旅が暮らしに変わる過程が記録された “チーム家族” の成長をつづる2冊のエッセイ

雑誌「Precious」の表紙モデルとしても活躍した俳優の杏さんが、パリ移住に関連したエッセイ『杏のとことこパリ子連れ旅』と『杏のパリ細うで繁盛記』を同時発売。パリでの暮らしを通じて学んだ気付き、杏さんが大切にしていることについてうかがいました。

杏さん
(あん)1986年、東京都生まれ。俳優・モデル。’01年にデビューし、その後は雑誌、映画、ドラマなど幅広く活躍。主な出演作にNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』ほか。主演するWOWOW日本×フィンランド共同製作ドラマ『連続ドラマW BLOOD & SWEAT』が放送・配信中。

「先入観を手放して、“これがいい”と思える選択を家族と共有したい」杏さん

杏さん
(C)Junko Tamaki(t.cube)

シンクロニシティを感じたパリ移住への決断までの道のり

「今振り返っても、よく連れて行ったと思います」と、当時を振り返る杏さん。’19年から’21年にわたる3度のパリ旅をつづった『杏のとことこパリ子連れ旅』は、自身の日記を振り返りながら書き下ろしたエッセイだ。当時3歳の双子、1歳の長男を連れての旅はトラブルもあったが、周囲に助けられながら旅を楽しむ様子が描かれる。その道中、折に触れて考えが巡ったというパリへの移住を決断する。

「移住は直感で動いた部分もありましたが、大きな決断をするときに限って不思議と物事がスムーズに運ぶというか。自分の意思を超えたシンクロニシティを感じました。ふだんは何かを決めるときに、『ひとつ選ぶとしたら』という視点を大切にしています。例えば、雑誌を開いて『ひとつだけ買うとしたら?』など。どうしてそれを選んだのかという理由も一緒に考えます。もしかしたら、それが自然と筋肉になって決断力につながっていたのかもしれません」

本書では、海外移住という大きな決断を下したあとの、清々しさのようなものを読み手側も感じ取ることができる。

「準備しすぎると逆に不安になることもありますし、現実は予想外の事態が起こることも多いはずです。だからこそ、“やってみないとわからない” という精神で突き進んだように思います。私が歴史好きという影響もありますが、歴史に触れるたびに人生はいつ何が起こるかわからないと感じます。だからこそ、行きたいと思ったときに行けることに感謝して、機会があれば行動しようと思うのかと」

東京とパリを行き来する生活でメリハリがつき風通しがよくなった

もう一冊の『杏のパリ細うで繁盛記』では、’22年に移住してからのリアルタイムな暮らしぶりがつづられる。杏さんのYouTube動画からもパリでの日常を知ることはできるが、改めて文章で紡がれるパリ暮らしの様子からは、彼女の意外な素顔、愛情深さ、包容力といったものがよりストレートに伝わってくる。

「私の読書が好きな理由は、たった一冊の本さえあれば知らない世界へ連れていってくれるところです。読み進めるスピードも分量もすべて自分に委ねられた、とても主体的な行為。本を閉じればすぐ日常に戻れる “どこでもドア” 的なところもよくて。自分の生活に寄り添ってくれる体験は、ほかの表現方法にはない魅力だと思います。このエッセイもそんなふうに楽しんでもらえたらうれしいです」

3人の子供と愛犬と共にパリでの暮らしに奔走しながら、自身のキャリアも軽やかに更新し続けている。

「パリに来たことで生活にメリハリがつくようになりました。東京にいる時間も今まで以上に濃密なものになって、休むことに対する価値観の視野も広がった気がします。フランスでは大型連休の時期になると、エリアごとに分かれて休みをとるシステムがあるんです。全国で一斉に休んで混乱が起きないよう、国がその仕組みをつくるのですが、おもしろいですよね。ドラマ撮影のために3か月間滞在したフィンランドでは、労働時間がきっちり決まったなかで段取りが組まれたのですが、それゆえ歯がゆさを感じることも。日本の現場と違うことも多々ありましたが、どちらも一長一短だというのが正直な感想です」

杏さんが精力的に活動を続ける原動力は好奇心だ。常に何かを学ぼうとする姿勢はエッセイでも随所に見受けられる。

「知らないことを知りたい、という気持ちが大きいです。あとは子供たちに自分が楽しそうにしている姿を見せたい気持ちもあって、仕事に行く際も『お留守番させてごめんね』ではなく『お母さん頑張ってくるね』という言い方にしています。子供たちの寂しさには寄り添いつつ、仕事に行くことが謝るべきことではないことも伝えたいからです」

育児については、自身の先入観に気付かされることもあったそう。

「子供の成長が自分の想像を超えてくる場面が多かったのですが、最近では明らかに戦力です。空港でカートを持ってきて押すのを手伝ってくれたり、荷物を持つのを手伝ってくれたり、すっかり家族というチームの一員に。自分の先入観で成長の機会を奪わないよう、“やってみないとわからない” という精神は自分だけでなく、子供にも当てはめて考えたいです。子供たちは、たとえ国内旅や近所へのお出かけであっても、昨日と違う表現を日々学んでいるんだなと感じます。見えない何かに刺激を受けているのだと思うと、なるべくいろいろな経験をさせてあげたい。知らないことを学んで、行ってみたい場所に行き、そうした点と点を紡いでいく喜びを味わってほしいです。移住から4年が経ちますが、今は子供3人とそれぞれふたりきりの旅を計画中です。思春期になる前に話ができる時間を設けたくて。私は3回行くことになるので体力をつけておかなければ!」(談)

杏さんの著書『杏のとことこパリ子連れ旅』と『杏のパリ細うで繁盛記』
1.著=杏『杏のとことこパリ子連れ旅』ポプラ社 ¥1,760、2.著=杏『杏のパリ細うで繁盛記』新潮社 ¥1,760

1.著=杏『杏のとことこパリ子連れ旅』ポプラ社

移住のきっかけとなった、当時3歳だった双子の女児と1歳だった長男とのパリ旅行をつづったエッセイ。博物館やテーマパーク、ビストロ、公園などに足を運び、子供たちの意外な成長や新たな育児スタイルの気付きが散りばめられた一冊。巻末には「杏のパリ案内」も収録。

2.著=杏『杏のパリ細うで繁盛記』新潮社

36歳で決断したパリ移住。子供3人と愛犬との、リアルな二拠点生活が軽やかに描かれたエッセイ。フランスならではの文化を通じた気付き、子供たちの成長、子育てを見守ってくれた愛犬の看取り…。杏さんの温かな愛情に触れることができる一冊。愛犬ヤマトとの思い出をつづった「ヤマト記」は愛が溢れている!

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

PHOTO :
(C)Junko Tamaki(t.cube)
EDIT&WRITING :
宮田典子、喜多容子(Precious)