高齢者にこそ、キャッシュレス生活が必要だと思うのです
このところ相次いで報道されている、いわゆる「オレオレ詐欺」に代表される特殊詐欺。なかでも新たな手口として、事前にターゲット宅に電話を入れて、現金の有無や在宅時間を探る「アポ電詐欺」というものがあります。
この事件では、80歳の女性が殺害される最悪の事態にまで発展してしまいました。
とにかくやり口が巧妙で、しつこいのです。息子を名乗って電話をかけ、「会社の金を使い込んでしまった」などと「親」に相談をもちかけ、「なんとか百万円でも用立てて欲しい」と半ば泣き落としをしながらも、しつこく「何時に居る?」「ひとりで居る?」と単独で在宅していることを確認。それから現金を取りに行くという手口です。
でもこうした家族を名乗るのは序の口で、最近では「アポ電詐欺」を取り締まる警察を名乗ったり、税金の還付があるからと役所の職員を名乗ったりと、手口はさらに巧妙になっています。ほんとに年老いた親の親心につけ込む卑劣な犯罪行為です。
そんな報道をしていてあらためて気がついたのは、なんと自宅に多額の現金を置いている高齢者の多いことか、ということです。被害額が約二千万円という事例もあり、やはり高齢の方は「銀行に預けても金利が低い」し、ならば手元に置いておいた方が安心と思われるようです。
確かにこれまでの日本は、現金至上主義といわれるほど、キャッシュが一番でした。現金以外は受け取らないという方針のお店がけっこうありましたし、今でも小さな昔ながらの個人商店などではクレジットカードはダメというところもあります。
でも、「自宅で高額な現金を奪われる被害者」になる高齢者を見ていると、やはり高齢の方ほどそろそろキャッシュレスな生活に切り替えるべきときがきたのかなと思います。
クレジットカードが支払いの場面に登場してきたときは、なんて便利なんだろうと感じましたが、後払い方式のクレジットカードには、その後に銀行口座から引かれるときの残高を心配する必要がありました。
また、現金払いではないことをいいことに残高を上回る買い物をして、極端な例では自己破産にまで追いやられるケースが(特にカード先進国のアメリカで)社会問題化したこともありました。
また、少額の買い物には手数料がお店側に発生するクレジットカードを使えないこともあり、やはりクレジットカードは比較的高額商品を購入する際に使うことが一般的でした。
けれども今、国をあげてキャッシュレス化を推進しているのは、少額でも使える先払い方式のパスやスマートフォンにコードを読み込ませて支払うもの、さらには銀行の口座からその場で引き落とされるデビットカードの類です。
なんといっても利点は、その場で金銭の細かなやり取りがない分人手が省けること、会計のスピードが上がること、さらにデビットカードなどはその場で口座の残高まで確認できるので、金銭管理が簡単になることです。
バーコードやQRコードを読み取る方式では、お店側もクレジットカードの読み取り機のような高価な機械を設置せずに済むので、小さな商店でも比較的無理なく導入できることもあげられます。
逆に難点はスマートフォンなどの端末機器を持たない方はどうするのかということです。
「アプリという単語を聞いただけで逃げ出したくなる」という高齢の知人が私の周囲にはまだまだ存在します。彼女ら彼らにとって、スマートフォンをお財布代わりにもつような気軽さを味わえる“端末”が必要です。それで初めてお店も消費者もスムーズにキャッシュレスに移行できるようになるのではないでしょうか。
今はまだ人手不足解消の意味合いが濃いキャッシュレス化ですが、高齢の方が多額の現金を自宅にしまい込まなくて済むような、「安心を担保できるキャッシュレス化」をぜひ実現して欲しいと思います。
※本記事は2019年5月7日時点での情報です。
- TEXT :
- 安藤優子さん キャスター・ジャーナリスト
- BY :
- 『Precious6月号』小学館、2019年
- EDIT :
- 本庄真穂