歌い終えて喉がカラカラになった彼女は、ドリンクをオーダーする。ペルーではカイピリーニャがよく飲まれているせいか、普段よく飲むお酒は甘めだという。甘いお酒ならば、とマチエママが野菜ジュースの焼酎割りを勧めてくれた。
知人のいない京成立石に店をオープン
マチエママは元美容師。老後の小遣い稼ぎのため、美容師をしながら『サファイヤ』を始めたのは40年前だったという。
「スナックをしていることを美容院のお客さんに知られたくなくて、縁もゆかりもない街でお店をしようと思ったんです。たまたま京成立石で理想的な物件を見つけたから開店して今に至ります。だからもともと京成立石は全く知らない土地でした」
何も知らないながら、飲兵衛の聖地に店を出す嗅覚たるや。しかし長く店を続けられている理由は、この地に飲み助が多いからだけではない。
「水商売未経験でお店を始めましたから、真心でお客さんと接するしかありませんでした。もしかしたら、そういう駆け引きのない付き合いがお客さんに受けたのかもしれないですね」
昼の営業を開始したのは15年ほど前。それも長く勤めているスタッフが、昼間も働けるようにするための配慮だったという。
相手を思いやる気持ちと、『サファイヤ』と並行して56年もの美容師人生も勤め上げた経験値の高さからか、マチエママの話は沁みる。だからこそ10年以上も通う常連がいるのかもしれない。
そんなマチエママの元気の素はカラオケ。歌うのも聞くのも好きだと言うので、小林さんが2曲目として『津軽海峡・冬景色』を歌い、マチエママに応える。
昭和レトロな京成立石を体感するなら急ぐべし
歌い終え、ひと息ついた小林さんに『サファイヤ』の印象を聞いた。
「初めてこのお店に来た時、辿り着けなくて歩いている人に場所を聞いたら、ここの常連さんだったんです(笑)。しかもお店まで送り届けてくれて。きっとマチエママがやさしいから、集まるお客さんもやさしいんだなって」
続けて、こんなこともポツリと漏らした。
「この間、久しぶりにペルーに帰ったら市場がスーパーマーケットに変わっていて。街が変わっていくのは、仕方がないとは言え、寂しいですね」
実は京成立石も他人事ではない。京成立石駅周辺は再開発が進んでおり、いずれ線路は高架化し、駅前にはタワーマンションが誕生する予定だと言う。レトロな風景が見られるのはあと数年だ。
昼の『サファイヤ』も良いが、夜も営業している。昼間にのんびりと京成立石を散策したあと、終点に『サファイヤ』を訪れても良いかもしれない。
【サファイヤ】
問い合わせ先
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サファイヤ TEL:03-3695-6000
住所:東京都葛飾区立石1-11-7
営業時間:昼の部12:00〜16:30、夜の部19:00〜24:00
定休日:火曜、第3月曜
メニュー:昼の部ソフトドリンク2杯+お茶菓子¥1,000、ビール1杯目¥1,000・2杯目以降1杯¥500、ウーロンハイ、ハイボールなどのアルコール類1杯目¥1,000・2杯目以降1杯¥400、カラオケ1曲¥100
- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター
- PHOTO :
- 小倉雄一郎