レモネード・メーカーとして富を築いたルフェーヴル氏が創業した「ラペルーズ」は長らく忘れられていたが、LVMHのCEOベルナール・アルノー氏の子息で同グループの複数の部門で責任者を務めるアントワーヌ・アルノー氏と香水で知られるジャン・パトゥの子孫であるバンジャマン・パトゥ氏が買収して生まれ変わった。

場所はセーヌ川沿いのグラン・オーギュスタン岸。

中世、この辺りにグラン・オーギュスタン修道院があったのだが、フランス革命の際に完全に破壊され、いまは地名にだけ残っている。フランス革命は1789年だったので、「ラペルーズ」はその少し前に誕生したことになる。

1766年創業の老舗レストラン「ラペルーズ」

「ラペルーズ」の壁にはイニシャルの「L」入り。©️Matthieu Salvaing
「ラペルーズ」の壁にはイニシャルの「L」入り。©️Matthieu Salvaing
まず1階のバーでアペロを取ってからディナーに向かう。
まず1階のバーでアペロを取ってからディナーに向かう。

この店には、デュマ、ゾラ、モーパッサン、ボードレール、プルースト、ヘミングウエイ、オーソン・ウエルズなど文豪が通い、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンが食事をし、ウッディ・アレンは映画『ミッドナイト・イン・パリ』(2012年公開)の一場面をここで撮影した。そんなレストランの歴史を物語るように、レストランの廊下には常連客だった有名人の写真が飾られている。

歴史を物語る常連たちの写真

歴代の常連客たちの写真が多数飾られた廊下には、『悪の華』で有名な詩人のシャルル・ボードレール左下(1821-1867年)や『モンテクリスト伯』などを著し、売れっ子作家だったアレキサンドル・デュマ右下(1802-1870年)といった写真が飾られている。
歴代の常連客たちの写真が多数飾られた廊下には、『悪の華』で有名な詩人のシャルル・ボードレール左下(1821-1867年)や『モンテクリスト伯』などを著し、売れっ子作家だったアレキサンドル・デュマ右下(1802-1870年)といった写真が飾られている。

デュマは美食家で「趣味は食べること」。『デュマの大料理辞典』を執筆するほどであったが、彼が常連客だったということは当時も「ラペルーズ」はグルメが好む店だったことがわかる。

インテリアを担当したのは、売れっ子デザイナーのローラ・ゴンザレス。そして、テーブルコーディネートはコーデリア・ド・カステラーヌ。カステラーヌ家は趣味が良い一族として有名だ。当代いちのダンディとして知られたボニ・ド・カステラーヌこと、カステラーヌ侯爵を輩出している。

写真左/貴族的なテーブルコーディネートを披露するコーデリア・ド・カステラーヌ。写真右/手がけるホテルやレストランはどれも話題になるローラ・ゴンザレス。©️Matthieu Salvaing
写真左/貴族的なテーブルコーディネートを披露するコーデリア・ド・カステラーヌ。写真右/手がけるホテルやレストランはどれも話題になるローラ・ゴンザレス。©️Matthieu Salvaing

「ラ・ベル・オテロ」、「レザムール」など、見事なインテリアを持つ7つの個室があるのがこのレストランの建築の特徴だ。

シノワズリー(中国趣味)のインテリアの「サロン・シノワ」。©️Matthieu Salvaing
シノワズリー(中国趣味)のインテリアの「サロン・シノワ」。©️Matthieu Salvaing
セーヌ川に面した「サロン・ラペルーズ」。©️Matthieu Salvaing
セーヌ川に面した「サロン・ラペルーズ」。©️Matthieu Salvaing
四季をテーマにしたインテリアの「サロン・デ・キャトル・セゾン」。©️Matthieu Salvaing
四季をテーマにしたインテリアの「サロン・デ・キャトル・セゾン」。©️Matthieu Salvaing

個室はイベントの時のみ利用し、大きなホールで通常のレストラン営業を行うが、一部、見ることができるようになっている。

ホールの窓からはセーヌ川が見える。
ホールの窓からはセーヌ川が見える。
実際にディナーを取るのは個室ではなくて大きいホール。
実際にディナーを取るのは個室ではなくて大きいホール。

料理を担うシェフは、ミシュランの2つ星シェフのジャン=ピエール・ヴィガト。クラシックなレシピをリスペクトしたという料理の数々を披露する。場所柄ゆえ、考えていたのよりもずっと伝統寄りの高級ブルジョワ料理というおもむきだ。

写真上/ワインはオーガニックのドメーヌ・デザルドワジエールの「シスト」2017をグラスで。写真左下/海水の塩味が牡蠣を際立たせる繊細な前菜「牡蠣と甲殻類の海水のジュレ」€44。写真右下/これぞ定番という味の、根セロリを添えたメインディッシュ「リ・ド・ヴォー(子牛の胸腺)のソテー」。€55
写真上/ワインはオーガニックのドメーヌ・デザルドワジエールの「シスト」2017をグラスで。写真左下/海水の塩味が牡蠣を際立たせる繊細な前菜「牡蠣と甲殻類の海水のジュレ」€44。写真右下/これぞ定番という味の、根セロリを添えたメインディッシュ「リ・ド・ヴォー(子牛の胸腺)のソテー」。€55

パティスリーは、プラザ・アテネのエグゼクティブ・パティシエなどを務めたクリストフ・ミシャラク。彼はデザインコンシャスなスイーツで知られているが、「ラペルーズ」のデザートは見た目もやはりクラシック。だが、口当たりは現代人に合わせて軽く仕上げている。

素朴なキャラメルとパッション・フルーツのデザート「ミルフォイユ・グラセ」€20
素朴なキャラメルとパッション・フルーツのデザート「ミルフォイユ・グラセ」€20

2020年春、旧海軍省(オテル・ド・ラ・マリン)内に「ラペルーズ・カフェ」をオープンする計画で、このブランドを冠した様々なプロダクトを発売予定だ。

伝統や歴史のテーマパークのような「ラペルーズ」は、歴史はブランディングに重要なアイデンティティであり資産だと物語っている。真似することができない本物の老舗を進化させる試みに今後も注目したい。

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この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は料理と健康とワイン。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。
公式サイト:Tokyo Now