関谷葉子さん
KYOJO CAPディレクタ、株式会社 FM御殿場代表
せきやようこ/1960年生まれ。7歳の頃よりNHK放送児童劇団に入団。NHKの番組に出演。19歳よりテレビ朝日、日本テレビのワイドショーレポーター、ラジオパーソナリティなどで活躍。1987年に関谷正徳さんと結婚。2000 年よりイベントのプロデュースを開始。2014 年に御殿場市小山町を中心エリアにしたコミュニティFM放送局『富士山 GOGO エフエム』を開局。自らもパーソナリティを務める。2017年から女性プロレーサーのシリーズ戦『KYOJO CUP』を夫とともに立ち上げ、現在はモータースポーツの世界に女性が輝ける世界を作り上げることに精力を注ぐ。一男一女の母。

「”誰が本当に速いのか”を競うから観戦も楽しい」(関谷葉子さん)

――女性レーサーが活躍する『KYOJO CUP』が盛り上がっています。レースではイコールコンディションのマシンを使うので、車の性能を競うのではなく、選手たちのドライビングテクニックで戦うので、実力がよくわかります。

女性ドライバーの中で速さを競うのがKYOJO CUPの特徴です。KYOJOとは「競争女子」のことで、2017年にスタートし、2025年にフォーミュラカーを導入しました。フォーミュラカーとは、国際自動車連盟(FIA)などが定めた規格に沿って設計されたレース専用の車両のことです。特徴は、1人乗り、タイヤが剥き出し(オープンホイール)であることなど。実際に乗ってみると、コックピット(運転席)は狭く、目線も低く、視界も限定されています。運転には、高い身体能力と集中力が必要なので、レーサーというよりアスリートの身体能力が求められるのです。モータースポーツはマシンの性能以上に、身体差がものを言うからこそ、女性だけのレースが必要なのです。

夫の関谷正徳は20年以上、トップレーサーとして活動していました。モータースポーツ界が男社会のままだと、未来が限定されてしまうとKYOJO CUPを立ち上げたのです。

――関谷正徳さんといえば、ル・マン24時間レースで日本人初の総合優勝者になったほか、多くの世界的な記録を残しています。

モータースポーツ界で生きてきたから、愛も深い。モータースポーツの未来が多様性に富んだものになることを心から願っており、KYOJO CUPに賭けています。その強い思いを知り、私もディレクターとして運営に参画することになったのです。

リビングには、夫でありレジェンドレーサー・関谷正徳さんのトロフィーや1:18スケールモデルが並ぶ。関谷さんは1970年後半からレースに出場し、1995年に日本人として初めて『ル・マン24時間レース』で総合優勝。そのほか11回もル・マンに挑戦し表彰台2度も上がる実績の持ち主。『全日本GT選手権』や『F3000』ほか、国内外でトップレーサーとして活躍。2000年の引退後は監督や若手育成に尽力している。
リビングには、夫でありレジェンドレーサー・関谷正徳さんのトロフィーや1:18スケールモデルが並ぶ。関谷さんは1970年後半からレースに出場し、1995年に日本人として初めて『ル・マン24時間レース』で総合優勝。そのほか11回もル・マンに挑戦し表彰台2度も上がる実績の持ち主。『全日本GT選手権』や『F3000』ほか、国内外でトップレーサーとして活躍。2000年の引退後は監督や若手育成に尽力している。

――現在、KYOJO CUPは、毎年チャンピオンが入れ替わり、見応えがあるエンタメとしてファン層を広げています。

繰り返しますが、KYOJO CUPの選手は皆、同じコンディションの車に乗るので、「誰が本当に速いのか」がわかりやすいですよね。だから知識がなくても楽しめるのです。多くのレースは、マシンとドライバーとチームの戦略があって、その組み合わせで勝敗が決まる。ドライバーの調子が良くても、マシンが不調だと結果に繋がりません。

私たちは、約27台のレーシングカーを保有しており、ガレージで一括管理しています。この体制は世界的にも珍しく、公平性と競技の純度を上げていく体制を目指しています。それに、同じコンディションの車だから、その選手の人物像や特徴も見えやすい。ここも見所の一つだと思います。

今シーズンは20人の選手が出場しますが、彼女たちは日々、トレーニングを重ねています。フォーミュラカーの運転は、高い身体能力が求めらるのです。例えば、コーナリング(曲線を曲がること)には最大5G(体重の5倍)の負荷がかかります。それに、強い遠心力がかかる中、ハンドルを数ミリ単位で操るためには、首の筋力、体幹、腹筋、背筋を中心に全身の筋力を鍛えなくてはなりません。

また、ブレーキングは短い距離の中で、200キロ以上のストレートから、60キロにまで減速させなければならず、踏み込むため脚力も求められます。あとは、長時間運転し続ける心肺能力、集中力、反射神経、メンタルの強さや冷静さ、さらにはチームに的確に状況を伝えるコメント力も必要なのです。

レースを例えるなら、ライフルで射撃をしながらフルマラソンをしているとも言えるでしょう。高次元の集中と持久力が求められる、命がけの世界。日々の鍛錬が欠かせないのです。

KYOJO CUPのレーサーたちは、高い身体能力とスキル、ドライビングテクニックで車の性能を十分に引き出しながら、スピードを競っています。練習に集中できる環境と、女性が純粋にドライビングスで評価されるための公平な舞台があるので、皆の能力が向上し、若手も育ってきています。

KYOJO CUPのガレージにて。整備士が車両の整備をしている。
KYOJO CUPのガレージにて。整備士が車両の整備をしている。

「美容ブランド『ReFa(リファ)』がパートナーになりました」(関谷葉子さん)

――F1も女性ドライバーのみが参加するレースシリーズ『F1アカデミー』を、2023年に立ち上げました。KYOJO CUPが2017年ですから、時代を先取りしていたともいえます。

そうかもしれません。最初は、女性だけのレースということで、一段低く扱われたり、選手たちも観客の男性から不躾な視線を受けるほか、ハラスメントもありました。サーキットには女性レーサー用の更衣室がないところも多いため、私はディレクターとして、設備の部分から整えていったのです。

もともと、男社会ですから、「なんで、女性が?」「女は感情的になるからレースはできない」と批判的な人もいました。相手の常識を変えるには、活動を続け、実績を出すしかありません。

それから約10年、ようやく女性レーサーの存在が認められるようになってきました。それに伴い、運営側にも女性スタッフが増えてきましたが、まだまだ女性のための設備は整ってきていません。女性が活躍していくモータースポーツを定着させるには、サーキットにの中に、授乳室、託児・キッズスペースなども必要ですし、幅広い女性が活躍できる環境作りが生まれていくように、女性目線での運営を意識しています。

とはいえ、最近は家族全員で楽しめる設備も整えています。男性だけで運営していた時代には生まれなかった発想を、KYOJO CAPのイベントで形にしていきたいと考えています。私たちの取り組みが、モータースポーツ界のダイバーシティつながることが、とても幸せことだと感じています。

今も夫と二人三脚で、大会の運営やスポンサー集め、広報活動から経理まで、何でもやっていきます。今後も、少しでも多くの人にKYOJO CUPを知っていただくために、地道な活動を続けるのみですね。

――2026年は美容ブランド『ReFa(リファ)』を展開する株式会社MTGが、KYOJO CUPにシリーズパートナーとして参入。『Team ReFa with AIWIN』を結成したことが、大きく報道されました。

はい。あのニュースをきっかけに、多くの女性にKYOJO CUPの存在を知っていただきました。私たちも、女性の美しさや健康を軸にした新しいレースの見せ方ができるようになり、もっとファン層を広げていきたいと活動しています。ここ数年は、F1の盛り上がりからモータースポーツファンになった方も多く、女性と若者のファンが確実に増えていることを感じています。

これには若い選手が世界的に注目されていることも大きいです。なかでも松井沙麗選手のことを知っている人もいると思います。彼女は、13歳のときにF1チーム育成プログラム『ウイリアムズ・レーシング・ドライバー・アカデミー』に招聘され、トレーニングを受けました。15歳になった松井選手は近藤真彦さんが率いる『KONDO RACING』に所属しており、2026年5月9日(土)、10日(日)に開幕するKYOJO CUPにエントリーしています。ぜひ、会場の富士スピードウェイに観戦しにきてください。

――女性のモータースポーツ選手は、強くてカッコいい。フランス革命を舞台にした少女漫画の金字塔『ベルサイユのばら』の主人公・オスカルを重ねてしまいました。

わかります。真剣に勝負に挑んでいる人の美しさに心が掴まれます。スポーツの魅力は、極限まで頑張る人の姿に心が動くことです。だから、皆が夢中になり、感動するのです。

今、女性のレーサーたちと、「一緒にモータースポーツ界を変えよう! 私たちが女子レース界を開拓していこう」と心を一つに進んでいます。そのためには、私たちが、世界に認められる大会として、仕組みを整え、広めていかなくてはならない。そのために、全力で進んでいきます。

――まさにモータースポーツ界の“革命”です。女性のエンパワーメントでモータースポーツ界が発展していくと、車から広がっていく文化、運転の楽しさなどの注目度も高まるはずです。

そうなのです。女性レーサーは車そのものを構造から知っており、運転のプロです。だから、ドライビングインストラクターなど、女性目線で女性ライセンスホルダーに正しい運転を教えてあげることもできる。世の中で彼女たちが必要とされる世界はサーキット以外にもたくさんあります。

命がけでレースをしているから、その危険性もよくわかっている。レーサー経験をした女性たちが発するメッセージは、世界全体の交通事故を減らすことにも貢献すると確信しています。この社会的価値の創出が、KYOJO CUPの根幹だと考えています。

私たちの考えが広がっていき、2026年からKYOJO CUPは動画配信サービス『FOD』での放送が決定しました。KYOJO CUPは、関谷と私と子供達を中心に、家内産業的に運営してきたのですが、今後規模が大きくなっていきます。今はそのための組織体制作りに注力しています。私も還暦を超えてから、ここまで忙しくなるとは思いませんでした(笑)。

後編では、会社経営の経験もある関谷さんのマネジメントの信念。レジェンドレーサー・関谷正徳さんとの出会いと選手生活を支え続けた日々、プライベートのお話などを伺います。

 
聞き手…能  聡子(のう さとこ)
Precious.jp編集長
しなやかに、今を生きる…プレシャス世代の新たなBOSS像を本連載を通じて探っていきます。
PHOTO :
古谷利幸
HAIR MAKE :
中嶋洋輔(Perle)
WRITING :
前川亜紀