時計選びのポイントで大切なのが、目立たないこと。せっかくタイドアップで決めてもギラギラした時計が袖口から覗くのは少々みっともない。見た目の美しさにこだわり個性を主張するのも時計選びの醍醐味だが、シンプルな時計を選ぶのも必要である。ここでは主張しすぎず、かつ存在感のある時計を紹介する。

腕時計なんぞで目立ちません

 男にに許された数少ないアクセサリーである腕時計に力が入るのはわかる。だが腕時計だけが突出して目立つというのはどうなのだろう?

 ビジネススーツに大げさなクロノグラフという組み合わせの人は少なくない。だが「どうよ、この時計、カッコいいでしょ?」という幼い声がそこから聞こえてくるのである。

 なぜそこまでして自己主張しなければならないのか?

 均整のとれた美しさに抗う必要は何?

 アクティブな腕時計はアクティブな状況、服装のときに。東京ジェントルマンの辞書に「ケレン」というエントリーはない。

「子供っぽい人ね」と嗤われぬために必ず守りたい習慣。それは、時計で目立とうなどと、決して思わないことである。もののわかった淑女と紳士は、向き合った人の目を、時計に行かせるような装いは決してしない。アクセサリーは、それ自身が主役を食ってしまっては本末転倒。目立たせず、それでいていいものを身に着ける。これこそが、習慣にすべき、東京ジェントルマンの基本的な態度なのである。

■IWCアイ・ダブリュー・シー
『ポルトギーゼ・ミニッツ・リピーター』

複雑なリピーター機能により、美しいゴングで時を報せる。決して目立たず、だが完璧なまでに紳士の腕に特別な存在感を与えてくれる逸品。

『ポルトギーゼ・ミニッツ・リピーター』 ●手巻き ●18Kレッドゴールドケース×アリゲーターストラップ ●ケース径/44 ㎜ ¥10,500,000(IWC)ジャケット¥335,000(伊勢丹限定)・シャツ¥46,000(ゼニア カスタマーサービス〈エルメネジルド ゼニア〉)
『ポルトギーゼ・ミニッツ・リピーター』 ●手巻き ●18Kレッドゴールドケース×アリゲーターストラップ ●ケース径/44 ㎜ ¥10,500,000(IWC)ジャケット¥335,000(伊勢丹限定)・シャツ¥46,000(ゼニア カスタマーサービス〈エルメネジルド ゼニア〉)

A.Breguet ブレケ『クラシック5177』

トゥールビヨン、自動巻きなど数々の発明で知られる天才ブレゲ。その歴史を象徴する本機だが、佇まいは静謐で、控えめですらある。そんな奥ゆかしい気品こそ、東京ジェントルマンにふさわしい。『クラシック 5177』●自動巻き●ホワイトゴールドケース×クロコダイルストラップ●ケース径/38㎜ ¥2,570,000(ブレゲ ブティック銀座)

B.Cartier カルティエ『タンク ルイ カルティエ』

絶妙なバイアスのローマン数字、戦車をモチーフにしたケース。誕生時から不変のデザインは、圧倒的なまでに美しい。『タンク ルイ カルティエ LM』●クオーツ●18Kイエローゴールドケース×アリゲーターストラップ●ケースサイズ/33.7×25.5㎜ ¥1,130,000(カルティエ カスタマー サービスセンター)

C.Jaeger-Lecoulte ジャガー・ルクルト『レベルソ』

クラシックな風情そのままにサイズアップした本機は、あらゆる装いにマッチする万能な一本。反転させた裏側には自分だけの刻印を入れられるのも魅力だ。『グランド・レベルソ・ナイト&デイ』●自動巻き●ステンレススティールケース×アリゲーターストラップ●ケースサイズ/46.8×27.4㎜ ¥1,025,000(ジャガー・ルクルト)

D.Patek Philippe パテック フィリップ『カラトラバ』

秒針のミニマムな文字盤、ベルトを固定するラグのショート化。伝統的デザインを踏襲しながらも、さりげなくモダナイズした魅惑の一本。一切無駄のないその佇まいは、どこまでも端正。『カラトラバ』●手巻き●ローズゴールドケース×アリゲーターストラップ●ケース径/38㎜ ¥2,810,000(パテック フィリップ ジャパン インフォメーションセンター)

男が身につけることが許される数少ないアクセサリー。男が女性よりもこだわりを持っているのが腕時計である。時計で個性を主張するのは大切なことであるが、洗練されたシンプルなデザインな時計を選ぶことも重要であることも知って欲しい。

※価格はすべて税込です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
BY :
MEN'S Precious2016年春号『東京ジェントルマン50の極意』より
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。
クレジット :
撮影/川田有二(人物)、戸田嘉昭(パイルドライバー/静物) スタイリスト/櫻井賢之 ヘア&メーク/YOBOON(coccina)モデル/Trayko