ミュージシャン、サラリーマンを経てスナックのマスターに
台東区上野。上野駅と湯島駅の間に位置する上野広小路は、江戸時代から商店や料理屋まで数多の店が並び、盛り場として発展してきた。今も数多くの飲食店が軒を連ね、夜の方が元気な街だ。今晩訪れる『おゃじのお店』も、煌々と灯るサインが並ぶビルにある。
2階にある店の扉を開く。店内はカウンター9席のみのアットホームな空間だ。おっと、今宵をともにする大西さんが先に着いている。
こちらの存在に気づいた平野マスターが「ビールでいいの?」と、さっと生ビールを出してくれた。このさり気なさが気楽だ。腰を落ち着け、大西さんと乾杯。
内装の雰囲気から20〜30年ほどの歴史があるのかと思いきや、オープンして4年ほどだという。
「脱サラして店を始めたの。会社員時代、この辺でよく飲んでたからここに店を出しただけ」
とマスターは飄々と語る。さらに話を聞いてみると、サラリーマンの前はフルバンドでトランペットを吹いていたミュージシャンだったそうだ。そしてミュージシャン時代の20代後半の頃にも、高円寺でスナックをしていたという。
「その時はバンドをしながら、夜はスナック。二足のわらじだったけど、楽しかったよ」
高円寺の時代も、今と同じカウンターだけのスタイルだったという。
「親父一人の店だから、あんまり広いとお客さん全員に目を配れないじゃない」
照れ隠しなのか、どこかそっけなく振る舞っているがマスターにはさりげない気遣いがある。それは何度も口にした「庶民の味方」という言葉を、料金に反映させている部分でもわかる。料金も飲み、食べ、歌い放題で2時間5,000円と良心的な価格に設定しており、まさに庶民の味方だ。
カラオケで93点以上叩き出すと……
マスターがミュージシャンだったことがよくわかるのがカラオケだ。ひとまず大西さんが十八番であるマイリトルラバーの『Hello, Again 〜昔からある場所〜』を選曲。
可愛らしい歌声で大西さんが歌っていると、
「もう少しキーを上げてもいいんじゃない?」とのアドバイス。それに従い、音を高くすると大西さんの声によりマッチしている。
マスターがミュージシャンだったせいか、店には歌が好きな人が多く集まる。彼らが盛り上がるよう93点以上出すとボトルを1本プレゼントするサービスを行っているが、これまでにクリアできたのは2名だという。
それならば、と93点を目標に大西さんと何度もチャレンジする。都度マスターが曲のキーを合わせてくれるものの、なかなか93点以上は出ない。
もうレパートリーも尽きたと思うと同時に、空腹も感じる。歌うばかりでなく、何か口にしなければ。
後編では、料理は趣味みたいなものと話すマスター手作りのフードを楽しもう。
【おゃじのお店】
問い合わせ先
- おゃじのお店 TEL:090-4060-8165
- 住所:東京都台東区上野2-4-1 エクセル上野ビル2F
営業時間:19:00〜24:00
定休日:大晦日、正月
メニュー:平日飲み・食べ・歌い放題2時間5,000円、日曜・祝日飲み・食べ・歌い放題1時間3,000円、ワインボトル3,000円〜
- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター
- PHOTO :
- 小倉雄一郎