カフリンクスを日常で使うことは少なくなり、さながら絶滅危惧種のような存在と化している。と、思うのは早計だ。間違いなく、カフリンクスを必要とするシチュエーションは存在する。

思えば昭和の時代には、男のちょっとしたお洒落として、カフリンクスは欠かせない小物だった。一般のサラリーマンでも、ぱりっと糊のきいた白いシャツに思い思いのカフリンクスを合わせたものだ。家紋がデザインされたものなどもあって、現代の目から見ると、ファッション的にはなかなかに難しいもの。とはいえ、貴族が自らの紋章を服装のどこかに潜ませるのはひとつのプロトコル。伸び盛りの戦後日本の企業戦士たちが、そのような健全なる上昇志向を持っていたのはほほえましくもある。

閑話休題。現代におけるカフリンクスは、やはり本当に特別な時に袖口にあしらうのが望ましい。それは、ある程度の地位や役職にたどり着いた男にこそ許される小さな贅沢と言えるのではないか。夜会といえば絵空事に聞こえるだろうが、オペラやクラシックの演奏会に顔を出すことなど、日常のちょっと先にあるものだ。ならば、夜会用にとうそぶいて、カフリンクスのひとつやふたつ、持っているべきだろう。

さて、夜会用のフォーマルスタイルのシャツはダブルカフスが望ましい。カフリンクスを留められるは当然、アクセントとなるカフリンクスが、フォーマルの着こなしを、より華やかに盛り上げるからだ。

そで口のカフリンクスにフォーマルを楽しむ伊達男の心意気を潜めたい

まず、知っておきたいのは夜間の正礼装であるテールコートの場合、カフリンクスは真珠や白蝶貝など、白ものに限られること。ここにアレンジの余地はない。一方、タキシードは黒のオニキスが正統だが、格式の高い式典でなければ、どんなタイプのカフリンクスでも許されるだろう。それだけに、カフリンクス選びは、個人的なセンスの見せ所ともいえる。カフリンクスを素材で分けると、おおまかに以下のようになる。

■ダイヤモンド、パール、オニキスが代表の鉱石

■ゴールド、シルバーなどの貴金属

■陶磁器や七宝などの焼きもの

デザインは円と四角が多いが、動物をモチーフにしたものもあり、バリエーションは豊富にある。

ダイヤモンドの圧倒的な存在感に魅了される

¥800,000(サンモトヤマ銀座本店〈アスプレイ〉)
¥800,000(サンモトヤマ銀座本店〈アスプレイ〉)

英国の老舗であり、クラフツマンシップとモダンデザインを結びつけたブランド「アスプレイ」。そのカフリンクスはダイヤモンド8つを並べた、ラグジュアリーなつくり。この普遍の輝きを放つカフリンクスは、フォーマルを優雅に導く。

両面使いができる優れもの

¥28,350(ヴァルカナイズ・ロンドン〈ターンブル&アッサー〉)
¥28,350(ヴァルカナイズ・ロンドン〈ターンブル&アッサー〉)

昼間のフォーマル全般、夜のテールコートには白のパールのほうを。夜間のタキシードやそのアレンジ版の着こなしには黒のオニキスのほうを。両面を使い分けられる仕様は実に重宝する。小ぶりな長方形で、さりげないアクセントになるところも粋。

チャーミングなアピールに好演

※参考商品(ダンヒル)
※参考商品(ダンヒル)

英国で不屈の精神を持った男の力強さの象徴といわれるブルドッグは、「ダンヒル」が好んで用いるモチーフ。このカフリンクスの意外性は、フォーマルのハズしアレンジにぴったりだろう。シワさえも感じる精巧なつくりで、マットなラッカー仕上げ。

控えめな配色の七宝焼き

¥29,4000(トゥモローランド〈ベルフィオーレ〉)
¥29,4000(トゥモローランド〈ベルフィオーレ〉)

フィレンツェに居を構えるシルバー製品の名手、「ベルフィオーレ」のカフリンクス。ベースにはシルバー925が使われ、メイン部分は七宝焼き。グリーンとブルーを交差させた色使いが、モノトーンになりがちなフォーマルスタイルに華やかさを添える。

ちょっとした仕草で人目に触れるカフリンクスだが、印象は深く残りやすいもの。それぞれの個性を見極め、使い分けていただきたい。

※価格は2012年冬号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
鷲尾顕司 エディター
BY :
MEN'S Precious2012年冬号「必読!フォーマルの強化書」より
雑誌、新聞、アパレルブランドのカタログなど、メンズファッションの幅広いフィールドで手腕を発揮。フォーマルスタイルやカジュアルスタイル、名品アイテムなどすべてに精通した敏腕編集者である。
クレジット :
撮影/小池紀行(パイルドライバー) スタイリスト/梶谷早織 構成/鷲尾顕司(ViVid)