古今のスポーツカーやレーシングカーが走り回る、英国・グッドウッドの「フェスティバル・オブ・スピード」をご存知だろうか。近年はその盛況ぶりから、自動車メーカーによるニューモデルのお披露目の場として使われることも多い。現地を訪れたライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その熱気をリポートする。
英国で、今最もクルマ好きが集まる場所
ドイツ人は森を愛し、英国人は犬を愛す。とは欧州でよく言われることだが、自動車への愛についても英国人は人後におちない。
その証左ともいえるのが、毎夏、南部のウェストサセックス州グッドウッドで開かれる「フェスティバル・オブ・スピード」だ。
当初は主催者が手弁当で作るような小さめの催しだった(ただし敷地は広大だった)が、いまや世界的なイベントにまで成長。
一日70ポンドぐらいのチケットはすぐ売り切れ、入場者の延べ人数は15万人と言われる。広大な敷地にコースが設定され、家族での来場者も多いようだ。
このイベントは当初、古いクルマを走らせて楽しむというシンプルな内容だった。その後25年のあいだに「発展」し、新型車も多く展示されるまでになっているのだ。
「かつてロンドンで行われていた英国のショーは衰退してしまいました。でもその代わりにフェスティバル・オブ・スピードが注目されているのです。なにしろここには自動車好きが集まりますから」
マクラーレン・オートモーティブの広報担当者は、ここで新型車を発表する意義について語ってくれた。ほかのブランドも同様の考えらしい。昨今はルマン24時間レースだったり、新車を発表するには、モーターショーよりふさわしい場所があるということなのだろう。
古今のマシンが白煙をあげながら走る!
2018年7月12日から15日にかけて開催されたイベントの目玉はなにか。じつは簡単に書けないほどの充実ぶりである。
トヨタはBMWと共同開発している新型スポーツクーペを走らせたし、フォードは映画「ブリット」でマクイーンが乗っていたマスタング(の実物)と、同名の最新モデルを持ちこんだ。
アストンマーティンは最新のスポーツモデルDBSスーパーレッジェーラとともに、顧客の特別注文で制作した、シグネットV8を持ちこんだ。
トヨタiQと同じボディに4.7リッターV8エンジンを搭載した後輪駆動のスペシャルである。これが喝采を浴びていた。洒落の効いたモデルこそ、英国男のセンスの見せどころだろう。
戦前のレーシングカーにはじまり、戦後の自動車史に残るマシンの数かず。なかにはF1もあればWRC(世界ラリー選手権)の優勝車も。二輪もあればルマンカーも、といったぐあいだ。それがタイヤから白煙をあげながら走るのである。おもしろくないわけがない。
ポルシェ70周年記念式典も開催!
同時にポルシェが70周年を祝う式典を開催したのも大きな話題だった。1948年型の356ロードスター1号車にはじまり、ルマンやダカールラリーなどモータースポーツで活躍してきた伝説的なレーシングマシンの数かず。
「ポルシェは私の大好きなブランドでもあります。このイベントでは908/3(1970年)などのレーシングカーを運転させてもらったことがあるが、迫力ある体験でしたね」
会場になったグッドウッドエステートの所有者であり、このイベントを主宰するデューク・オブ・リッチモンドは眼を輝かせながら、インタビューでそう語っている。
大のおとなが、という言葉があるけれど、大のおとなが本気で運営しているからこそ、フェスティバル・オブ・スピードはおもしろい。それを可能にしているのが英国人気質だとしたら、これこそ見習いたいではないか。
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト