歴史ある名店のひしめきあう東京・銀座にあって、1930年創業の「壹番館洋服店」は、紳士服の発展に多大なる貢献をしてきた店のひとつだ。政財界をはじめとした、多くの名士たちを魅了して来た礼服は、どれも歴史を感じさせる仕上がり。「壹番館洋服店」で、礼服の最高位スタイルを身に纏うことは一流の証といえる。 現在の当主、渡辺 新氏で3代目となる「壹番館洋服店」。創業まで遡ると、いかに同店が礼服づくりとともに歩んできたテーラーかがわかる。初代、渡邊 實氏が「日本一のテーラーになろう」と決心したのは、何を隠そう修業時代に目にしたフロックコートなのである。
2代目の明治氏、そして新氏と受け継がれていくなかで、多くの名士たちが「壹番館洋服店」に通った。なかでも、大倉財閥2代目総帥の大倉喜七郎氏の存在は大きかった。
昭和30年代、東京のテーラー有志を集めて「じゃがいも会」なる服装文化を推進する交流会を結成。後にじゃがいも会からタキシード会に発展し、その中心で活躍したのが實氏だ。それまで慣れ親しんできたモーニングだけでなく、タキシードへとフォーマルウエアが広がり、よき助言者となったのが、本場英国のタキシードを身につけていた大倉喜七郎氏だったのである。
新氏は、まずフォーマルウエアは、歴史的な文脈を踏まえて誂えるのが大切だと話す。
「時代を経て、フロックコートからすその短いスーツになったという視点です。コートの長さを基準にして礼服をとらえなければ、今の習慣では短い着丈の礼服になります」
つまりこうだ。礼服には礼服のバランスがあり、歴史的なルールから逸脱しないことが、かしこまった礼服を着ることの楽しみにもつながる。基本のスタイルを踏まえたうえで、伝統的な生地を選び、礼服を仕立てるのが「壹番館洋服店」の役目であり、極意でもある。
「礼装に派手さは必要ありません。控えめになればなるほど、やはり格好いいものです」
正統的な礼服を今も大切にしているのが「壹番館洋服店」の矜持だ。
歴代の名士が着用していた「壹番館洋服店」のスーツは、体になじむ極上のスタイル。1階の入り口を入ってすぐの所に裁断台があり、2階がオーダーサロン。常時5000種類の生地をそろえる、和洋折衷のエキゾチックな内観が魅力。
いかがだろう、礼服は、自らのステータスを語る上でおろそかにできないもののひとつ。冠婚葬祭をすべてこの1着で済ませる、などどというものではない。また、若年層であっても相応の礼服を身につけることは、上位の者たちへの礼儀でもある。それゆえ、様々な催しが増える秋冬に向けて、、今から用意しておくべきものなのである。
■SHOP DATA
壹番館洋服店
住所:東京都中央区銀座5-3-12 壹番館ビル
TEL:03・3571・0021
http://www.ichibankan.com
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2012年冬号「必読!フォーマルの強化書」より
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- クレジット :
- 撮影/篠原宏明 構成・文/矢部克已