今年1月の北米国際自動車ショーで世界初公開されたトヨタ・GRスープラといえば、2002年の生産終了以来、17年半ぶりに復活したトヨタの伝統銘柄だ。SUV全盛にあって、純粋なスポーツクーペの復活となれば話題性も高い。さらにトヨタのレース活動を行うワークスにして、ストリート向けスポーツモデルの開発も手がける「TOYOTA GAZOO Racing=GR」のブランド名を冠して、世界に向けて販売するグローバルモデル。スポーツカー好きには久々に興奮度の上がるモデルの登場となる。

従来の国産スポーツカーとは明らかに違う

ロングノーズのプロポーションはZ4と同じでも、より複雑な面構成。
ロングノーズのプロポーションはZ4と同じでも、より複雑な面構成。
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幅が短く、ぎゅっと上を向くダックテールスポイラーが特徴。
幅が短く、ぎゅっと上を向くダックテールスポイラーが特徴。

 今回のGR スープラはBMWとの共同開発であり、ロードスターとして人気のZ4と兄弟車であることも重要なポイント。両車は90%の部品を共有し、生産はオーストリアにある「マグナ・シュタイヤー」の工場で混流生産されている。そのうえで内外のデザイン、シート、足回りなどセッティングといった味付け、マネジメントの部分を各社なりに行っている。実はこの味付けによって、クルマとしての風味がけっこう違ってくるから面白いのだが、走り出す前に3種類あるエンジン構成を少し整理しておこう。

 もっとも強力な3リッター6気筒ターボの250kWを最上級グレード「RZ」に搭載。中間グレードの「SZ-R」には2リッター4気筒ターボの190kWが載る。そしてベースモデルである「SZ」には2リッター4気筒ターボを与えているが、こちらは145kWと少々大人しいスペック。ちなみにエンジン構成は本国仕様のZ4と同じだが、日本に導入されるZ4のラインアップには、中間の190kWモデルはない。

 まずは6気筒ターボ250kWのRZに乗り込んで走り出した。インテリアのデザインはZ4と違う。GR スープラは水平ラインを基調としたインパネでスッキリとした印象。しかし、いざエンジンをスタートさせ、ATのシフトレバーを操作したりコンソールにある操作系のスイッチ類などを動かす感覚は、Z4と変わらない。ウインカーレバーですら、ステアリングコラムの左側に装備されているのだ。

 ところがアクセル踏み込んで走り出してみると、「なんだ、この乗り心地の良さとスムーズさは!」という気持ちでいっぱいになった。国産スポーツカーにありがちな、足回りガチガチ、アクセル踏んだらいきなりトルクが立ち上がり、ドッカ~ンという加速感を少しばかり覚悟していたのだが、完全なる肩すかしである。その加速感、ブレーキのジンワリと、しかし確実な聞き味、そしてしなやかなコーナリングは何とも紳士的。それでも気が付くと相当な速さに達している。

3つのグレードを乗り比べ

コクピット前面のデザインはすっきりとした水平基調。走行中の姿勢変化を掴みやすくするためでもあるという。
コクピット前面のデザインはすっきりとした水平基調。走行中の姿勢変化を掴みやすくするためでもあるという。
スティックタイプのシフトレバーにBMWっぽさを見て取れる。
スティックタイプのシフトレバーにBMWっぽさを見て取れる。

 ワインディングに入れば、このクルマの売りでもある電子制御の足回りがいい味を出してくれる。確かにコーナリングの初期はどこか人工的に、クイッと曲がり始めるのだが、その味付けは決して悪くないし、そこから先の味付けはマイルドで自然な感じのままノーズの向きが変わり、安定してコーナーを駆け抜ける。パワーのバランスと足回りのバランスが実にうまくいっている味付けである。これはZ4にみられる、BMW特有の洗練された切れ味の良さとは少しばかり違ったもの。だが、トヨタ流の和風味付けも決して嫌いではない。さらに驚いたのはごくごく普通の市街地や高速でのゆったり走行でも、剛性感の高いボディとサスのセッティングによる、良好な乗り心地地。「優れたスポーツカーほど乗り心地がいい」。これは経験から得たひとつの定義なのだが、GR スープラの6気筒モデルはそれに合致している走りである。

 次に試したのは廉価版の「SZ」で、4気筒ターボの145kW。こちらには電子制御はなく、おまけに軽量な4気筒エンジンを搭載しているのだが、走り全体が軽い印象である。6気筒モデルのようなしっとり感はないし、少しばかりラフな印象を受ける。が、エンジンもステアリングの感触もサスペンションのセッティングも軽快さがある。アクセルワークもステアリング操作もレスポンスよく反応し、ノーズも軽いので実に楽しい。また、そのコントロール性はドライバーの技量しだいであり、自分で操る心地よさを楽しめる。そして最後に試したのが、中間的な味付けの190kWのSZ-R。こちらは軽さとパワフル感が前面に出た印象であるが、乗り心地は他の2台と同じでまったく乱暴なところがない。

GR スープラのアクの強いデザインに惹かれる

荷室の容量は290リッター。深さは最大で387㎜。旅の荷物はソフトケースに入れて積むのが賢明だ。
荷室の容量は290リッター。深さは最大で387㎜。旅の荷物はソフトケースに入れて積むのが賢明だ。
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 走っていて感じたのだが、ドライバーの目線の中にフロントフェンダーの膨らみがはっきりと見えるし、バックミラーにはリアフェンダーのボリューム感のあるラインが写り込む。この仕上げというかデザイン上の演出はスポーツカーのボディ感覚を把握するのにとても役に立つし、景色としても悪くない。トヨタもなかなかやるじゃないか、という印象だ。個人的には一番お安いSZで十分に楽しめるという結論である。

 そしてもう一点、よくいわれるのがZ4とどちらがお得か? とか、どちらが魅力的か?ということだが、はっきりいってその比較はあまり意味が無いように思えてきた。かたやBMWというプレミアムブランドのロードスターである。GR スープラはトヨタを代表するスポーツクーペであり、Z4とはまったく違うポジションにあるから、迷いようがない。さらに言えば、好き嫌いは別として和風味の効いたGR スープラのスタイルと、いかにもドイツ的で硬質、優等生的なZ4のそれとはまったく違った存在感をもっていて、好みははっきりと分かれると思う。

 たとえばVWグループの兄弟車という間柄であるアウディ・Q7とポルシェ・カイエン、VW・トゥアレグだが、これらは中身を共通とするが味付けもブランドイメージも違うクルマとして認知されている。もちろん価格帯も違うから、それほど真剣に悩む人などいないように思う。GR スープラとZ4の関係もそれと同じようなものであり、まぁ、強いていえばオープンカーが欲しければZ4があるよ、ということだと思う。個人的にはGR スープラのアクの強い和風スタイルにちょっと惹かれるのだ。

<トヨタ・GR スープラRZ>
ボディサイズ:全長4,380×全幅1,865×全高1,290㎜
車重:1,520kg
駆動方式:FR
トランスミッション:8速AT
直列6気筒DOHCターボ 2,997cc
最高出力:250kW(340PS)/5,000rpm
最大トルク:500Nm/1,600~4,500rpm
価格:¥6,900,000(税込)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。