“はた迷惑だがご陽気な”悪魔、それがビートルジュース。脚本家マイケル・マクダウェルのアイディアを元にティム・バートン監督が1988年のコメディ映画『ビートルジュース』で描き出したキャラクターだ。その後TVのアニメーション・シリーズが作られたことからもわかるように、アメリカではかなりウケる題材。それも子供、あるいは子供っぽいアメリカ人に。今回のミュージカル版も、そんな印象。
それを象徴するかのように、ミュージカル『ビートルジュース』(Beetlejuice)が上演されているのは、先日まで、子供たちが大活躍するミュージカル『スクール・オブ・ロック』(School Of Rock)でにぎわっていたウインター・ガーデン劇場。しかも、今回ビートルジュースを演じているのは、その『スクール・オブ・ロック』の“はた迷惑だがご陽気な”教師をオリジナル・キャストで演じていたアレックス・ブライトマン。エグい印象が見事にダブる。その辺りのシャレっ気も込みで、ギャグ満載。気楽に盛り上がるという意味では今シーズン一番の作品かもしれない。
ビートルジュースを蘇生させる新鮮なスタッフ陣
そうした、すでに確かなイメージのある題材のミュージカル化にあたり、主要スタッフに新鮮な人材を起用しているのが『ビートルジュース』の面白いところ。
まず、楽曲が今シーズン『キング・コング』(King Kong)でブロードウェイ・デビューを果たしたエディ・パーフェクト。オーストラリアのシンガー・ソングライターにして役者でもあるという才人。地元ではコメディアンとしてTVでも人気があるらしい。その志向も含めての起用かとも思われ、実際、楽曲にギャグの面での成果が表れている。
脚本のスコット・ブラウン&アンソニー・キングは、これがブロードウェイ・デビューとなるが、日本でも翻訳上演された出演者2人のオフのミュージカル『グーテンバーグ!~ザ・ミュージカル!~』(Gutenberg! The Musical!)の楽曲・脚本作者として、すでに知られているコンビ。同作は、ミュージカル上演の資金集めを目的とした試演というヒネった設定のパロディ色濃い作風で、従来のミュージカル批評も満載。今作でも楽屋落ち的なセリフに、その片鱗がうかがえる。
そして演出がアレックス・ティンバーズ。ブロードウェイでの初演出は自身で脚本も書いた2010年の『ブラッディ・ブラッディ・アンドリュー・ジャクソン』(Bloody Bloody Andrew Jackson)。第7代合衆国大統領を野蛮な愚か者として描いた野心作で、パンク・ヴォードヴィルとでも呼びたいような演出が魅力的だった。その後、ミュージカルの演出としては、驚きの装置を使ったものの大コケした『ロッキー』(Rocky)が来て、この『ビートルジュース』になるが、『ロッキー』の前のミュージカル色濃いプレイ『ピーターと星の守護団』(Peter And The Starcatcher)で発揮したユニークな動きのアイディアは忘れがたい(共同演出)。今作でも、ブロードウェイ・デビューの振付家コナー・ギャラガーと組んで、視覚的に楽しい舞台を生み出している。この夏オープン予定の『ムーラン・ルージュ!』(Moulin Rouge!)も彼の仕事で楽しみ。
ちなみに、大いに活躍する装置のデザインは、『ハミルトン』(Hamilton)や『ディア・エヴァン・ハンセン』(Dear Evan Hansen)のデイヴィッド・コリンズが担当している。
観逃せない新たなスター、ソフィア・アン・カルーソの活躍
設定にいくつか変更点はあるが、物語の大枠は映画と同じ。突然の事故で亡くなって幽霊になったものの、現世に未練を残す若い夫婦。その夫婦が住んでいた町はずれの一軒家に引っ越してくる3人。母を亡くした喪失感から抜け出せない娘、その父、そして継母(になる女性)。その2組の家族の間で起こるゴタゴタを利用して、封じられている自分の力を解放させようと企むビートルジュース。そんな人々(と幽霊と悪魔)の思惑が交錯しながら話は進む。
役者で注目は、引っ越してきた家族の娘リディア役のソフィア・アン・カルーソ。今年7月で18歳になる若手だが、プロ・デビューは9歳で、いきなり『アニー』(Annie)の主演だったらしい。以降、パティ・デューク演出の『奇跡の人』(The Miracle Worker)、スティーヴン・フラハーティ(作曲)×リン・アーレンズ(作詞・脚本)×スーザン・ストロマン(演出)のミュージカル『リトル・ダンサー』(Little Dancer)、デイヴィッド・ボウイのミュージカル『ラザルス』(Lazarus)などの話題作に次々と出演。ブロードウェイには2016年のプレイ『ブラックバード』(Blackbird)でデビューしている。今作は、ビートルジュース役アレックス・ブライトマンとのダブル主演の扱いだが、明らかにドラマを引っ張っているのは彼女。新たなスターの誕生だ。
女優陣は他に、若夫婦の妻役のケリー・バトラー、継母(になる女性)役のレズリー・クリッツァーと、お茶目なクセ者が揃っていて楽しい。その辺もお観逃しなく。
上演日時および劇場は、Playbill(http://www.playbill.com/production/beetlejuice-winter-garden-theatre-2018-2019)でご覧ください。
『ビートルジュース』の公式サイトはこちら(http://beetlejuicebroadway.com/)。
- TEXT :
- 水口正裕 ミュージカル研究家
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」