
車両本体価格:¥36,600,000(トロフェオ標準仕様車¥27,460,000[ベース価格]~)
(グラントゥーリズモ標準仕様車のベース価格は¥21,880,000~)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

マセラティ ジャパン

TEL:0120-965-120

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子