ボルボ・XC40が導入されたときに、日本ではディーゼルモデルの設定がないと聞き、少しばかりがっかりした。ボルボは日本導入モデルの、特にコンパクトな日本導入モデルにはディーゼルを設定していない。確かにボルボは2017年に「ディーゼルの開発から撤退」、そして「全車電動化」という近未来戦略を宣言しているから、この戦略も理解できるが、一方で60シリーズ以上には、しっかりと今もディーゼルの設定がある。

 当然のように一番大きなXC90には本国でデビュー当時からディーゼルが設定されているし、一番の売れ筋モデルである。だがしかし、XC90にはこれまではPHEVも含めてガソリンモデルだけが日本に導入されてきていて、今回のD5と呼ばれるディーゼルモデルは初上陸となる。XC90が日本デビューを果たしたのが2016年だから、3年経過してようやくやって来た「待望の1台」だ。

クレバーな佇まいとディーゼルの静けさ

流行りのクーぺ風SUVとは対極にある、スクエアなスタイリングが特徴。押し出しの強さはあるが、嫌味がないのはボルボならでは。
流行りのクーぺ風SUVとは対極にある、スクエアなスタイリングが特徴。押し出しの強さはあるが、嫌味がないのはボルボならでは。
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XC90は3列シートを備える。3列目はきれいに床下へ収納でき、広大な荷室にスーツケースが余裕で積める。
XC90は3列シートを備える。3列目はきれいに床下へ収納でき、広大な荷室にスーツケースが余裕で積める。

 ボルボのディーゼルといえば、D4と呼ばれる190馬力(140KW)・最大トルク400Nm(40.8kgm)のエンジンが知られた存在。一方、XC90に搭載されるD5は235馬力(173kw)、480Nm(48.9kgm)と、同じ2リッターでありながらハイチューンによって実力はかなり向上し、2,090kgというボルボ最重量モデルにふさわしいパフォーマンスを備えたエンジンである。

 さらに楽しみなのは、ボルボ自慢のモジュラー型プラットフォーム「SPA」との相性。デビュー当初、新しいプラットフォームは走りへの効果が絶大で、軽量化と前後重量バランスの改善により、快適さを維持しながらドライビングプレジャーを向上させる、と相当な自信をみせていた。そのSPAを初採用したXC90は、新世代ボルボの皮切りとなり、現在の世界的好調のきっかけを作ったわけだから、当然、ディーゼルとの相性はとても気になるポイントとなる。

 そんなことを考えながら、XC90に向かった。相変わらずソフトな印象で、大きい割には威圧感が少ない。個人的にはこの手のクレバーな佇まいこそボルボの大きな魅力だと思っている。ドライバーシートに座り、エンジンをスタートさせる。そして、窓を開けてアイドリングを聴いてみる。さすがにガソリンエンジンのような静々とした感じではない。

 このD5エンジンは2リッターディーゼルとして、かなりのハイチューンが施されているため、それなりのエンジン音となってしまうが、だからといって早朝の住宅街で周囲への配慮が必要なほどでもない。それを確認したところで窓を閉めると、エンジン音はほとんど気にならなくなる。高速巡航時などエンジン回転数が2,000回転を下回る状態では実に快適であり、気になるバイブレーションもない。プレミアムSUVならではクルージングを楽しみながら移動できるのである。

プレミアムSUVの名に恥じない仕上がり

スイッチを減らし、多くの操作をタッチパネルモニターに集約。上品なインテリアだ。
スイッチを減らし、多くの操作をタッチパネルモニターに集約。上品なインテリアだ。
シートの座り心地は上々。高い視点から眺める景色は、SUV乗りの特権だ。
シートの座り心地は上々。高い視点から眺める景色は、SUV乗りの特権だ。
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 今回のディーゼルエンジンでもっとも気に入ったのは、箱根周辺のワインディングを走ったときだ。アクセルを踏み始めた、まさに発進の瞬間から実にスムーズにスゥ~と出て巨体が動き出す。アクセル操作とその動きにわずかなズレも遅れもなく、スルスルッといった具合だ。微妙なアクセルワークから、さらに少しばかり右足に力を込めて踏み込めば、ターボの過給ラグなどをほとんど感じさせることなく、思いのままの加速を実現していくのだ。

 そのレスポンスの良さ、リニアな反応があるおかげでスポーティな走りも不満なくこなしてくれる。そして何より、XC90という大型SUVのボディをひと回り、いやひょっとするとふた回りほど小さく感じさせてくれるほどの効果があるのだ。そのフィーリングは単純にディーゼルならではの大トルクを利用して加速する、ということではなく、ターボラグを感じさせないようにして乗員のストレス、不快感をできる限り軽減した、という味付け。タービンの回転立ち上がりをアシストする「パワーパルス」なる機構が装備されているおかげもあるのだが、味付けの良さは評価したい。

 さらに、コーナリングで見せたフラットで安定感のある乗り心地は、高速道路でも市街地の細かな動きの際でも確実に維持されるから、なんともおおらかな気持ちになれる。とにかく上下動をストローク感たっぷりに吸収して、スッと揺れを落ち着かせてくれる乗り心地は、「いいなぁ」と掛け値抜きにいえる。この懐の深い乗り味と楚々とした外観、ボルボの持つクレバーさには何ともお似合いである。

 もちろん、こうしてみてくると新しいプラットフォームとハイチューンのディーゼルエンジンの相性も極めてよく、乗り味の面でも静粛性の面でも、プレミアムの名に恥じない仕上がりになっていることがはっきりした。マイルドハイブリッドシステム搭載車の展開などボルボとしての電動化プランの近未来予想図は理解したうえで、でもやっぱりディーゼルを作り続けるのであれば、日本導入もよろしくお願いしますよ、とやっぱりいいたくなった。

<ボルボ・XC90 D5 AWD Momentum>
全長×全幅×全高:4,950×1,960×1,775㎜
車重:2,090kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
直列4気筒DOHCターボ 1,968cc
最高出力:173kw(235PS/4,000rpm)
最大トルク:480Nm/1,750~2,250rpm
価格:¥7,953,704(税抜)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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