ヤマザキマリさん
1967年東京都生まれ。漫画家、文筆家、画家。1984年渡伊。国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で油絵と美術史を専攻。『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。以降、受賞歴多数。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『ヴィオラ母さん』(文春新書)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)ほか。現在『少年ジャンプ』(集英社)にて『続テルマエ・ロマエ』連載中。

ものづくりの精神性を模索した先にあった至福の感触

自分だけではなく、みんなが幸せになれるような、何かを生み出すこと。それが人間のよい特徴。だから、ものをつくるひとになるためには、あなたもよいものにたくさん触れてこなければならない。もしあなたが表現者になりたいのなら、時代を超えて、今も多くの人々にとって生きる喜びを与え続けている作品と、たくさん出会わなければならない。

子供の頃、大人になったら絵描きさんになると宣言した私に、音楽家の母が言ったこの言葉を、今も折りに触れ思い出す。彼女が14歳の私にひとりでヨーロッパへ旅をさせたのも、遠い過去のだれかが全身全霊を尽くして作った創造物に潜む普遍性というものを、身をもって体感してほしかったからだろう。

それから間も無く、イタリアでの留学生活が始まってからも、ものづくりの精神性に接する機会は数限りなくあったが、そんな模索を何十年か続けてきた私が辿り着いた先にあったのが、“ロロ・ピアーナ”のテキスタイルだ。

“ロロ・ピアーナ”の店を訪れたのは今からもう20年ほど前、幼い子供を連れて夫の実家からほど近いヴェネチアを訪れていたときに遡るが、ふらりと立ち寄った店の中で不意に手に取ったストールの感覚は、今でも忘れられないくらい衝撃的だった。

何をどうしたら、このような感触の生地が人間の手によって生み出されるのか、絵画や彫刻などの視覚を通じてではなく、音楽のように聴覚を介してでもない、まさに肌で触れるという感触に感動を覚えた経験は人生で初めてだった。

こんなに柔らかくて優しい素材に肌を包まれてさえいれば、自分はいつでも元気になれる気がしたし、生涯付き合っていけるという確信を感じて調達したそのストールには、ずいぶん長い間助けられてきたが、あの驚きは数年経っても変わらないどころか、“ロロ・ピアーナ”の最新技術が駆使された新しい作品ができるたびに更新され続けている。

慎ましさの中に圧倒的な気品を纏う

たとえば、近年彼らが開発した「ロロ・ピアーナ・ロイヤル・ライトネス」という糸(メリノウールとシルクのブレンド)と生地(カシミアとシルクのブレンド)。なかでも生地には、わずか21デニールというオルガンジーノシルクと15ミクロンの長繊維カシミアの2種類が使われている。生地1メートルあたりの重さはわずか350グラムという驚異的な軽さが特徴だが、あまりの細さから、この糸を扱えるのは比類ない知識とスキルを持った一握りの職人のみとされ、作業が可能な工房も限られている。ただでさえデリケートな素材に丁寧なプロセスを経て、二つの繊維の持つ優美な光沢と軽さという美徳が織りなされた糸は、そのあとも、いくつもの手間の込んだ段階を経て、“ロロ・ピアーナ”の製品らしい、ふんわりやわらかい肌触りの生地へと仕上げられていく。

慎ましさの中に圧倒的な気品を纏った生地の、“どうぞ触ってみてください”と誘わんばかりのオーラは、数メートル離れた先からでもそれを目にした人の意識を捉えて離さない。そしてその生地が肌に触れた瞬間、柔らかさと優美さの中に、しなやかな強さが秘められていることに驚かされるだろう。と同時に、この服は私と人生を歩んでいける、どんな時も私を優しさで守ってくれる、という信頼が芽生えるのである。

人間関係にも当てはまることだが、年齢を重ねていくと、身につける衣服も、本心からリスペクトできるものが良い。その素材にどれだけの職人たちの熱意と時間、そして素材に対する愛情が込められているのか、優先されるのはそうした質感になる。それは書籍や美術品を選ぶ感覚に近いかもしれない。

「ロロ・ピアーナ・ロイヤル・ライトネス」は、地球が与えてくれたカシミアと繭という、世にも優しく、そして世にも柔らかいふたつの素材と、母のいうところの「人間のよい特徴」が重なり合って生み出された、テキスタイルの傑作なのである。(文=ヤマザキマリ)

「何をどうしたら、このような感触の生地が人間の手によって生み出されるのか」──ヤマザキマリさん

ロロ・ピアーナのトップス
トップス¥728,200(ロロ・ピアーナ ジャパン)

繊細さの高みを極めたカシミアシルクのトップス

天にも昇るかのように軽く、ふわふわと柔らかな肌触りが楽しめる「ロロ・ピアーナ・ロイヤル・ライトネス」の生地でつくられたカシミアシルクのトップス。単体では織り上げるのが極めて難しい超極細カシミア糸を使用し、カシミアの周りにシルク糸を巻くことで、ほのかな艶と織りに強度が加わる。

表裏の縫い目が見えない丹念な手仕事のフェルステッチでなめらかな仕上がりに。ゆったりとしたボックスシェイプがしなやかさを強調。開き具合が美しい7分袖丈のボートネックが手首と首筋をすっきり見せて。

※掲載商品の価格は、税込みです。

問い合わせ先

ロロ・ピアーナ ジャパン

TEL:03-5579-5182

PHOTO :
戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)、ノザワヒロミチ(人物) 
STYLIST :
金井あい
EDIT :
藤田由美、安藤奈津(Precious)