日産スカイラインと聞いて心踊る人は、かなり少なくなっているはずだ。日本のモータリゼーションにとって欠かすこのできない名車だが、最近はすっかり影が薄れてしまっている。先日もトヨタのマークXが生産中止を発表したとおり、国産車のこのカテゴリーでの存在感は寂しい限りである。

この夏、マイナーチェンジが施されたスカイラインだが、昨年の登録台数は2,576台。この実情に対し、今回の最新技術搭載と、内外装のデザイン変更という“ビッグマイナーチェンジ”は、どれほどの影響を与えたのか?

よりスカイラインらしいデザインに刷新!

今や別のラインアップとなっているが、GT-Rっぽさが漂う。これ大事!
今や別のラインアップとなっているが、GT-Rっぽさが漂う。これ大事!
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まずはもっとも目立つフロントマスク。これまでの北米市場を中心に展開している日産のプレミアムブランド、インフィニティ・Q50と同じフロントグリルをやめ、「Vモーショングリル」と呼ばれる日産フェイスで統一感を出している。フロントグリル中央にはインフィニティではなく、日産エンブレムが付く。GT-Rの顔にも似て、雰囲気はなかなかいい。また、LEDリアコンビネーションランプは、スカイラインではおなじみだった丸形4灯式をモチーフとしたデザインに変更となり、伝統を強調している。サイズは従来型とほぼ同じで、全長が5㎜短い。

“ビッグ”とはいえ、マイナーチェンジでできることはそれなりに制約があるし、エンジンもハイブリッドモデルのパワーユニットはキャリーオーバー。最高出力306馬力の3.5リッターV型6気筒に、最高出力68馬力のモーターとの組み合わせ。一方、ガソリンエンジン専用モデルとして話題となっているのは、最高出力405馬力、最大トルク475Nmの「400R」。スカイライン史上最強と、一部で話題になっているハイパフォーマンサルーンだが、これはあくまでも固定ファンに向けた設定という意味合いが強い。やはり今回のマイナーチェンジの主役は「プロパイロット2.0」搭載のハイブリッドモデルだ。そう、残念ながら400Rを含むガソリンエンジンのラインアップには、この最新技術は搭載されていない。

スカイラインのテールランプは丸目2灯と信じて疑わない世代は多い(だいたい50代以上)。原点回帰である。
スカイラインのテールランプは丸目2灯と信じて疑わない世代は多い(だいたい50代以上)。原点回帰である。

いとも簡単にハンズオフの世界に

右手だけで設定できる。操作は一度覚えてしまえば簡単。
右手だけで設定できる。操作は一度覚えてしまえば簡単。

さっそく、話題のプロパイロット2.0で試乗に繰り出す。ごく普通に走らせていると、レスポンスの良さなど、やはり良くできたスポーツサルーンだということを再確認できる。だが、今回の目的はそこではない。CMで矢沢永吉が運転中にステアリングから手を離すシーンでも知られている、“ハンズオフ(手離し)”を含めた「プロパイロット2.0」のチェックである。まずいっておきたいのだが、この技術は追い越しや分岐も含めて高速道路や自動車専用道上の走行をアシストする「ナビ連動ルート」走行に、ハンズオフ機能も同時採用した、世界初のシステムだ。

当然、この先には自動運転があるが、現在はあくまでも“運転支援技術”である。レベル0(完全な手動運転)からレベル5まで6段階ある自動運転の定義からすれば、プロパイロット2.0は現在「レベル2」であり、自動運転とは呼ばないことは理解して欲しい。ハンズオフが一定条件とはいえ許容されたことには大きな意味があるが、一方で事故が発生すれば、責任の主体はドライバーにあるということには変わりがない。そしてこのシステムは高速道路や自動車専用道での使用を前提としており、一般道での使用は想定していない。

ナビに目的地を設定したうえで、ハンドルの右側スポークにある青い起動スイッチを押す。これで一定の条件は付くが「前車追従機能付きのクルーズコントロール」と「同一車線内走行を行うレーンキープアシスト機能」が作動する。つまり運転支援の開始だが、このシステム作動の間、ハンズオフが許されたことが「プロパイロット2.0」の注目点である。ただし対面通行やトンネル区間、合流地点などいくつかの状況下ではカットされる。

メーター内にはハンズオフの作動状態が、3種類のハンドルアイコンで表示される。

1.ホワイトは「車間と車速の制御のみが作動、ドライバーが操舵する必要があり」
2.グリーンは「従来のプロパイロットと同様、ハンズオンでの車線内走行が可能」
3.ブルーは「ハンズオフでの車線内走行が可能」

いつでもどこでもという訳ではなく、クルマ側が判断してドライバーに状況を知らせてくれる。

作動状況をメーターパネル内にわかりやすく表示。
作動状況をメーターパネル内にわかりやすく表示。

自分でやったほうが早いけれど技術は素晴らしい!

コンソール周りはオーソドックスなデザインだが、高精度ナビシステムなど搭載される装備は最新レベル。
コンソール周りはオーソドックスなデザインだが、高精度ナビシステムなど搭載される装備は最新レベル。

ブルー表示でハンズオフを試す。まだシステムを完全に信用しているわけではないので、周囲を確認しながらハンドルから手を離す。すると車線のセンターをビシッとふらつくことなく走り続ける。ベースとなっている「プロパイロット」にも、ハンズオフにはできないものの、車線内を維持しようとする機能はあった。ただし、けっこうフラフラする制御が気になったのだが、今度は斜線内を、それもハンズオフできれいにトレースする。

次は車線変更。前方に遅い車が走行しているときに「追い越しますか?」と、システムが提案をしてくる。そこでステアリングに手を添えて専用のスイッチを押して“承認”すれば自動でウィンカーを出し、車線変更を開始。追い越し完了後には、また承認することで元の斜線に戻ることができる。だが、これは残念ながらハンズオフのままではできないため、手を添える必要がある。はっきりいって、自分でやった方がずっとスムーズで楽だ。ただ、後方から追い越し車線を走ってくる車両なども常に見ているため、ドライバーの安全確認を支援してくれるという点では十分に価値がある。360度にわたって、常に周辺を見てくれているのは心強い。

こうした技術を可能にしたのは、日本初となる「3D高精度地図データ」を利用したことにもある。一見ごく普通のカーナビだが、この高精度地図データを使うことで前後1m、左右5cm程度の高精度を実現。従来のGPS利用では誤差10mといわれているから、その精度の高さを理解できるはず。これに合計7個のカメラ、5個のレーダー、12個のソナーによる検知範囲が加わるわけだから、運転支援への信頼感は確実に高くなる。ただ高精度マップがカバーしていないエリアではハンズオフは使えないし、年に何回か行われる自動の地図データのアップデートには、年間2万2000円(税別)というプロパイロットプランの更新料が必要になることは了解しなければいけない。

十分とはいえないほどの試乗時間内では、まだドライバー監視カメラによる脇見運転などの警告も試せていない。それでもACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)として優れていた従来型のシステムと比べて、今回の「プロパイロット2.0」は単純にハンズオフ機能を加えただけではないことがわかった。まだ運転支援のレベルにはあるが、ハンズオフを社会的に許容できるレベルまで仕上げてきた日産の技術は評価されるべきだ。

そして今、ビッグマイナーのスカイラインは受註初期とはいえ、「プロパイロット2.0」に対する期待もあってか、販売計画の9倍近い台数を受註しているという。久し振りに国産セダンにとって明るいニュースになっているし、もっとじっくりと使って見たい、乗ってみたいと思える1台だった。新しい技術への期待と、それを試してみたいという欲求。そんな好奇心でいっぱいのモダン・ジェントルマンなら、スカイラインはきっと楽しめる。

全方位センシング情報や「プロパイロット2.0」の作動状態など、様々な情報を表示。
全方位センシング情報や「プロパイロット2.0」の作動状態など、様々な情報を表示。
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<日産・スカイラインGT>
全長×全幅×全高:4,810×1,820×1,440㎜
車重:1,840kg
駆動方式:FR
トランスミッション:7速AT
エンジン:V型6気筒DOHC・3,498cc
最高出力:225kw(306PS)/6,800rpm
最大トルク:350Nm/5,000rpm
モーター最高出力:50kw(68PS)
モーター最大トルク:290Nm
価格:¥5,575,900(税込)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。