英国人は、英国王室御用達に対し、少なくとも外国人である私たちほどには、特別な意識を向けていない。王室御用達であるにもかかわらず、王家の紋章を冠するロイヤルワラント(御用達認定証)をあえて表示しないブランドもいくつかある。
英国王室御用達は贅沢品から日用品まで!
200年ロイヤルワラントホルダーのフローリス
これは今に始まった現象ではない。なぜならば、英国王室御用達に認定された品やサービスは、王室メンバーの個人的な好み、という一面を持つからである。ロイヤルワラントは、「Byappointment to ○○」=「○○に選ばれた」という文句で始まるが、○○にあてはまるのは現在3人、すなわちエリザベス女王と、その夫君エディンバラ公、そしてチャールズ皇太子。女王陛下の御用達紋を見ても、一般の英国人は、ひとりの英国女性としての女王の好みを知るということはあるとしても、じゃあ自分も使ってみたい、という発想はあまり抱かない。女王は女王、自分は自分、それが英国人気質である。
だからといって、王室御用達品と国民の距離が遠いのかといえばそうではなく、むしろその逆である。ロイヤルワラントが与えられるのは、特別感のある贅沢品ばかりではない。洗剤やトイレットペーパー、調味料にいたる日用品にも多く見つけられる。王室御用達品があまりにも身近にあふれているので、いちいち別格視していたらキリがないのかもしれない。サプリメント、歯磨きペースト、園芸用の土にいたるまで御用達品があることを知れば、現在の認定対象が軽く800を超えていることにも納得がいく。贅沢品から日用品まで。威厳と親近感を兼ね備える英王室の性格の表れでもある。
王室のメンバーそれぞれから認定証が与えられることからもわかるように、王室御用達制度は、元来、君主への私的な商品提供やサービスに対する感謝の印として始まった。国家への公的な貢献に対する褒美としては、勲章がある。勲章はあげられないけど、感謝を表し、公認の栄誉を与えたい。その気持ちの表れが御用達紋というわけである。嗜好が変わり、代が変わればワラントは一新されるとはいえ、少なくともワラントを保持している間は、クオリティの高さを保証される。
やんごとなき公的個人による、個人的好みも入る柔軟な鑑識眼のもと、高い品質を是認され、次の時代に引き継がれていくべきと判断されたものが、どこか人間的に、しかし厳しい基準をもとに、選ばれていく。選ばれても認定の申請は義務ではないし、表示をつけるのもつけないのも業者の自由。この厳格ながら風通しのいいプレステージ授与システムが、英王室御用達のシステムというわけである。
250年ホルダーの王室ワイン
その結果、継承されてきたものは、たとえば、サヴィル・ロウの熟練職人のクラフツマンシップであり、木を育てるところから始まるという長い時間をかけたブリッグの傘づくりの伝統技術であり、バーバリーのギャバディンのような良質にして機能的な伝統素材であり、ジャーミンストリートの紳士小物の豊富なアーカイブであり、購入後も面倒を見続けてくれるジョン・ロブの靴の誇り高いアフターケアのシステムである。
王族はヘンリー・プールがお好き?
大量生産大量消費の時代の波に流されることなく、現在もなお、そうした伝統が新鮮さを失うことなく生き続けている。伝統とは、古いものを受け継ぐことではなく、よいと信じるものを時代へ引き渡していくこと、という発想を根底に持つ英王室御用達システムの恩恵にほかならない。
※2011年春号取材時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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