ペッカリーの手袋が大好きです。

黒、焦げ茶、ベージュの3色持っていたのですが、

先日焦げ茶を紛失してしまったもので、

赤茶系の色を再度買い直しました。

ちょっと高いのですが、そのもちっとした肌触りや、通気性は最高。

これが靴だったら、どんなにいいだろうか・・・。

と思いなにげなくインターネットで

「ペッカリー 靴」と検索してみたら、

こんなサイトにたどり着きました。

http://sankoseika.jimdo.com/

ラギッドシューズ

(旧商品名マナスルシューズ)

マナスルシューズ・・・

それはあの日本橋丸善の洋品売り場で扱っていた

伝説のシューズではありませんか!

そしてこれは、僕が大学生時代に出合い、

今にいたるまでバイブルとしている漫画

『大正野郎』

に登場する靴なのです!

大正野郎。

それは今や『へうげもの』で大先生となった

漫画家山田芳裕さんの初期作品。

愛すべき大正かぶれの大学生、平くんが

趣味と恋愛に悪戦苦闘する愛すべきストーリーなのですが、

彼が愛用している靴こそが、

このマナスルシューズだったのです。

ということでもちろん僕も、

日本橋丸善に行きましたよ。

バーバリーのトレンチコートなどと一緒に

店頭に並ぶマナスルシューズは

ちょっとレトロな雰囲気がたまらなく好みで、

いつか平くんみたいに、

この靴にオリーブ色のスーツを合わせて、

浅草の下宿に住みたいなあ、

なんて本気で考えたものです。

あれから20年。

まさかこんなところで再会するとは・・・。

即購入を思い立ったのですが、

ネットで靴を買うのはどうも、という懸念と

どんなところでつくっているのかな?という興味。

製造元の三交製靴

さんに電話してみると、

会社で試し履きをさせてくれるとのことだったので、

次の日に東浅草まで行ってみました。

靴や革のメーカーが

林立しているこのエリア。

いまだに麻雀ゲームが現役で活動している

素敵に弛緩した純喫茶で珈琲を飲み、

三交製靴さんに。

そして、

20年ぶりに出合った

マナスルシューズは

嗚呼、昔のまんま。

色気とか野心の全くない、

とても素朴な表情をしていました。

そして僕のお目当てはこのモカシン。

いつかこのブログで、

ウディ・アレン風に

コーデュロイスーツやチノパンに合わせるための

モカシンがほしいなあ、

なんて書いた気がしますが、

やっと会えたねby辻仁成

正直インソールに

ラギッドシューズとかモダンなロゴが

刻印されていたらどうしようと心配しましたが、

SANKO SHOES

と、会社名だったのでほっとしました。

ソールはビブラム風のオリジナル。

多少の傷はご愛嬌。

だってこれ、ペッカリーを使って

ハンドソーンの九分仕立てで、

さんまんななせんえん

僕の手袋より安いんですから!

普通の表革に関しては2万1000円。

昔と全く値段を変えていないんじゃないかなあ?

ちなみにハンドソーン、九分仕立てというと

靴好きな方の琴線に触れてしまいそうですが、

あくまでこれ、実用靴ですから

インポートの本格靴と

同列に並べて語るのは無粋ってものです。

大正野郎が描かれた1987年には

すでにレトロな存在となっていたこの靴が、

いまだにつくられているということ自体が

素晴らしいじゃないですか!

たとえていうならば

お茶の水の山の上ホテル、

銀座の煉瓦亭みたいな存在でしょうか。

この会社、現在は社長さんと職人さんの

ふたりだけで営業されているそうです。

なんとアッパーのモカシンは

社長さんが手縫いされているとのことでした。

工場の中もお願いして見せていただきましたよ。

昔と全く変わらない、

でも永遠であるはずもなく、

いつか消えてなくなってしまうであろう、

ものづくりの風景。

この目に焼き付けようと心に誓いました。

『大正野郎』平くんがこの靴を履いて歩くとき、

浅草の街に鳴り響く

"こしゃこしゃ"

という音の、粋な響き。

この靴を履いて歩いたら、

僕の足音もそう聞こえるのかな?

この記事の執筆者
MEN'S Preciousファッションディレクター。幼少期からの洋服好き、雑誌好きが高じてファッション編集者の道へ。男性ファッション誌編集部員、フリーエディターを経て、現在は『MEN'S Precious』にてファッションディレクターを務める。趣味は買い物と昭和な喫茶店めぐり。
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