現在のスピーゴラがあるのは、1997年、イタリアに留学していた鈴木氏が、靴職人のロベルト・ウゴリーニ氏と出会ったことによる。今、日本でもよく知られた凄腕靴職人のウゴリーニ氏は、当時、黒革に白のステッチが際立つノルヴェジェーゼ製法の靴などをつくっていた。それに惚れ込んだ鈴木氏は、志していた靴のパタンナーから、手づくり靴の職人へと道を変えたのだ。
ほとんど手づくり靴を知らなかった鈴木氏は、ウゴリーニ氏から一から教わり、得意の靴のパターン製作で仕事を支えた。双方がまだ若く、師弟関係を超えて切磋琢磨し、靴づくりのレベルを高めていったのである。やがて、鈴木氏は、ウゴリーニ氏の下を離れ帰国した。
イタリアの手技を神戸で熟成させた靴づくり
スピーゴラの新時代を感じさせるキャップトウ
「ロベルトから学ぶべきことはすべて習得しました。違うテイストの靴職人のところで修業することも考えましたが、自分でやるしかない、日本に帰ろうと思ったんです」
スピーゴラを立ち上げたばかりの頃は、靴をつくりながら「ロベルトの靴」とは違うスタイルにしなければ、という思いがあった鈴木氏。イタリアで手に入れたアンティークの靴などを参考にしてサンプルをつくり、徐々に自分の靴のスタイルをつくり上げていった。
’03年に工房を新設し、メンズファッション誌の取材も増え、いよいよ靴づくりに確信が持てるようになる。トランクショーで東京にも進出しはじめた。
スピーゴラらしいツヤのある色気は、ロングノーズのドレッシーなレースアップから、ラウンドトウのストレートチップまで、幅広いデザインをどの靴にも漂わせ、オリジナル感が備わる。鈴木氏は、結果的にそうなったと言うが、靴のフォルムとブランド「スピーゴラ」のイメージとがうまくまとまった。イタリアでウゴリーニ氏から学んだ靴づくりの技と自身の表現が結実したのだ。
「常に要望に応えられる靴づくりを目ざしています。今でも、ほかの靴やブランドより格好よく見せるには、何をすればいいのかを考えています。ものづくりなので、勝ち負けではありませんが、少しでもよく思われたい、ほめられたいですね」
レースアップにモンクストラップ、あるいはスリッポン。鈴木氏にどれがスピーゴラらしいデザインかと質問しても、それぞれの持ち味があるためか、明確に答えない。答えは不要。ドレスでもカジュアルでも、どちらのデザインも熟成され、スピーゴラオリジナルとして、しっかりとした技を持ち、強い存在感を放っているからだ。
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2017年冬号、知られざる「手づくりの名品4」より
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- クレジット=撮影/小池紀行(パイルドライバー/静物)構成・文/矢部克已(UFFIZI MEDIA)