人生を旅した紳士たちの個性と知性にオマージュ!
飛行機やクルマを駆り英雄的に行動した詩人ダンヌンツィオその美意識を継いで

数々の女性遍歴、デカダンかつ美しい詩や小説、そして自ら私兵を率いてのウィーン上空飛行やフィウメ占領などのイタリア至上主義的な軍事的冒険。そのスタイリッシュな装い以上に、ガブリエーレ・ダンヌンツィオ(ダヌンツィオ)の生の航跡は華麗極まりない。
ルキノ・ヴィスコンティは映画『イノセント』でダンヌンツィオの世界観を赤と黒、そしてゴールドの色合いで表現した。そこで、ダンヌンツィオに触発された書斎には、赤の壁を選択。デスクや椅子、デスクライト、さらにスピーカーなどには、イタリアの工芸性をコンテンポラリーデザインに昇華した品々を配している。
机上には、イタリアのステーショナリーとともに、ダンヌンツィオが一時滞在したパリを代表するエルメスの、クラフツマンシップを感じさせる製品を選んだ。模型やパイロットウォッチなどは、飛行機やクルマを愛好したダンヌンツィオと自らを重ね合わせる依り代といえる。
音楽と演劇を愛し言葉や絵で表現した美の求道者コクトーの好奇心溢れる机上

若くして詩人としてパリの社交界に颯爽と登場し、詩作や文学のみならず演劇やバレエ、映画、そして絵画に至るまで広範に活動を行ったジャン・コクトー。
ダダイズムやシュルレアリスムが時代の前衛となる中で、それらとは一線を画す高踏性を備えて、独自の美を表現していた。現存する彼の家には、ジャン・マレーが設置したと思しき簡素な作業テーブルがあり、据え置かれた黒板にはピカソら友人たちの写真がランダムに貼られ、言葉や絵などが書き付けられていた。そんなコクトーの自由な感性、そして創造性豊かな日々に思いを馳せる机上。
コクトーよろしく、パステルで気の向くままデッサンを楽しみ、友人たちの写真を撮り、音楽に耽たん溺できする。コクトー作品に時折現れる半獣半神(人)のニュアンスは、いくつかのオブジェに反映されている。ジャン・プルーヴェの椅子からは、実用的ながら、どこかフランスのエスプリが薫る。
釣りや狩りを楽しみ行動する作家だったヘミングウェイ文体にも似た簡潔さ

行動する作家だったアーネスト・ヘミングウェイ。彼が遺した作品群は同時に彼の人生の軌跡といえるかもしれない。その持ち物は活動的で実用性を備えたものが多かった。
たとえばスミス・コロナのポータブル・タイプライター。折りたたんでコンパクトにすることができ、携帯性を高めたこのタイプライターを、ヘミングウェイはマシンガンを撃つごとく打鍵したといわれる。そんなスミス・コロナを中心とした机周り。
もっとも進取の精神に富んだヘミングウェイが現代を生きたならば、スマートフォンで作稿したかもしれない。だからこそロレックスの『オイスターパーペチュアル』は現行モデルを選ぶ。他方ヘミングウェイが生きた時代は、アメリカが輝いた時代でもあった。ミッドセンチュリーのアメリカンファーニチャーは、現代から見ても簡素な美を備え、彼の文体にも通じる存在感がある。さらに各所には、彼が愛した釣りや海を想起させる品々を。
読書し、絵を描き苛烈な仕事とは対照的な緩やかな時間が流れるチャーチルの空間

戦禍を恐れ、独裁者に対して宥和的な政治家たちを「ネバー・サレンダー」と一喝したウィンストン・チャーチル。ナチス・ドイツと戦い抜いた強靱な精神力とは対照的に、そのプライベートは温厚かつ豊かなものだった。郊外の邸宅で、絵や読書、ときにレンガ積みなどのDIYを楽しんだチャーチル。そんな彼を範とする机上には、まずポータブルな油絵の道具を。
愛国精神あふれるチャーチルに倣い、アイウエアや小物類は英国のプロダクトを選ぶ。彼のトレードマークであるシガーも、机上を彩る大切なアイテム。シガーグッズも含めクオリティを追求して、ダビドフを選んだ。絵は人物より風景画を得意としたというチャーチル。
世智にたけた人間ばかりが跋扈する政界から距離を隔てリフレッシュするならば、それも然しかりだろう。英国らしいボタニカルモチーフの壁紙や掛けられた風景画は、そんな彼の心情に寄り添うものでもある。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2018年春号より
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- クレジット :
- 撮影/神林 環(静物)スタイリスト/中林友紀、齊藤知宏 文/菅原幸裕