皆様、明けましておめでとうございます!
2014年もメンズプレシャスをなにとぞよろしくお願いいたします。
新年早々去年のネタで申し訳ないのですが、
まだニューヨーク旅行で、書き漏れていたネタがありました。
ニューヨーク五番街にあるテーラー
このテーラー、実は私が大好きな映画監督
ウェス・アンダーソン
のスーツをつくっているというウワサ。
『ザ・ロイヤルテネンバウムス』
『ライフ・アクアティック』
『ファンタスティックMr.FOX』
など、ポップでちょっと変態的な箱庭的世界観を
つくらせたら天下一品のウェス監督。
登場人物のファッションもいちいち完璧で、
ファッションエディターとしては
絶対に見逃せない存在なのです。
もちろん映画と同様、本人のお洒落も変態的。
コーデュロイをはじめとするコットンスーツと、
シャルベと思われるカジュアルシャツ、
そしてクラークスのワラビーという着こなしが
彼のトレードマークでして、
なんとパペットアニメの
『ファンタスティックMr.FOX』では
主人公のキツネが着るスーツを
自分と同じスーツ生地で仕立てさせ
衣装さんを泣かせたという伝説をのこしています。
果たして、そんなN.Y.を代表する
服飾変態の行きつけテーラーとは?
そして、
ニューヨークのオーダースーツとは?
ふたつの疑問を解決すべく、
こちらにお邪魔した次第です。
住所は五番街の137番地。
東京に置き換えれば銀座中央通り的な抜群の立地に
そのテーラーはありました。
雑居ビルの小さなエレベーターで4階まであがると・・・
イメージを裏切る
ズバリ言って雑然とした光景が。
私の訪問を快く迎えてくれたのは、店主の
Vahram Metazoanさん。
(いったいなんて読めばいいんだろう・・・)
こちらは1964年に彼の父がつくったテーラーで、
Mr.NEDとは父の名前だということです。
「スーツを仕立てる場所はN.Y.にはいっぱいあるけれど、
うちのようなインディペンデントなテーラーは少ないんじゃないかな?
うちは外部に発注することなく、全工程を自社で手がける
数少ないテーラーなんだ」
「顧客は毎日スーツを着るタイプの人が75%かな」
「ハウススタイルは特にないよ。自分の趣味は顧客には押し付けない。
顧客が何を望んでいるかを把握して、その人に似合うものを
つくることに徹しているよ」
というMetazoanさん。
質実剛健な、昔ながらの街のテーラーといった風情です。
お世辞にもお洒落とはいえない店内ですが、
そのこだわりは店内の隅々から感じられます。
安心の総毛芯仕立て。
ライニング、袖付けは手縫い。
そして驚かされたのが、
仮縫い付きの
フルオーダーにして
$950〜
というプライス!
凄まじく家賃の高いN.Y.という場所にあって
この価格は、奇跡的というより他ありません!
「間に業者を入れず、生地を一括購入して
ディスカウントしてもらっていることと、
このフロアは私が所有している物件だから
その価格で出せるということ。
もちろん広告も出さず、お客はすべて口コミでやってくるんだ。
27歳で月$3000も稼いでいるヤツなんていないし、
若くてもテーラーの仕立てたスーツが
ほしいという男には丁度いいプライスだろう?」
そんなMr.NEDも、後継者探しには苦労しているようです。
「1990年代初頭、貿易の関税がなくなったことで、洋服の生産国が
一気にアジアに移ってしまった。
仕事がなければ、そのスキルを学ぶ人はいない。
だから今、アメリカ人の仕立て職人は皆無。
うちで働いているのも、ラテンアメリカから来た職人が多いんだ。
しかし賃金も高くなっているから、テーラーは大変だよ」
と嘆くMetazoanさん。
さて、そんなMr.NEDの店内を見回すと、
おお、ぜひとも尋ねてみたかった
ウェス・アンダーソンの痕跡が!
「ウェス?彼は変わったモノが好きなヤツだね。
色もファブリックも、自分の好きなモノが決まっているんだ。
ウチの15年来の顧客で、彼がN.Y.に越して来てからの付き合いさ。
『ザ・ロイヤルテネンバウムス』以来、映画に登場する衣装も
ウチがつくっているんだ。
『Mr.FOX』の人形の服は、もともとウチのスーツを
切り刻んでつくったそうだよ。
後から"切っちゃったからもう一着つくって"と
オーダーしに来たな(笑)。
その生地? スキャバルのコーデュロイだね」
皆さん、これだそうです!!
僕もウェス監督と同じスーツをつくりたかったのですが、
仮縫いがあるテーラーゆえ断念。
「うちは3回フィッティングするから、
その余裕がある人じゃなきゃ難しいね。
もちろんウェブショップもやっていないし・・・。
でも、オンラインじゃ何も買えないよ。
僕はどこにも行かないから、
ぜひうちのスーツがほしい人は来てほしいね。
コレは自分のエゴかもしれないけれど、
このビジネスは極めてパーソナルなものだから、
僕がいなきゃダメなんだ」
目の肥えたスーツマニアの方から見れば
何でもないテーラーかもしれませんが、
そんな彼の頑固な職人気質にウェス監督は
惚れ込んだのでしょう。
ビッグカンパニーが幅を効かすN.Y.ですが、
こういったインディペンデントなテーラーに
再び注目が集まって来たら、
もっと面白い街になるでしょうね!