2018年のアカデミー賞で最多4部門の受賞を果たした不思議な魅力に満ちた映画『シェイプ・オブ・ウォーター』で、アルバム『ハーフ・ザ・パーフェクト・ワールド』(2006年)収録の楽曲「ラ・ジャヴァネーズ」が印象的に流れ、改めて注目を集めたマデリン・ペルー。彼女は“21世紀のビリー・ホリデイ”の異名とともに世に出、その後20年以上のキャリアを重ねて独自の魅力を醸成させてきたシンガー・ソングラーターだ。

Photo by Yann Orhan

マデリン・ペルーの特徴のひとつに、複数の言語で歌うことが挙げられる。メインになるのは英語だが、例えばセルジュ・ゲンズブールの書いた「ラ・ジャヴァネーズ」はフランス語、ボサノヴァの名曲「アクア・デ・ビター」はボルトガル語、といった具合。その背景には、彼女の育った環境がある。生まれはアメリカのジョージア州。その後、南カリフォルニアやニューヨークなどに移るが、両親の離婚を機に母親とともにパリに移住。15歳の時から路上で歌って投げ銭をもらうバスキングをはじめた彼女は、パリの仲間たちの間で評判になる。以降、欧州各地を回ったり、ニューヨークに渡ってクラブで歌うなどして音楽的な才能を開花させていったという。

名門アトランティック・レコードにその才能を見出され、アルバム『ドリームランド』でデビューを果たしたのは1996年、18歳の時。パリの路上で歌っていたというビリー・ホリデイの曲をはじめ、ベッシー・スミスやエディット・ピアフの曲など、ジャズやシャンソン、カントリーなどの名曲のカバーを主体にしたアルバムだった。

撮影 : 衣斐 誠

しかし、その後、ペルーはしばらく表舞台に出ず、自分の世界を熟成させていく。2枚目のアルバム『ケアレス・ラブ』でシーンに復帰したのは2004年。実に8年後のことだった。以降は、それまで同様に卓越したセンスで選んだ様々なアーティストの名曲をカバーしつつ、もう一方で、自作の楽曲も増やしていく方向で進む。自然体で説得力のある歌唱と、新旧入り交じった珠玉の楽曲たちの魅力が交差するペルーの音楽は、見事なまでに人々を惹きつけていった。2009年には全曲の作詞を自ら手がけたアルバム『ベア・ボーンズ』を発表。ビルボード・ジャズ・チャートで1位を獲得して、ソングライターとしての評価も一段と高まった。

昨年リリースされた9作目の最新アルバム『アンセム』は、ジョニ・ミッチェル等のヒット作を手がけてきた名匠ラリー・クラインとペルーとの共同プロデュース。人生における様々なチャレンジに直面する人々のストーリーを紡いだ歌詞と、シンプルで親しみやすいサウンドが、すでに評判となっている。

間近に迫ってきたマデリン・ペルーのブルーノート東京でのステージは、3月19日からの3夜連続。

撮影 : 衣斐 誠

前回2015年のブルーノート東京でのライブでは、イントロが聴こえると「これが聴きたかったんだ」という声が聞こえてきそうなヴィヴィッドな反応が客席にあった。それは、マデリン・ペルーに対する日本の観客の期待の大きさと同時に、彼女がストリート・シンガー時代に身につけたオーディエンスとの距離を縮める感性が、ライブの場で存分に発揮されていた証明でもあるだろう。今回のステージにはデイヴィッド・サンボーンとの共演でも知られるピアニスト、アンディ・エリズンも参加。ジャズ・ファンも魅了するステージが期待できる。

聴き手ひとりひとりの心に語りかけてくる歌声とサウンド……。マデリン・ペルーのワン&オンリーの音楽世界に包まれたい。

■スケジュール
3月19日(火)、20日(水)、21日(木)
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この記事の執筆者
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。近年ではレストラン取材やエンターテイメントの情報発信の記事なども担当し、ジャンルを問わないマルチなライターを実践する。