【目次】

【「利休忌」とは?いつ?】

■「利休忌」とは?

「利休忌」は千利休(せんのりきゅう)の忌日のこと。忌日は「きにち/きじつ」と読み、「命日」を指します。

■「いつ」?

「利休忌」は陰暦の2月28日です。これは新暦に換算すると3月から4月ごろ。表千家家元では、ひと月送りの新暦3月27日に、裏千家、武者小路千家​では3月28日に「利休忌」が営まれています。

■どんな日?

「利休忌」には、利休の肖像(掛物)を掲げ、供茶(くちゃ/神仏や故人にお茶を供えること)を行い、門弟たちが集まってお茶をいただきます。ひと言で表現するのなら、「利休忌」は茶の湯の精神を再確認し、今の茶道があることを感謝する「茶道界における最も大切な記念日」です。


【「利休忌」の由来:千利休と「命日を偲ぶ」文化】

千利休は安土桃山時代の茶人です。侘茶(わびちゃ)の大成者で、千家流の開祖でもあります。草庵風の茶室を完成し、朝鮮の茶碗や日常雑器を茶道具に取り入れ、楽茶碗の制作や指導などを行いました。

■「侘茶(わびちゃ)」とは

利休が完成させた「侘茶」は、現代に続く茶道のスタイルのひとつです。利休以前の茶の湯では、豪華な調度品を用いたり品評会を行ったりなど、お金をかけることが一般的でした。ところが「侘茶」はその名の通り「わび」(簡素のなかに美を見出すこと)を重んじ、小さな茶室の中でのおもてなしや精神的な交流を楽しむ点に特徴があります。秀吉の命によってつくられた「待庵(たいあん)」は、現存する唯一の利休の茶室として国宝にも指定されています。

■「切腹」という悲劇的な最期

利休は織田信長に仕え、豊臣秀吉の側近として権勢を振いましたが、のちに不興を買い、切腹を命じられました。その最期は、嵐の降る日であったと伝えられています。この衝撃的な別れが、のちの門弟たちに「師の教えを絶やしてはならない」という強い決意を抱かせ、現在まで続く法要の原動力となりました。

■供養を超えた「精神の継承」

利休忌は、単なる死者の追善供養にとどまりません。利休が完成させた「侘茶」の精神を再確認し、茶の湯の伝統を守り続けることを誓う場でもあります。

■「利休忌」で行われること

お茶湯(おちゃとう)の儀

利休の肖像(掛物)や木像(宗家による)を床の間に掛け、利休にお供えする薄茶を点てて(供茶)、集まった一同でいただきます。

菜の花の供花

利休忌の時期には、花入に菜の花を生けるのが伝統です。菜の花を飾るのは、利休が生涯菜の花を愛したためとも、切腹の日の茶室に飾られていたためともいわれています。実は「利休忌」は別名「菜の花忌」とも呼ばれ、初釜(新年最初に行われる茶会)からこの日までは、茶席に菜の花を活けないのが一般的とされます。

三千家での開催
茶道にはさまざまな流派がありますが、有名なのが、千利休のひ孫たちによって確立された「表千家」と「裏千家」です。ここに「武者小路千家」を加えたのが「三千家」です。「三千家」は、千家発展という同じ目的をもち、協力し合う関係にあります。そして、「利休忌」には、それぞれ趣は異なるものの、全国の社中(門弟)が一堂に会し、利休を偲んでお茶を楽しみます。また、表千家と裏千家は、それぞれで利休忌を京都の大徳寺で執り行います。日程は表千家が3月27日、裏千家が3月28日と定められているのはこのためです。

七事式(しちじしき)

表千家の利休忌では、「七事式」がよく行われます。七事式とは茶の湯の精神と技術を磨くために制定された7つの修練稽古法の総称。「利休忌」ではこの7つの作法のうち、廻り花(花を順番に生ける)や茶カブキ(お茶の銘柄を当てる)などが行われます。


【京都で利休を偲ぶなら〜大徳寺・聚光院が語られる理由】

京都の大徳寺(だいとくじ)は、千利休をはじめ、三千家(表千家・裏千家・武者小路千家)と非常に深い関わりをもつ寺院です。

聚光院(じゅこういん)には千利休の墓所(墓塔)が

大徳寺の塔頭・聚光院(じゅこういん)には千利休の墓があり、三千家の菩提寺となっています。利休が作庭したといわれる「百積の庭」や、表千家ゆかりの茶室「閑隠席」「桝床席」も必見です。参加方法は年により異なるため、所属会・主催側の最新案内を確認してみてください。

■「大徳寺三門」を巡る悲劇の舞台

大徳寺の山門(三門)と、その楼上「金毛閣(きんもうかく)」をめぐる逸話は、千利休が切腹に追い込まれた理由のひとつとして語られる有名なエピソードです。利休が関わった三門の修復後、楼上に利休の木像が安置されたことに対し、秀吉(天下人)が不敬だとして憤った——という話が伝わっています。ただし、切腹の理由は諸説あり、木像の設置も利休本人ではなく寺側の顕彰だったとする見方もあります。いずれにしても、こうした背景から、大徳寺周辺は利休を偲ぶ上で特に縁の深い場所として語られています。

■今も残る、秀吉をもてなした茶室と枯山水の庭

利休の禅の師・古渓宗陳(こけいそうちん)は大徳寺に関わる禅僧で、大仙院にも歴代の名僧として名を連ねます。大仙院には、(国宝の方丈建築を含む境内に)利休が秀吉に茶を献じたと伝わる茶室があり、前には特別名勝の枯山水が広がります。数々の岩と白砂が形づくる世界は、創建期の意匠を今に伝える名園として知られています。


【「利休忌」に行く場合のマナー】

■そもそも「利休忌」に参加できるの?

「利休忌」は茶道における重要な命日法要で、基本的には宗家や関係者の行事ですが、裏千家などでは淡交会会員や社中(茶道を学ぶ人)ならば、事前に申し込めば参詣可能です。一般参加はハードルが高いですが、「利休忌」の空気感に触れたり、偲んだりできる場はいくつかあって、各地方の支部や関連する茶席が設けられることもあります。

■一般参会が可能な「茶会」

利休忌の時期に合わせて、各地の神社仏閣や茶道連盟が「一般客も参加可能な茶会」を催すことがあります。京都の「大徳寺」界隈の他の塔頭などでも、利休忌にちなんだ釜が掛けられる(お茶が振る舞われる)ことがあります。また、地方の支部などが主催する茶会では、チケット(茶席券)を購入すれば門下生以外でも参加できる場合があります。

茶席や法要の場は、利休を静かに偲ぶための空間です。以下に、「利休忌」参加する際のマナーをまとめました。

■服装は控えめな装いで

・派手な色や大きな柄は避け、紺、グレー、ベージュなど、ベーシックカラーを選びます。

・茶の湯において「香り」は非常に大切な要素です。香水や香りの強い柔軟剤、化粧品は、お茶やお香の香りを妨げるため、一切控えるのがルールです。

・指輪、ブレスレット、腕時計などは、高価な茶道具を傷つける恐れがあるため、席に入る前に必ず外します。また、歩くたびにジャラジャラと音が鳴るようなアイテムは控えましょう。

■重要なのは足元の身だしなみ

・畳を汚さないよう、また「清浄な場所に入る」という意味を込めて、白い靴下(または足袋)を履くのがマナーです。会場に着いてから履き替えるのがスマート。

■茶席での会話

隣の方との私語は慎みます。ただし、お茶をいただく際に「お先(さき)に」「頂戴(ちょうだい)いたします」と挨拶を交わすのは、茶の湯の美しいコミュニケーションです。


【茶道をしない人向け。「利休忌」を“暮らしで味わう”方法】

利休忌のころ(3月末)、自宅で静かにその精神を感じるためのアイデアをご紹介しましょう。

■菜の花を飾り、一服のお茶を淹れる

利休忌の茶席では、菜の花を飾るのが決まり。部屋に菜の花を一輪飾り、自分でお茶を丁寧に淹れてみるのはいかがですか? 抹茶でなくても、好きなお茶で構いません。旬の花を愛で、お茶を味わう心の余裕が、精神のリフレッシュに通じるのではないでしょうか。

■「四規七則(しきしちそく)」を意識してみる

茶の湯の精神は「四規七則」で表現されています。「四規」とは茶の湯の精神を、和、敬、清、寂という四文字で表現したもの。「七則」は利休が示した「茶の湯の心得」で、現代の暮らしにも役立つ教えです。

「和」とは、お互いに心を開いて仲よくするということ。
「敬」とは、互いに敬いあうという意味。
「清」とは、目に見えるだけの清らかさではなく、心の中も清らかであるということ。
「寂」とは、どんなときにも動じない心。

「茶は服のよきように、炭は湯の沸くように、夏は涼しく冬は温かに、花は野にあるように、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ」

これは、

「お茶は自分のこだわりではなく、相手が飲みやすいように点てなさい、

炭は見栄えではなく、ちゃんとお湯が沸くように置きなさい、

室内は季節に応じて夏は涼しく、冬は温かさを感じるしつらえをしなさい、

花は野に咲いているような自然さで飾りなさい、

時間は相手を待たせないように、

雨が降りそうでなくてもその用意をするように、万事備えをしておきなさい、

そして相客(お客さま)が気持ちよく過ごせるように心を配りなさい」

という意味で、千利休がある弟子から「茶の湯とはどのようなものですか」と尋ねられときの答えだとして伝えられています。これを聞いた弟子は「それくらいのことなら私もよく知っています」と言ったそうですが、これに対し利休は「もしこれができたら、私はあなたの弟子になりましょう」と言ったとか。

今に伝わる「当たり前のことを心を込めて行う」という利休の教え。意識して過ごしてみるのはいかがでしょう。

■「和菓子」で季節を味わう

「利休忌」のお菓子は、千利休の命日にちなんで供えられる、シンプルで素朴な風味が特徴のものが基本です。代表例として表千家の「おぼろ饅頭(黄色い薯蕷饅頭)」や裏千家の「花筏」。また、利休ゆかりの「ふのやき」や「利休ふやき」もよく用いられます。 

利休の命日にちなんだお菓子を買い、その形や色から季節の移ろいを感じる。これもまた、立派な「利休忌」の楽しみ方です。

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利休忌は、単にひとりの偉人(千利休)を偲ぶ日ではありません。当たり前の日常を丁寧に整え、一服のお茶に真心を込めるという、日本人の美意識の原点に立ち返る日でもあります。菜の花を飾り、静かにお茶を淹れる。そんな何気ないひとときの素晴らしさを、改めて味わってみてはいかがでしょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉プラス』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /裏千家(https://www.urasenke.or.jp) /表千家 茶の湯 心と美(https://www.omotesenke.jp) いち瑠「利休忌の着物~日本の着物行事~」(https://ichiru.net/column/rikyuki/) :