【目次】

【第8回のあらすじ】

織田信長(小栗旬さん)の尾張統一が成された翌年の永禄9(1566)年、一緒に暮らし始めた小一郎(仲野太賀さん)と直(白石聖さん)の仲睦まじい朝から始まった第8回。ふたりの新居を訪れた姉・とも(宮澤エマさん)も遠慮するラブラブぶりに、「お願い、この幸せよどうか続いて…」と願ったのは筆者だけではなかったでしょう。

今回のタイトルは「墨俣(すのまた)一夜城」。秀吉(藤吉郎/池松壮亮さん)が成し遂げたり成し遂げられなかったりした数々の出来事はいくつも伝説化していますが、そんな名エピソードのひとつです。

兄弟が協力を得ることとなった曽根川上流「川並衆」のボス・蜂須賀正勝(高橋努さん)と、その弟分の前野長康(渋谷謙人さん)の指揮のもと、上流で切り出した材木を筏(いかだ)で運び、一気に組み立てる“砦の下ごしらえ作戦”は見事成功――に見えたのですが…。

(C)NHK
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「一夜城」とは、ひと晩で城を建てるという意味。寸法通りに用意した建材を持ち込み、現場で組み立てる現代のプレハブ工法のようなものです。通常の砦造りは現場近くで木材を調達することから始まるので、完成まで数か月は必要。秀吉の敵方である斎藤龍興(濱田龍臣さん)は、ひと月でもふた月でも相手の様子を見張り、いよいよ完成という直前で攻めたほうが痛手が大きかろうと、底意地の悪い算段をしていました。確かにそれまではこの“見張り作戦”が優位に働き、何人もの信長の腕利き家臣がこの地での築城に失敗。しかし今回ばかりは小一郎のひらめきが勝り、なんとひと晩で見事に城(実際には木造の簡素な砦)が立ったのです。これには斎藤勢も慌てふためき、龍興は激怒!

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ところがせっかくの砦はあっという間に斎藤勢に占拠されてしまい、あわやこれまでか…というところで、小一郎たちは砦を後に。待っていた筏に乗り込み、せっかく建てた砦に火を放ちます。

そうです! 「一夜城」とは、一夜で建てたという意味と、一夜でその役目を終えたという新解釈、いやダブルミーニングだったのです!

そんな“戦国大河”らしい戦いの一方で、父・坂井喜左衛門(大倉孝二さん)に小一郎との祝言を報告するという“けじめの里帰り”を決行した直。中村の豪商である父は「あんな胡散(うさん)臭いやつに娘はやれん!」と、小一郎を気に入ることができません。直は蔵に監禁されてしまいますが、お供として中村への里帰りに同行したともの夫・弥助(上川周作さん)に助け出されます。

しかし、幼いころから厳しかった父が、実は常に直の無事や幸せを願い守ってくれていたと気付いた直は、そのまま小一郎のもとへ戻るのではなく父と対峙。再び監禁されかねない状況でしたが、「私、今幸せなんじゃ」(涙)「お前が幸せならそれでよいわっ」(大泣き)「私もととさまのような親になります。ととさまの娘に生まれてよかった」(号泣)…。父娘が心を通わせた、泣かずにはいられないシーンでした。

墨俣砦は一夜にして完成し、一夜にして焼失しましたが、藤吉郎・小一郎兄弟は「さあ、信長さまに怒られに帰ろう!」と意気揚々で帰宅。が、ふたりを待っていたのは直の死でした。父が用意していた白無垢を携え小一郎のもとへ帰る道すがら、日照り続きで気が荒れていた農民のいさかいに巻き込まれて帰らぬ人に。幼いころに身をていして自分を守ってくれた父のように、直は農民の子どもを守って犠牲になったのです。

母、姉夫婦、妹夫婦と、冷たく横たわる直を見守る小一郎の家族ひとりひとりの姿に涙腺は崩壊です。そして…小一郎のあまりに激しすぎる慟哭。ドラマ冒頭の、朝目が覚め、きれいに畳まれた直の布団を見てニヤニヤする小一郎。最後の、二度と起き上がることのない直。この対比もまた、涙を誘う仕掛けだったのでしょう。

さて、気持ちを切り替えて…菅田将暉さん演じる“謎の男”が登場しましたね。はい、竹中半兵衛です! やがて秀長(小一郎)と共に秀吉を支える軍師がいよいよ登場です。小一郎は策略家ではありますが、戦についてはド素人。ひらめきと調整力、熱意に運も加わって、ここまで乗り切ってきたといってもいいでしょう。

そこへ、信長も秀吉も認めて協力を切望する天才軍師・半兵衛の登場です。

半兵衛も小一郎同様、陰に徹する役回り。この「補佐役の美学」が彼の生き様であり、のちの豊臣政権を支える家臣団の理想像となったのです。秀長と共に秀吉の両輪となっていく半兵衛の、今後の活躍に期待、です!


【秀吉伝説のネタ元『絵本太閤記』】

「寒い冬の日、懐で信長の草履を暖めていた」という逸話も、今回の「墨俣一夜城」も、秀吉伝説として有名ですね。秀吉を語る際には欠かせないエピソードですが、これらは『絵本太閤記』という絵入りの読本(よみほん)をネタ元にしています。

秀吉(藤吉郎)・秀長(小一郎)と同時代を生きた小瀬甫庵(おぜほあん)が記した秀吉の伝記『太閤記』をベースにしたこの『絵本太閤記』は、江戸末期の寛政9(1797)年から5年の歳月をかけて武内確斎(たけうちかくさい)作、岡田玉山(おかだぎょくざん)画で出版された歴史小説です。

全7編84冊という大長編となった『絵本太閤記』。 1冊あたり50ページ相当ですから、4000ページを超える超大作ですね。ほぼ全ページにわたって展開されるダイナミックな挿絵は、文字が読めない人でも物語を楽しむことができるので、ユニバーサル&ビジュアルブックの先駆けといってもいいでしょう。ちなみに、江戸時代の江戸の人々の識字率は世界一だったとわれています。

実はこのベストセラー作、刊行後に出版差し止めになっています。というのも、あまりの人気ぶりに「自分たちの先祖を差し置いて、豊臣家を美化しすぎるのはいかがなものか」と徳川家が問題視(嫉妬)し、完結から2年後に「実名の武士をおもしろおかしく描くのは不謹慎」という名目で絶版・発禁処分となり、著者や版元が処罰される事態に発展しました。

ところがその禁令がますます人々の好奇心を刺激! 江戸っ子はこういうのが好きなんですね。ダメと言われたら裏をかいておもしろがる、似絵や狂歌などで幕府をおちょくるなんていうのはお手の物。本家は出版できずとも写本にしたり、掲載のエピソードを歌舞伎や浄瑠璃の題材にしたり。むしろ発禁本になったことで広がりを見せ、“戦国ヒーロー・秀吉”が定着したといってもいいでしょう。

秀吉がまだ中村の農民・藤吉郎だったころに始まり、信長の家臣となって活躍し、ついには天下を統一して太閤となり、溺愛する息子・秀頼の行く末を案じながら61歳で没、というところまでを描いた一代記の『絵本太閤記』。秀吉は病死説が有力ですが、『絵本太閤記』では単純な病死ではなく、天命を悟った英雄の引き際が描かれています。

美術展などでこの『絵本太閤記』を見る機会があったら(よく知られたエピソードのページが展示されることが多いです)、ぜひじっくり見てみてくださいね。


【次回 『豊臣兄弟!』第9話「竹中半兵衛という男」あらすじ】

小一郎(仲野太賀さん)と藤吉郎(池松壮亮さん)は、美濃国主・斎藤龍興(濱田龍臣さん)の家臣である竹中半兵衛(菅田将暉さん)の調略に乗り出す。だが知恵者と名高い半兵衛は相当の変わり者で、小一郎と藤吉
郎は何度も翻弄される。

(C)NHK
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その一方で、ふたりは斎藤家重臣・安藤守就(田中哲司さん)から思わぬ申し出を受ける。ふたりからの報告を聞いた信長(小栗旬さん)は斎藤家の居城・稲葉山城を包囲するも、窮地の龍興の前に突然、半兵衛が姿を現す。

※『豊臣兄弟!』第8回「墨俣一夜城」のNHK ONE配信期間は2026年3月8日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/『大河ドラマ 豊臣兄弟! 超おもしろファンブック』(小学館)/『日本史の“なぜ 有名人の意外な“真相”』(ごま書房新社) :