大人になった今だから味わいたい「冒険」が待っている。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
気球でも有名なカッパドキア。中央はホーストレッキングに挑戦した筆者。

こどものころ、冒険小説が好きでした。『ロビンソン・クルーソー』に『十五少年漂流記』、そしてジュール・ヴェルヌの『地底旅行』や『海底二万里』。ページをめくるたび、まだ見ぬ土地へ、想像もつかない世界へと連れていってくれる物語に胸を躍らせたものです。それからウン十年……大人になり、いつしか冒険という言葉から遠ざかっていた私の心を久しぶりに大きく揺さぶった場所がありました。トルコ・カッパドキアです。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
左は『風の谷のナウシカ』を彷彿とさせ、右の奇岩はまるでシメジのよう。カッパドキアは「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群」として世界遺産に登録されています。

イスタンブールからターキッシュエアラインズの飛行機で約1時間20分。トルコ中部のアナトリア高原に広がるカッパドキアは、数千万年前の火山活動と長い年月をかけた風雨の浸食によって生まれた、世界でも類を見ない景観をもつエリアです。キノコのような奇岩が林立する渓谷や、岩山をくり抜いた洞窟住居、さらに地下深くには、かつて人々が暮らした巨大な地下都市が残されており、その幻想的な風景は1985年にユネスコ世界遺産にも登録されました。

大地が生み出した壮大な自然と、人々がその地形を巧みに活用して築いた文化が共存するこの土地は、一歩踏み出すたびに、かつて夢中で読んだ冒険小説の世界へ迷い込んだような気持ちになります。地下へ潜り、空へ舞い上がり、悠久の時の流れに身を委ねる──大人になった今だからこそ味わいたい冒険を「泊まる」「遊ぶ」「学ぶ」「食べる」という4つのテーマからご紹介します。

【泊まる】洞窟 or ラグジュアリー、アナタのお好みはどっち?

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
5〜6世紀に築かれた10棟の洞窟住居と19世紀のギリシャ人邸宅を活用した、全134室の洞窟ホテル「YUNAK EVLERI」。

カッパドキアを訪れるなら泊まってみたいのが、洞窟ホテル「YUNAK EVLERI(ユナック・エヴレリ)」。岩山をくり抜いて造られた客室の一部は5世紀頃までさかのぼる歴史をもち、まるで太古の住人になったような気分を味わえます。ひんやりとした石壁、自然の地形を生かした曲線の通路や階段、窓の外に広がる奇岩……自然と歴史が織りなす空間には、一般的なラグジュアリーホテルにはない趣がありました。

日暮れどき、テラスから夕陽に染まる谷を眺めていたら、遠くから礼拝を知らせるアザーンが聞こえてきます。その音色に耳を澄ませていると、何百年もの時を超えて、この土地で暮らしてきた人々の日常と、自分の旅がゆるやかにつながっていくような感覚に包まれました。「YUNAK EVLERI」はカッパドキアという冒険の地へ歩み出すための、よき最初の一歩となってくれるでしょう。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
「Alden Hotel Cappadocia」の客室とトルコ風呂。

もっとも、数日間滞在するとなると話は別。洞窟ホテルならではの趣は何ものにも代えがたい一方で、やはり機能性や快適さも旅には欠かせません。実は私は、そんな“今の心地よさ”を大切にしたホテルにも強く惹かれました。

カッパドキアのなかでも落ち着いた趣をもつ街、ユルギュップ中心部に位置する5つ星のラグジュアリーホテル。「Alden Hotel Cappadocia(アルデン・ホテル カッパドキア)」は自然石を生かしたカッパドキアらしい趣を残しながら、インテリアはモダン。柔らかな光が差し込む客室や寝心地のよいベッド、細部まで行き届いた設備は、夜は部屋で仕事をしたい私のような忙しい旅人には適しているでしょう。このトルコ風呂、入ってみたかったなぁ。

「YUNAK EVLERI」が歴史の中に身を置く宿だとすれば、「Alden Hotel」は現代の感性でカッパドキアを楽しむための拠点という感じでしょうか。それぞれ異なる魅力を持つ2軒です。

●YUNAK EVLERI
https://yunak.com/
●Alden Hotel Cappadocia
https://alden.com.tr/

【遊ぶ】気分は地底人!?な「カイマクル地下都市」

カッパドキアの冒険でハイライトとなったのが、この「カイマクル地下都市」。地下約8層、深さは60メートル以上にも及ぶ巨大な地下空間は紀元前からつくられ、その後、キリスト教徒たちが外敵や迫害から身を守るために拡張したと伝えられています。内部には住居や台所、ワイナリー、礼拝堂、食料庫などが設けられ、有事の際には2万人もの人々を収容していたというから驚き。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
人がぎりぎり通れる細い通路もあるので、閉所が苦手な人にはおすすめできません。右上は通気孔。

迷路のように続く細い通路をかがみながら進み、ひんやりとした岩肌に手を添えるたび、「ここで本当に人が暮らしていたんだ」と、はるか昔の暮らしが少しずつ現実味を帯びてきます。観光名所というよりも、まるで冒険小説の主人公になったような気分。かつて読んだ『地底旅行』の世界が目の前に広がっているようでしたし、最近スピリチュアル界隈で噂されている地底人の存在も俄然リアルに感じられるようになりました。

【学ぶ】旋回舞踊で知ったスーフィズムとルーミー

白い衣をまとった修行僧たちが、静かに、そしていつまでも円を描くように回り続ける──カッパドキアで目にした旋回舞踊は、単なる伝統芸能ではありません。これはイスラムの神秘主義思想「スーフィズム」の修行のひとつであり、回転を続けることで自我を手放し、神との一体感を得ようとする祈りの儀式なのです。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
舞踊中は撮影禁止のため、終了後に撮影用ポーズをとってくれます。下は、ルーミーに興味を抱いた私が購入を検討している書籍。なかなかに高価なので、図書館で探してみようかと。

実は私は、この旅までスーフィズムという思想についてまったく知りませんでした。しかし、この旋回舞踊に触れたことで、スーフィズムを代表するルーミーへと興味が広がりました。ルーミーは13世紀の思想家ですが、ブラッド・ピットが彼の詩の一節を右腕に刻んでいることでも知られています。そのフレーズとは‟Out beyond ideas of wrongdoing and rightdoing, there is a field. I'll meet you there.”だそうですが、直訳するなら、「善悪の概念を超えたところに草原がある。そこで会いましょう」となるでしょうか。

これは善悪なんて関係ない、という単純なテーマではなく、私たちは立場や宗教、価値観の違いで互いを裁きがちだけれど、その対立を超えたところで本当に出会えるという、愛と寛容を説いているのだそう。気になります、ルーミー。旅とは新しい思想や価値観との出会いであり、自分の世界を少しだけ広げてくれるものだと改めて実感しました。

【食べる】唯一のミシュラン星付きレストラン「REVITHIA」

そろそろお腹がすきました? カッパドキアを訪れるなら、マストで食べておきたいのが、2026年版ミシュランガイドでこの地初、そして唯一の一つ星を獲得した「REVITHIA(レヴィティア)」です。

シェフ、ドゥラン・オズデミル氏が目指すのは、かつてこの土地で受け継がれながら、忘れられつつあった郷土料理や保存食、発酵文化を掘り起こし、現代の感性でよみがえらせること。羊乳で煮込む伝統料理やタルハナと呼ばれる発酵スープ、ひよこ豆やナスなど、この土地ならではの食材が、洗練された一皿へと昇華されています。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
コースはワインペアリングをつけて5,950トルコリラ(約2万円)。非常にお値打ちだと感じました。

レストランがあるのは、ユネスコ世界遺産地区カヤカプの石造建築を生かした空間。高台からカッパドキアの渓谷を望み、悠久の景色を眺めながら味わう一皿一皿には、この土地の歴史や風土が豊かに息づいています。

●REVITHIA
https://www.kayakapi.com/revithia

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
 

ほかにもカッパドキアのおいしかったものを列記しておきましょう。まず朝食は、色も味も濃いトルコの野菜が美味。少しクセのあるトルコチーズや卵料理とともに、朝からモリモリいただきました。「Millocal Restaurant(ミルロカル・レストラン)」はウチヒサール村の高台にあるブティックホテルのダイニング。名物のテスティ・ケバブをはじめ、メゼや地元ワインも充実していました。

あ、そういえばカッパドキアは古代からワインづくりが続くトルコ屈指のワイン産地。火山性土壌と昼夜の寒暖差が育むブドウからは、土地固有の品種「エミール」をはじめ、個性豊かなワインが生まれています。

●Millocal Restaurant
https://www.millocalrestaurant.com/

【番外】ちょっと“冒険”して買ったズルタナイトのリング

今回の旅で、少し時間があったら探してみようと思っていたのはズルタナイト。ズルタナイトは、トルコのアナトリア地方で産出される希少な半貴石で、陽光のもとではオリーブグリーン、白熱灯やキャンドルの光のもとでは琥珀やコニャックを思わせるロゼがかったアンバーに色が変わるのが特徴です。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
カッパドキアのお店2軒ほどをのぞき、中央の下のリングを購入。台座はシルバー、日本円で6万円ほどでした。

実は私、このズルタナイトのリングを以前にもトルコ・イズミルで購入し、大切にしていたのですが、安価なお土産品だったせいかセッティングが甘く、石だけを紛失してしまっていました。そこで、今回は思い切ってもう少ししっかりとしたつくりのリングを購入することに。

いま、そのリングを見るたびに思い出すのはカッパドキアで過ごした時間と、かつて冒険小説を読みふけっていたころのワクワクとした高揚感です。冒険とは遠い国へ行くことではなく、いくつになっても「知らない世界へ踏み出してみたい」と思う心の持ちようなのだと、この旅が教えてくれました。

秋山都さんによるトルコ・カッパドキアの旅行写真
カッパドキアは気球が有名ですが、私が乗ろうとした日は天候不順で残念ながら欠航。ひとつくらいやり残したことがないと、もう一度くる言い訳になりませんから(負け惜しみ)。

取材協力:
●トルコ共和国大使館文化観光局
Go Türkiye
https://goturkiye.jp/
●ターキッシュエアラインズ
https://www.turkishairlines.com/

この記事の執筆者
女性ファッション誌や富裕層向けライフスタイル誌、グルメマガジンの編集長を歴任後、アマゾンジャパンを経て独立。得意なジャンルに食、酒、旅、ファッション、犬と馬。
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秋山 都
WRITING :
秋山 都