鈴木保奈美さんの連載「Carnet de petite voyageuse 中途半端な旅人は語る」第二十四回

鈴木保奈美さんが撮影した旅行写真
日本各地で最高気温を更新したこの夏、果敢に初めての祇園祭に挑む。

俳優の鈴木保奈美さんが、趣味のひとつである旅をテーマに、これまでの旅路を振り返る大好評連載「Carnet de petite voyageuse 中途半端な旅人は語る」。第二十四回となる今回は、【祇園祭を、観に行く】と題してお送りします。

2024年よりスタートしたこの連載が、このたび一冊の単行本になりました。書籍には新たに書き下ろされたコラムに加え、保奈美さん自らシャッターを切った旅の風景や、家族が撮影したプライベートショットまで、本誌未公開カットも多数掲載されています。気になる本の内容は記事末をチェックください(一部試し読みもいただけます)。

鈴木 保奈美さん
俳優・文筆業
(すずき ほなみ)ときにエスプリの効いた感性豊かな文章は定評があり、本誌でも数多くのエッセイを執筆。近著は、本連載をまとめた単行本『中途半端な旅人は語る』(小学館)と、エッセイ『わたし、そんなにとんがってましたかね。』(中央公論新社)。8月に同時期発売された2冊は、ともに好評。鈴木保奈美オフィシャルサイト:https://suzukihonami.net インスタグラム:https://www.instagram.com/honamisuzukiofficial/

第二十四回「祇園祭を、観に行く」 文・鈴木保奈美

「祇園祭の観覧席が当たったの、誰か一緒に行きませんか〜」

というメッセージがグループLINEに届いたのは、ゴールデンウィークの次の週の真夜中だった。

鈴木保奈美さんが撮影した旅行写真と国内旅行中の鈴木保奈美さん
左/白いビニール袋、脱いだ自分の靴を持って、山鉾に搭乗します。右上/どこの軒にもお祭りの提灯が。

観覧席? 当選? よくわからないけど、めでたいぞ。でもわたしは仕事の都合がつくかどうか…ひとまず保留。だけどこんな機会でもなければ、鬼のように暑い京都の祭りを観に行くこともないだろう。貴重なチャンス、かも? 他のみんな、どうするかな?

次の日、ロケ先に向かう車中でマネージャー氏にお伺いをたてる。

「七月の四週目、舞台の大阪公演がちょうど終わるよね、ドラマのスケジュールも入っているけど、わたし毎日出番があるわけでもないし、今からお願いしてお休みいただけないでしょうか、何卒、よしなに…」平身低頭。「ふむ、ドラマスタッフに掛け合って調整しますか」「ううっありがとうっ」なんてやり取りののち、三日間の休暇を確保できた。これは、行けってことだな。京都に呼ばれたな。グループの皆も仕事の都合とか、家族の都合とかいろいろあって、結果、旅のメンバーは三人。背が高くて手足も顔も細長く、いつもキリッとモノトーンのお洒落で、ミシェル・ヨーに似ている通称ミシェルと、小柄でイエベでベージュの濃淡が似合う、愛らしい目元が俳優の山本美月さんに似ている通称美月、そしてわたし。

鈴木保奈美さんが撮影した旅行写真と国内旅行中の鈴木保奈美さん
観る人、乗る人、曳く人。それぞれの熱さは暑さをはね返すほど。ああ、でも、どうか水分を補給してくださいな。

まずはホテルをおさえる。お祭りの時期は、そうでなくとも常に人で溢れる京都がますます混雑するであろうから、無くなる前に部屋を確保せねば。それも、くだんの観覧席へ、なるべく徒歩で移動できる便利なところ。わたしには、こういうときに頼りになるアドバイザーがいるのだよ。それは京都の老舗和菓子屋さんの旦那(なぜかフランスで知り合った、ワイン友達である)。「なに、観覧席ってどこなの? 烏丸御池? じゃあオークラもいいけど、エースホテルなんか便利だよ」とのこと。調べてみたらまだ空室がある。オッケー、予約できた。

  • 鈴木保奈美さんが撮影した写真
     
  • 鈴木保奈美さんが撮影した写真
     

宿が決まればひと安心、次はお勉強だ。祇園祭、ってサラッと口にしてるけど、実際のところどんなお祭りなのか、よくはわかっていない。その歴史や習わしを知ってこそ、祭りを本当に楽しめるってものだ。ここはネットの力を借りることにする。京都市の公式ガイドや、JRの『そうだ 京都、行こう。』、それに祇園祭山鉾(やまほこ)連合会、なんてサイトがあって、この辺を行ったり来たりしながら学んでいく。

その起源を平安時代前期まで遡る祇園祭、現在は前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)というのがあって、美月が手に入れてくれたチケットは後祭の山鉾巡行だ。十一基の山鉾が御池通りを巡行する場面を観覧席で拝見する。山鉾にはご神体が飾られて、豪華絢爛な装飾が施されている。巡行の前三日間は宵山(よいやま)、という前夜祭があって、会所に納められた山鉾を間近で見学できる。そういえば以前ロケで京都に滞在したとき、夕暮れの路地の奥に提灯のあかりが見えていた、あれって宵山だったんだな。うう、そうと知っていれば観に行ったのに。学ぶって、大事。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
 

我々は学びの成果を共有するため、ミシェルの家で事前ミーティングを開催することにした。ワインを持ち寄り、ミシェルはふるさと納税の肉を焼く。ま、打ち合わせにかこつけたご飯会ね。わたしは京都のガイド本を二人に買った。MCを務める本の番組にゲストで来てくださった、京都の書店のオーナーが教えてくれたもので、『京都ガイド本大賞』に輝いてるから間違いないぞ。これをよくよく読み込むように。そして行きたいお店や食べたいものがあったらリストアップして、わたしに知らせなさい。効率よく回れる最適ルートを作るからね。夜が更けるに連れ、話は脱線し、グラスにはワインが満たされる。旅に出る前から相当楽しんでるわたしたち。シメのガーリックライス、美味しかったなあ。

それからひと月、ついに出発の日がやってきた。集合は品川駅。家が近いミシェルとわたしが連れ立って新幹線のホームへ降りていくと、すでに到着している美月、小さなショルダーバッグ一個で立っている。えっなんで、荷物そんなに少ないの? と問えば、「なんだか持っていく物が増えちゃって、大きなバッグはホテルに送ったの。身軽でいいでしょ?」と宣(のたま)うのであった。あのさ、二泊だよ? こういう人なのよ。珍道中の予感しかしないのよ…。

  • 京都旅行中の鈴木保奈美さん
     
  • 京都旅行中の鈴木保奈美さん
     

後祭の宵山は、前祭のそれに比べると露店の数も少なく、荘厳さが感じられます、とガイドにはあるが、とはいえものすごい人並みだ。空はまだ明るく、昼間の蒸し暑さも残ったまま。高く掲げられた提灯を目指して歩けば、粽(ちまき)や手拭い、お守りや扇子といった縁起物を購(あがな)う人たちでごった返していて、ちょっと歩くだけで汗が噴き出す。思った以上の賑わいだ。楽しい、楽しい。会所は烏丸通の西側、三条、四条、高辻通のあたりにいくつも点在しているので、足の向くままあちこち覗いてみる。明日山鉾の上に飾られるご神体と、たくさんのお供物が飾られている。え、このタペストリーは十六世紀のベルギー製? 丁寧な説明を一つ一つ読んでいく。貴重なものがたくさんあるとのこと。それを読んで、うわ、そんなに古いものが、とか、へえ〜っ興味深いねえ、とか、感心して楽しめるのは、間違いなくわたしたちが歳をとったからなのだ。若い頃は、この面白さがわからなかった。今のわたしたちは、好奇心が止まらない。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
鯉山の提灯。
鈴木保奈美さんが撮影した写真
鷹山の粽と、おみくじ。運勢は…ふふ、秘密。

さてこの宵には、ラッキーなおまけもついていた。いくつかの会所では、山鉾に搭乗する事ができるのだが、その券を三人分、和菓子舗旦那が送ってくれたのである。いただいたときは、搭乗ってどういうことだ? と、意味がわからなかったのだが、まさに、あの山鉾の、お囃子(はやし)方が座る櫓(やぐら)みたいなところに乗ることができるのだ。順番に靴を脱いで、梯子を登る。木と縄で組まれた山鉾が、ゆらゆら、ミシミシ。うわあ、案外高い、そして狭い。ここに座って巡業の間中ずっと笛を吹くなんて、ちょっと怖いけど、それより楽しい。てっぺんでは地元の方が設備の説明をしてくださる。ああ、みんな楽しそうだ。登る人も、支える人も。お祭り、いいね。明日の巡行がますます楽しみだ。


◇連載『中途半端な旅人は語る』(小学館)が待望の書籍化!

本_1
『中途半端な旅人は語る』(小学館刊) ¥2,420 

連載『中途半端な旅人は語る』(小学館)が、一冊の単行本となりました。詳しくはこちらをご覧ください(一部、ためし読みもいただけます)。

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PHOTO :
鈴木保奈美(本人の写真は、スタッフ、友人、家族が撮影)
COOPERATION :
ライカカメラジャパン
EDIT :
喜多容子(Precious)