BMWの2シーターオープンスポーツカー、Z4。今回はスチールルーフではなく、電動開閉式ソフトトップで登場だが、話題の中心はやはり、復活したトヨタ・スープラと基本部分を同じくする共同開発車である点。生産を手がけるのは、1900年代初頭から現在に至るまで100年以上も自動車製造を手がけているオーストリアの「マグナ・シュタイヤー」という自動車製造の会社である。自社ブランドを持ってはいないが、実はここから生み出されるクルマにはメルセデス・ベンツGクラス、BMW・5シリーズ、ジャガー・Eペイス(SUV)&Iペイス(EV)など多数。今回、Z4とスープラもそこに加わることになるのだ。

やっぱり幌が好き

2座でロングノーズの古典的なプロポーションは、スポーツカー好きの心をくすぐる。
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 さて、Z4のメディア向け試乗会が行われたのは、スープラの試乗会より1か月以上前のこと。体の中にはまだスープラの印象は一切入っていなかったため、純粋にZ4のことだけを考えて乗ることができた。先代モデル、つまり2代目のZ4はスチールルーフだったが、今回の3代目は初代と同じソフトトップ。これだけでもうれしかった。やはりオープンカーはソフトトップのほうが断然エレガントだ。遮音性や耐候性の問題はあるかもしれないが、オープンカーはそんな画一的な効率化が似合わない、ある意味非効率がもっとも似合う車だと思うから、このソフトトップへの回帰は歓迎である。そしてもちろんソフトトップによる40kgほどの軽量化は、重心を下げ、走りにも大きく影響してくるのである。

 試乗車として用意されていたのは3リッター・ストレート6のターボエンジンを積んだトップグレードの、「M40i」。スープラの最上級モデル、「RZ」と同じポジションにあるのだが、当然この時点でそんなことを考える事はなかった。試乗コースはこのクルマにもっともふさわしい箱根のワインディング。エンジンをスタートさせ、コースへと飛び出していくと、これが何ともジェントリイで荒っぽいところがほとんどない。

紳士的な速さを堪能!

BMWを所有したことのある方ならご存知の、センターコンソールをドライバー側にやや傾けたレイアウトは健在。
BMWを所有したことのある方ならご存知の、センターコンソールをドライバー側にやや傾けたレイアウトは健在。

 その一方でホイールベースが短めの2,470㎜に抑えられているために、コーナーでのステアリング操作にとてもクイックに反応してノーズの向きが変わっていく。スビリティ性能が高いために路面とのコンタクトが実に安定していて、切れ味がいい。少しばかり飛ばしたところで破綻する気がしないのである。おまけにドライバーの直後に後輪があるためフロントの動きや後輪の挙動の変化が掴みやすく、スポーツ走行のストレスが少ない。

 エンジンのパワーの出方もジェントリイで、切れ味のいいコーナリングと爽やかなオープンエアの走りと、とてもよく馴染む。アクセルを踏み込んだらいきなりトルクが立ち上がるというものではなく、走り出しからゆったりとスムーズに、しかし強力に盛り上がってくるトルク感は、さすがストレート6の味わいだ。4気筒エンジンにありがちなザラザラとした感じとは明らかに違う。このエンジンにスムーズさが身上といえる8速ATが組み合わされるのだから、その上品さもうなずけるというもの。

 こうしたZ4ならではの味付けによって、速さはあるが乱暴なところがほとんどないという独特の味わいが完成している。もちろんソフトトップになったからといって静粛性が大幅に落ちているようなことはなく、車内では会話も音楽も普通に楽しむことができる。ちなみに日本で発売されるZ4は当面、このM40iと2リッター4気筒ターボ(145kW)の「sDrive20i」という2タイプだけとなる。

「あのクルマ」と違うところ

写真のシートはM40iに標準装備されるMスポーツタイプ。ホールド性は抜群。
写真のシートはM40iに標準装備されるMスポーツタイプ。ホールド性は抜群。
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 ワインディングを楽しんだところでクルマを止め、フロントマスクに目をやる。新型Z4で初めて採用された、メッシュパターンのキドニーグリルが表情を引き締めている。M40iは走りもジェントリイだが、佇まいもなかなかのものである。初代の強烈な印象はもはや感じられないが、ワイド感のある安定したフォルムと都会的なデザインはとてもバランスよく溶け合っていて、オフィス街でも夜の首都高速でもピタリとはまる印象である。

 正直、スープラを目の前で確認する以前からそう感じていた。それが実際にスープラに触れ、試乗テストを行ってみたらさらにその思いはより強くなった。Z4はあくまでも優雅さを備えたオープンカーであり、都会をさりげなく徘徊することにも対応できる選択肢となっていたのだ。

 一方、スープラはグイグイとコーナーに切り込んでいく、純粋にスポーツ走行と個性的なスタイルを楽しむ存在であるように感じた。ひょっとするとポルシェ・ボクスターと張り合うのは、むしろスープラのほうではないかとさえ思ってしまうほどである。

<BMW Z4 M40i>
ボディサイズ:全長4,335×全幅1,865×全高1,305㎜
車重:1,570kg
駆動方式:FR
トランスミッション:8速AT
直列6気筒DOHCターボ 2,997cc
最高出力:250kW(340PS)/5,000rpm
最大トルク:500Nm/1,600~4,500rpm
価格:¥8,350,000

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。