スポーツカーが大好きな英国を象徴するイベント、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、マクラーレン・600LTが披露された。現地へ飛んだライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、日本発売に先駆けて最新モデルの魅力をリポートする。

マクラーレンの起源

会場でベールを脱ぐマクラーレン・600LT

グッドウッドの「フェスティバル・オブ・スピード」会場でベールを脱ぐマクラーレン・600LT。
戦前から英国人が好んできたロードゴーイングレーサー(公道も走れるレースカー)というコンセプトは健在。
2本の排気管が上に向かって突きだしているのが600LTの外観を印象づけている。

 英国は文化的に興味ぶかい国だ。そのひとつの例がクルマ。とりわけスポーツカーやレーシングカーとなると、いまでも一頭地を抜いている。

 モータースポーツのシリコンバレーとも言われるのがロンドン北西部。モータースポーツ好きにはシルバーストンサーキット近くというとおわかりだろうか。

 マクラーレンはロンドン南西部だが、それでもだいたい80分ほどで互いに往き来しやすい位置関係にある(往き来はしないだろうが)。

 理由は第二次世界大戦中の航空エンジニアが軽量化技術やエンジン技術を持ってクルマの分野に入ってきたこと。

 彼らがクルマをテストするのにいい場所が英国空軍の爆撃機基地だったシルバーストンであり、さらにモーターウェイも近くにあった。

「60年代まではクルマのテストいえば、まだ混んでいないモーターウェイでした」。かつて英国の自動車メーカーのエンジニアがそう教えてくれたことがある。

 もちろん英国でモータースポーツが盛んになったのは、彼らがなによりクルマが好きで、レースが好きだったからにほかならない。

 そこに惹きつけられたのがニュージーランド出身のドライバー、ブルース・マクラーレンであり、レーシングカー開発でも天才ぶりを発揮した。やはりマーチやウィリアムズの近くにアークショップを開設。そこで戦闘力の高いマシンを送り出してきた。

 往年のファンには、フェラーリのニキ・ラウダと争い、1976年雨の日本グランプリで1位入賞するなど豪快な走りを見せたジェイムズ・ハントや、80年代後半から90年代前半にかけてのセナとプロストが記憶に残っているだろう。

コクピットは軽量かつ高剛性のカーボンモノコックで出来ており、そのためディヘドラルドアが採用される。
「フェスティバル・オブ・スピード」会場となったグッドウッドエステートのシンボルであるグッドウッドハウスで600LTの記者会見が行われた。
「フェスティバル・オブ・スピード」会場に設けられたマクラーレンのブースは森の中という雰囲気を活かした優雅なもの。

由緒ただしき「ロングテール」

グッドウッドの所有者でありこのイベントを25年前に始めたデューク・オブ・リッチモンド(マーチ卿)。
レーシングスーツや整備用ジャンプスーツがこのイベントの制服みたいなものだが、洒落た装いで楽しむひとも少なくない。
2017年12月に発表された800馬力の「セナ」は伝説のマクラーレンドライバーといえるアイルトン・セナの名をもらったモデル。

 いまマクラーレンというと、もうひとつ、大きな存在がある。F1とは別に、マクラーレン・オートモーティブが手がけるスポーツカーだ。

 マクラーレン車の特徴は「スポーツシリーズ」「スーパーシリーズ」それに「アルティメットシリーズ」とラインナップを3系統に分けているところである。

 スポーツシリーズは公道を楽しむGT的な性格を持ったモデル群。いっぽうアルティメットは2012年に発表されて早くも伝説的な存在になったハイブリッドスポーツ「P1」やF1で黄金時代を築いたブラジル出身のドライバーにちなんだ800馬力の最新モデル「セナ」がある。

 中間的な位置づけ(といってもかなりトンガったスポーツモデル)なのが、2018年7月12日に英国で発表されたばかりの「600LT」だ。

 発表の場所はウェストサセックス州のグッドウッド。ロンドンからほぼ真下の海のそばにある、デューク・オブ・リッチモンド(かつてのマーチ卿)が所有する敷地を使っての「フェスティバル・オブ・スピード」が会場に選ばれた。

「お、マクラーレンだ!」と声をあげながら駆け寄る英国人のおとなもいるぐらい、このクルマのイベントに安くない入場料を払って訪れたひとは、展示された600LTに引き寄せられているようだった。

 F1担当チームと同じ建物のなかで開発されているマクラーレン車の例にもれず、新しい600LTも図抜けたスペックスを持つモデルである。

 600馬力の最高出力と620Nmの最大トルクを発生する3.8リッターV8ツインターボエンジンをミドシップした後輪駆動の2人乗り。

 静止から時速100キロまでの加速は2.9秒で、トンあたり481馬力もある。時速250キロでの走行中のダウンフォースは100キロに達し、類のないほどのロードホールディングをもたらす、と喧伝される。

 LTはロングテールを意味し、こちらは1995年のルマン24時間レースで優勝するなど輝かしい歴史を持つ「F1 GTR」に由来する。空力を向上させるためリアを延ばしたモデルがロングテールと呼ばれたのだ。

 マクラーレンじしんこの名前を大事にし、ここぞというモデルにしか用いてこなかった。今回の600LTはようやく4台めとなる。前に発売された675LTスパイダーは限定生産の500台が2週間で売り切れた。

 600LTの特徴は、ひとことでいうと、すべてが理に叶った形状をしていること。一目でマクラーレンとわかる個性あるスタイリングはすべて自社の風洞を使いながら形作られた空力的に「正しい」かたち。

 前ヒンジで上に跳ね上がる「ディヘドラルドア」も同様だ。レースカーなみの強度の高いカーボンモノコックシャシーのためサイドシルは高くなり、通常のドアは採用できないのである。

 リアに回ると運転席背後に2本の「煙突」のように排気管が突きだしている。まことに自動車好きの心をくすぐるスタイルだ。

 これは「排気管を出来るだけ短くして重量軽減をはかった結果」とデザインを統括するロブ・メルヴィル氏は説明してくれた。やはりロジカルな理由がある。

「公道を走るスポーツカーを作るのは父であるブルース・マクラーレン(1937年生まれ/70年に32歳のときCANAMカーのテスト中に事故死)の夢でした。彼じしんはマクラーレン・オートモーティブを知りませんが、プロダクトの内容的にも絶対に喜んだでしょうね」

 グッドウッドで出合った娘のアマンダさんは笑顔でそう話してくれた。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。