今年の新作「<グランドセイコー> Sport collection キャリバー9F 25周年記念限定モデル」は、GS専用のクオーツムーブメントにはじめてGMT機能を搭載したキャリバー「9F86」を積んで颯爽と登場した。通常モデルは来年まで待たなければならないので、800本だけのリミテッドモデルに向けられた視線は熱い。

クオーツ腕時計の技術史を塗り替えたグランドセイコー

「キャリバー9F」25周年記念限定モデル

伝統的な太い時分針も、そもそも「9F」の高トルクだからこそ駆動することができたものだ。さらに初めてのGMT針を追加しながら、標準では年差±10秒の時間精度を年差±5秒まで高めた特別精度のムーブメントを搭載。6時位置に掲げたゴールド色の五芒星マークはその証である。●クオーツ ●ステンレススチール ●ケース径39mm ●デュアルタイム ●10気圧防水 ●SS製ブレスレット ¥370,000(税抜価格、10月12日発売予定)※世界限定800本
伝統的な太い時分針も、そもそも「9F」の高トルクだからこそ駆動することができたものだ。さらに初めてのGMT針を追加しながら、標準では年差±10秒の時間精度を年差±5秒まで高めた特別精度のムーブメントを搭載。6時位置に掲げたゴールド色の五芒星マークはその証である。●クオーツ ●ステンレススチール ●ケース径39mm ●デュアルタイム ●10気圧防水 ●SS製ブレスレット ¥370,000(税抜価格、10月12日発売予定)※世界限定800本

 分針も秒針もそのままでクオーツの高精度を損なわない、時針だけを動かせる時差修正機能の搭載にも、クオーツ本家ならではの良識を見せる。文字盤はチャコールグレー、24時間表示ベゼルに対応したダイヤルリングのデイタイムとGMT針の躯体には、イエローの差し色。文字通り“異色”な装意を与えられた限定ファーストモデルはおそらく後年、特別なペットネームで呼ばれる歴史的な品になるだろう。

チャコールグレーの文字盤にイエローの差し色には、従来の「グランドセイコー」観をいい意味で裏切る大胆さが見える。しかも1970~1980年代に高精度の証として採用されていたクオーツマークをモチーフにした、「GS9F」パターンをダイヤル全面に型打ちする、数量限定モデルならではの特別仕様。実は25分位置に一つだけ、25周年を祝う「9F25」の文字が隠れている。
チャコールグレーの文字盤にイエローの差し色には、従来の「グランドセイコー」観をいい意味で裏切る大胆さが見える。しかも1970~1980年代に高精度の証として採用されていたクオーツマークをモチーフにした、「GS9F」パターンをダイヤル全面に型打ちする、数量限定モデルならではの特別仕様。実は25分位置に一つだけ、25周年を祝う「9F25」の文字が隠れている。

 国立科学博物館は先日、2018年の「未来技術遺産」を発表した。過去には“0系の新幹線”はじめ日本の誇るべき技術の証拠を毎年認定した試みは興味深く、毎年楽しみにしているのは小生だけではないだろう。今年選ばれた19件のひとつは、1969年にセイコーが発売した世界初のクオーツ腕時計「セイコー クオーツアストロン 5SQ」である。

 クオーツ技術の勢いは当時、予想以上だった。夢の精度を持つクオーツ腕時計は、機械式時計とそのメーカーを、期せずしてなぎ倒していくことになった。まったくの想定外は、「グランドセイコー」の足元までもえぐってしまったことだ。

 1960年に初代モデルが誕生した「グランドセイコー」は1960年代末に規格を厳格化し、世界最高レベルの精度を持つ機械式腕時計シリーズに上り詰めた。自他ともに認める「別格のセイコー」のその立ち位置さえも、クオーツは揺るがしたのである。世界に誇る「グランドセイコー」は、生産を中止した。

実現不可能を可能にした高級クオーツムーブメントの代名詞「9F」

GMT機能が加わった「9F86」ムーブメント。グランドセイコー専用機種として誕生した高級クオーツムーブメントの代名詞「9F」の最新キャリバー。高トルクの「ツインパルス制御モーター」、カレンダーの「瞬間日送り機構」、秒針のふらつきを軽減する「バックラッシュオートアジャスト機構」など、数々の新機軸を盛り込んだ世界最高峰のクオーツムーブメントは、普段は見えなくとも、ゴールド色で美しく仕上げられている。
GMT機能が加わった「9F86」ムーブメント。グランドセイコー専用機種として誕生した高級クオーツムーブメントの代名詞「9F」の最新キャリバー。高トルクの「ツインパルス制御モーター」、カレンダーの「瞬間日送り機構」、秒針のふらつきを軽減する「バックラッシュオートアジャスト機構」など、数々の新機軸を盛り込んだ世界最高峰のクオーツムーブメントは、普段は見えなくとも、ゴールド色で美しく仕上げられている。

 ひとたび眠りについた大名跡が蘇り、“高精度の高級クオーツ腕時計”として「グランドセイコー」が復活したのは1988年である。何より1993年から搭載が始まったGS専用ムーブメント「9F」が、傑作の評価を高めた。長くて太い針を回し、秒針のふらつきを抑えこみ、カレンダーは瞬時に送られる。クオーツが最も苦手とする点をすべて解消し、仕上げも美しい。そのムーブメント誕生から25年目に、魅力的な新機能が加わったのである。

左/ブラック(SBGN003)と右/ネイビー(SBGN005)、2種の文字盤の通常モデルは3ヶ月遅れての発売が予定されている。GMT機能を持つ同じムーブメント「キャリバー9F86」を搭載。深い色味のダイヤルは美しく、こちらも必見。共通:●クオーツ ●ステンレススチール ●ケース径39mm ●デュアルタイム ●10気圧防水 ●SS製ブレスレット ¥330,000(税抜価格、2019年1月12日発売予定)
左/ブラック(SBGN003)と右/ネイビー(SBGN005)、2種の文字盤の通常モデルは3ヶ月遅れての発売が予定されている。GMT機能を持つ同じムーブメント「キャリバー9F86」を搭載。深い色味のダイヤルは美しく、こちらも必見。共通:●クオーツ ●ステンレススチール ●ケース径39mm ●デュアルタイム ●10気圧防水 ●SS製ブレスレット ¥330,000(税抜価格、2019年1月12日発売予定)

「グランドセイコー」もいずれは、「未来技術遺産」に選ばれるべき腕時計だ。ちなみにクオーツで復活した後、1998年には機械式を復活、2004年にはスプリングドライブ版を加え、「グランドセイコー」は方式を問わない高級ラインとなった。2017年には文字盤ロゴからセイコーの名前を外して「Grand Seiko」だけを掲げる、独立ブランド化を果たしている。初代から4半世紀目の時計「キャリバー9F 25周年記念限定モデル」は、クオーツの成功物語と「グランドセイコー」の伝説という平行したふたつの稀な物語を、もう一度前に進めるのである。

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この記事の執筆者
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『腕時計一生もの』(光文社)、『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を開講。