アストンマーティンには大人っぽさがある。一見してスポーツカーとわかるスタイリングは、古典的なプロポーションを精緻な技術で美しく表現したもの。だから古臭くはないし、むしろモダンに見える。そして、走りは豪快そのもの。もちろんしっかりと電子制御されたインテリジェンスな部分はあるが、それにも増して男らしさを前面に出した印象だ。2座のヴァンテージなら、ストイックに走りを楽しめる。

スーパースポーツなれど普段使いへの配慮も抜かりなし

ボンネット下に収まるV8エンジンは前輪軸より後ろの低い位置に搭載される。いわゆるフロントミッドシップと呼ばれるレイアウトをとる。
ボンネット下に収まるV8エンジンは前輪軸より後ろの低い位置に搭載される。いわゆるフロントミッドシップと呼ばれるレイアウトをとる。
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パワフルな後輪駆動のイメージそのままに、リアフェンダー周りが盛り上がったグラマラスなデザイン。
パワフルな後輪駆動のイメージそのままに、リアフェンダー周りが盛り上がったグラマラスなデザイン。

 英国女王、エディンバラ大公、ウェールズ公によって品質を認められ、王室への納入を許可するロイヤルワラント(英国王室御用達)を、ジャガー/ランドローバー、そしてロールス・ロイスと共に有するアストンマーティン。由緒正しいブリティッシュ・スーパースポーツとして常に一線を走り続けてきた。

 その現在のモデルラインナップの中でDB11が本格的なGTカーとすれば、「ベビー・アストン」と呼ばれるヴァンテージは、エントリーモデルに位置する。だからといってヴァンテージを甘く見てはいけない。正真正銘のピュアスポーツカーとして、走りでも大きな存在感を示してくるのである。

 現在アストンマーティンはメルセデス・ベンツと技術提携を結んでいるため、搭載されている4リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、基本的にドイツ製スーパースポーツのAMG GTと共通。さらに電装系や操作系などの部分でもメルセデスからの供給を受けていることは、車内を見回すと垣間見ることができる。

 たとえばセンターコンソール内のしつらえ。ギアセレクターボタンはユニークな位置に設定されているため、確かに個性的ではあるが、その後方にあるパームレストとナビゲーションなどを操作するダイヤルとが組み合わされた操作部は「あれ、どこかで見たなぁ」というもので、まさしくメルセデスの風景なのだ。

 提携を結んでいるのだから文句を言うつもりはない。オーディオシステムもナビゲーションも操作しやすいし、その他のインターフェイスにおいてもドライバーを包み込むような設計がなされ、良くできたコクピットとして成立しているのだから問題なし。

 こうしてドライバー席に座り、走り出す前に少し操作系をチェックしているとき、気になったことがほかにもあった。それはこの手のスーパースポーツとしては珍しくバックカメラだけでなく、バードビューでもクルマの周囲を確認できること。

 真俯瞰からの映像はアイポイントが低く、車両感覚が掴みにくいクルマにこそありがたい。ゆとりのある郊外の駐車場や自宅のガレージに止めるだけではないことを考えると、装備されていて邪魔なものではない。

「最も危険な遊戯」も試してみた

本文にあるように、AMG GTと共通のスイッチ類が見受けられるが、それほど違和感はない。
本文にあるように、AMG GTと共通のスイッチ類が見受けられるが、それほど違和感はない。
テスト車両はサポート性を高めた「スポーツプラス」シートを装備。ベージュでコーディネートされたインテリアが、クラシック・スポーツカーの雰囲気を漂わせている。
テスト車両はサポート性を高めた「スポーツプラス」シートを装備。ベージュでコーディネートされたインテリアが、クラシック・スポーツカーの雰囲気を漂わせている。
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 イグニッションを押す。瞬時にボォン!と雄々しいエグゾースト共に目覚め、その後は至って良識的なエンジン音を奏でながらアイドリングをつつけるが、低周波のビートはダイレクトにドライバーに伝わってくる。そこでドライブのシフトボタンを押してゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 トルクがグググッと立ち上がってくる。エンジン回転が2500回転辺りから、さらにエンジン音もロードノイズも高まってきて「走ってる~!」という感覚がどんどん高まってくるのだ。

 その加速感は強烈で、0~100km/hを3.6秒でこなし、公表最高速度は314km/h。これをピュアスポーツならではの味、といってしまえば納得できるが、一方で2,000万円オーバーのプレミアム・スポーツと考えたら果たしてどうだろう? アクセルに対する反応が少々急激すぎるように感じる。だがこれまでもアストンマーティンは、ハードで男っぽい走りを個性としてきたことを考慮すれば、十分に納得できる仕上がりなのかもしれない。

 ヴァンテージは「スポーツ」、「スポーツ+」、「トラック」計3つの走行モードが選べる。もっともソフトなのがスポーツだが、それでも結構硬い。そこで一段階ハードなスポーツ+にセットしてみたら、より乗り心地は硬くなり、アクセルの反応も敏感になる。

 このスポーツ+モードでワインディングに突入すると、操縦性がピタリと填まってくれて気持ちいいことこのうえない。さらにその上のトラックに試しに放り込んでみると、終始ゴツゴツとした路面からのインフォメーションを受けながら、スロットルオフのたびにアフターファイヤーが響き渡る……。

 これは正直、疲れる。よほど乗り気のときでも、このモードと長く付き合うことは遠慮したいと思う。

 やはりサーキット走行以外はあまりおすすめできない。個人的にはスポーツ+がギリギリ我慢できる範囲だ。通常はスポーツモードで十分だし、淑女を乗せるときなど、間違ってもトラックモードに入れてはいけない。

 試乗を終えて、エンジンを止めてホッと一息。軽く運動をしてきたような心地良い達成感があった。スポーツモードで走る限り、実に素直な運動性能を示し、心地いいコーナリングを楽しむことができたことにある種の満足感を味わっていた。ひょっとしたら忘れ掛けていたピュアスポーツカーの味とは、この感覚だったのかも知れない。

●スチール撮影/篠原晃一 動画制作/永田忠彦(Quarter Photography)

<アストンマーティン・ヴァンテージ>
全長×全幅×全高:4,465×1,942×1,273㎜
車重:1,530kg
駆動方式:FR
エンジン:4,000cc V型8気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:503PS/6,000rpm
最大トルク:685Nm/2,000~5,000rpm
¥21,384,000(税込)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
PHOTO :
篠原晃一
MOVIE :
永田忠彦(Quarter Photography)