レース参戦を経て市販車のチューニングへ
チューニングとは文字通り楽器を調律するように、クルマをより速く走らせるためにエンジンやボディ剛性、足回りなどをカスタマイズすることだ。スポーツカーをてがけ、モータースポーツ活動も行なう自動車ブランドには何らかの形でそうしたチューニング部門があり、メルセデス・ベンツではメルセデスAMG(旧AMG)が受け持っている。そのルーツは1960年代にまでさかのぼり、メルセデスの車両を独自にチューニングしてレースで活躍した独立企業のAMGが、やがてメルセデス・ベンツと乗用車の共同開発をするようになり、現在はグループ企業としてスペシャルモデルを担当している。そのラインアップは多岐にわたり、コンプリート仕様の「メルセデスAMGモデル」だけでなくメルセデス車両のオプショングレードとしても用意されていることから、非マニア層にも圧倒的な認知度を誇る。

スーパースポーツにして街乗りも快適

「メルセデスAMG・GT」は、サブブランドとしてのメルセデスAMGにおけるスポーツモデルのフラッグシップだ。キャビンから前のノーズ部分を長くとり、曲線を強調したスタイリングは実にクラシカルで、特に後ろ姿が美しい。フロントマスクは近年のメルセデスのデザイン哲学にのっとったアグレッシブな目つきのデザインで、長いノーズのなかにはメルセデスAMGが開発した、ふたつのターボチャージャーを備えるV型8気筒エンジンが収まっている。スペックは文末のデータをお読みいただくとして、むしろ重要なのはしなやかな乗り味と取り回しのしやすさだ。「メルセデスAMG・GT」は、イタリアブランドのスーパースポーツカーに比肩するパフォーマンスを誇るが、両者は似て非なるもの。それは長年プレミアムカーをつくってきたメルセデス・ベンツの伝統ともいうべきもので、高速度域でも怖さを感じない圧倒的な安心感、そして日常の足として何の不便もなく使える実用性を備えているのだ。

もはやかつての「AMG」ではない

アクセルを深く踏み込んだときの官能的なエンジンサウンドや地面を蹴飛ばしていく加速はスーパースポーツカーそのもの。だが、このクルマはそんなときでも乗員に大きな振動を感じさせることはなく、ステアリングを切りこんだときに手に伝わる感触、そしてリニアな手ごたえは、スマートフォンのタッチパネルを操作したときのような絶妙なもの。そうしてドライバーの意図したとおりに、カーブをトレースしていく。AMG時代のチューニングモデルは車高がかなり低く、エアロパーツをまとったスタイリングはともすると周りに威圧感を与えるものだったが、今は違う。速さがすべての世界で切磋琢磨してきたレース屋「AMG」は、プレミアムカーの経験豊富なメルセデス・ベンツと融合することで、「紳士」へと成長したのだ。

 
 

〈メルセデス・ベンツ メルセデス AMG GT(S)〉
全長×全幅×全高:4550×1940×1290㎜
車両重量:1660~1680kg
排気量:3982cc
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
最高出力:510PS/6250rpm
最大トルク:650Nm/1750~4750rpm
駆動方式:2WD
トランスミッション:7AT
価格:1930万円(税込)
(問)メルセデス・コール ☎0120-190-610

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.2.11 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。