グランドツーリングとは、若き英国貴族が見聞を広め、その地位に相応しい品格と知見を併せ持つことを目的として、19世紀に行われていた、グランドツアーにその源流を見ることができる。欧州大陸は長きにわたり、多くの王侯貴族がしのぎを削り、その班図は時代とともに、何度となく塗り替えられてきた。
19世紀も半ば過ぎに、ようやく統一されたイタリアだが、キリスト教布教後、現在へと続く欧州文明を花開かせたのは、ローマ帝国にほかならず、それゆえ、かつての欧州首都を擁するイタリアへのグランドツアーは、欧州辺境の国、イギリスの支配層に取って、欠かすことのできない通過儀礼だったのだ。
真の北海道を知る旅へ!
ところで、現代の日本国内であっても、身に着けるべき経験と知識を得る旅は、十分に成立する。例えば北海道だ。2019年は、蝦夷地と呼ばれた北方の地が、北海道と命名されてから151年目にあたる。アイヌモシリの地であった北海道は、本州以南とは別の文化を持っているし、津軽海峡を境にしたブラキストンラインで隔てられた生物相もまた、道外の旅人の眼に新しく映る。
稀代のグラマラス・ビューティを北海道で堪能!
国内における“異国”を探すことは、かつての英国貴族が諸外国の実相を体感し、英国貴族のアイデンティティを確立した過程と軌を一にする。大げさに聞こえるかもしれないが、日本国内でグランドツーリングが成り立つとしたら、単に長距離を走るということでなく、ひとつの国の中にある、様々な違いを体感することにあると思うのだ。
そのために必要なクルマは、なんだろうか。グランドツーリングカーといえば、流麗なクーペや、ラグジュアリーなセダンという選択肢が王道だが、ここはあえて、SUVを選択したい。それも、飛び切りのゴージャスなクオリティと、あらゆる天候や道路状況に対応できる安心感、どれだけ走っても疲れひとつみせないしなやかな足回りと強靭な心臓。マセラティ レヴァンテSにとどめを刺す。
マセラティ初のSUVとして2016年に登場。すでに好評を持って迎えられ、ガソリン2種、ディーゼル1種のラインナップを揃えているレヴァンテ。都心ではよく見かけるようになったが、ポルシェ・カイエンをしのぐボディサイズは、都内の狭い道ではいささか持て余し気味。もちろん、その圧倒的な存在感こそがほかにない価値ではあるのだが。このグラマラス・ビューティを、十分にポテンシャルを発揮するフィールドで、もっとのびのびと走らせてみたいと思い、北海道を目指した。
美しき「幻の橋」に向かう
最初の目的地は、道東・中央部に位置する上士幌町。ここには、冬から春にかけて姿を現し、夏場はダム湖に沈む幻の橋として知られる、タウシュベツ川橋梁がある。
タウシュベツ川橋梁とは、1925年から1987年まで存続した旧国鉄士幌線で使用されていたコンクリートアーチの鉄道橋で、季節によっては、糠平湖の水位上昇により、水中に没することから、幻の橋と呼ばれ、近年の人気スポットになっている。
レヴァンテの窓からローマが見える……!?
橋梁へのアクセスは十勝西部森林管理署東大雪支署が管理する、糠平三股林道を通る。この林道の通行は、上士幌町の上記支署に出向き、林道走行上の危険性等について理解したうえで、所定の手続きによって、通行が認められる。もちろん、未舗装道路だ。
表参道あたりを悠然と走るレヴァンテからは想像もつかないような、ワイルドなルートだが、このクルマは単なる見掛け倒しのラグジュアリー・カーではない。オフロード走行にモードを切り替えると、車高が自動的にアップ、サスペンションもステアリングもオフロード走行に適した、レスポンスに最適化され、未知の林道を苦も無く進むことができた。
オフロードさえも快適なクルージングに変える、マセラティのAWD技術
ボディ幅が2メートル近い巨体ではあるが、見通しの良い着座位置からは、対向車の視認も的確で、マッディな路面も深いわだちあともぶれなくクリアできたのは、ボディサイズゆえだろう。軽量級の4WD車ではバンピングしてしまうような路面でも、安定感のある挙動が頼もしい。
タウシュベツ川橋梁を堪能した後は、糠平湖の脇を走るワインディングへと歩みを進める。オンロード走行では、まったく性格を変えてくるのが、レヴァンテの妙味。紳士然とした走りは、先ほどまでのワイルドなイメージとは打って変わったジェントリーさで、今夜の宿泊地、星野リゾート トマムへと向かった。
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- EDIT&WRITING :
- 神山敦行